奇海 -腐海 2-

遠野麻子

序 

 私・帚木司ははきぎつかさの知り合い、垣井鞠絵かきいまりえさん。彼女は古本屋を営む一方で、霊能者としても仕事をしている。

 とはいえ、どうやらそちらであまり稼ぐことはできないらしい。能力が足りないのではなく、それだけで生活できるほどの収入を得ることを「許されていない」そうだ。誰に「許されていない」のかは、彼女は曖昧あいまいに濁し、答えてはくれない。


 彼女の店の名は「奇海堂」という。名字のアナグラムだそうだ。「怪奇」の「奇」がついているのには理由がある。その店はオカルト本が9割を締めている、いわばオカルト専門古書店なのだ。

 もともと、彼女の父がオカルト好きで、そういった書籍を買い集めていたらしい。鞠絵さんが生まれる前から集められていた本は膨大な量で、亡くなった頃には書斎から溢れて別の部屋にも書棚が置かれるほどだったそうだ。

 父の死後、それらの本をどうするかという課題があった。売るにしても余りにマニアックで買い手がつきそうにない。しかし、母はこれを機会に単身者向けのアパートに移りたいとのことで、本の処分に悩んでいたそうだ。

 そこで鞠絵さんがインターネットで少しずつ売り始めたところ、意外にさばけた。当時は会社員だった鞠絵さんだったが、インターネット販売と並行して店を開いたところ、こちらも意外と客がついたという。

 そういうわけで今では会社は辞め、古書店主を生業にしているのだ。


 これから語る物語は、彼女・鞠絵さんの元に寄せられた相談や、彼女が見聞きしたことになる。

 「小説」としての体裁を整えるため、彼女のことは「鞠絵」と記述することにしよう。そして、私は第三者としてそれらの物語を綴る。彼女が語った奇怪な物語。これらの物語にも「私」は登場するが、「私」は「私」としては登場しない。あくまで第三者として物語が進むことをご容赦願いたい。

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