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モリアミ

第1話

『進化とは何か、私がそう問われたなら答えは単純である。進化とは多様化である。原初の生物と今日の人類とを比較したとき、人類という単一種族の多様性を感じるだろう。しかしながら、我々は今、その多様化の終焉を迎えようとしている。現代の潜在的な問題の一つである地球環境の変動、我々の社会は地球環境の維持へと舵を切った。環境変化は生物の進化の大きな要因であり、人類という種族の生化学的な進化は、もはや無いと言っても良い。それは一概に悪いことでは無い。だがしかし、我々は今新たなる多様化へと、進化へと向かう岐路の前にいるのである。それは生化学的な多様化では無い、科学技術による種族の多様化への道である。シンギュラリティ、AIの進化を危険視する声は多い。それはAIが人類を超越した存在だと考えるからだろう。何れはそうなるかもしれない、しかしそれは、何ステップも先のステージであり、そこに至るまでに大きく重要な一つのステージがある。AIは人間になるのである。自分たちと違う種族に直面することに恐怖するのは、生物の性かもしれない。しかし、何れ人間へと進化を遂げるAI、そのAIを新しい人間として受け入れることは、人類という種族の多様性を拡張する新たなる進化の形となるのである。私達が開発を進めているAlice-A life improvement common essentialsは、数あるAIの中でも人間に近くことを目指している。それは、コミュニケーションを主目的としているからであり、そしてまた……』

「所長、読書中に申し訳ありません。そろそろお客様がいらっしゃる時間です」

 トレントは1世紀以上前に書かれた本をデスクに置いて、助手の呼び掛けに応える。

「もうそんな時間か、まぁ少し遅れてくるだろうけど。マロリー、お湯を沸かしてくれるかい?」

「所長は何かお飲みになられますか?」

 助手はトレントの意図を察し、お茶の準備を始める。

「依頼人が来てからで良いよ、とりあえずコーヒーで良いと思うけど、どうだろう?」

「電話越しでお話しただけですので、相手の好みまでは……」

 助手は得意の澄まし顔のまま肩を竦める。そして約束の時間を3分程過ぎた頃、事務所のベルが鳴った。

「こちらがトレント探偵事務所ですか? 中々素敵ですね、羨ましい。」

 助手が案内してきた男はぐるりと事務所を一瞥し、最後に助手の顔見ながらそう言った。中折れ帽にトレンチコート、如何にもといった風貌の男だが、事務所の内装とマロリー、果たしてどちらを素敵だと表したのだろうか?

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