026 フレイア先生の日記。
〇月✕日
今日、お姉ちゃんから連絡があった。
しばらく『ギルバディア』に残るらしい。
どうもギルバート家の嫡男が『闇属性』を発現させたんだとか。
もう! 希少属性が凄いのは分かるけどさ!
ほんとお姉ちゃんは勝手すぎるよ!
子供の頃からずっとそう。
普段はめちゃくちゃ要領がいいくせに、魔法のこととなると途端にこれなんだから。
未だに私の家に居座ってるしさ……。
別にいいよ!
私のこと都合のいい召使いくらいにしか思ってないだろうし!
あーせいせいする!
……でも、ちょっぴり寂しい。
絶対に言わないけど。
〇月☆日
毎日のようにお姉ちゃんから手紙が届く。
それ自体はとっても嬉しい。
嬉しいんだけど……その内容はだいたいいつも同じ。
ルーク君はすごい、とか。
アリスちゃんすごい、とか。
闇魔法ハンパない、とか。
ずっと、ずーっとこんな感じ!
分かったよもう!
それとさ、半分以上『ヤバい』で埋め尽くされたものは手紙って言わないから!
さっさと帰ってきなさいよこの魔法バカー!
♢月〇日
お姉ちゃんが『ギルバディア』に行ってから約1年、やっと帰ってきた。
やったー!
……うん、それは良かった。
なんだかんだ寂しかったから。
でもさ……帰ってきてそうそう『3年くらい教師やることにしたからよろしくねー』って何ッ!?
いやいやいや。
急すぎるにも程があるでしょ!
……はぁ、我が姉ながらその自由奔放さにはほんと呆れます。
何となく分かるよ。
どうせ、その闇属性を発現させたルーク君って子が原因なんでしょ。
もう……受験もまだでさ、本当に受かるかも分からないのに気が早すぎるよお姉ちゃんは。
それに、一応うちはすごい魔法学園なんだよ。
なりたいって言って教師になれるほど甘くは……いや、なれちゃうんだろうな……お姉ちゃんなら。
なんだかんだ、私のお姉ちゃん『アメリア』は──『魔法騎士』にまで登りつめた凄い人だから。
家ではあんなにぐーたらしてるのに。
好きなことにはほんとどこまでも真っ直ぐで、一切の妥協をしない。
そういうところだけは心から尊敬しているよ、お姉ちゃん。
△月△日
今日はアスラン魔法学園の受験当日。
うん……ルーク君、ほんとすごかった。
お姉ちゃんがうるさいくらい毎日話すもんだから気になってたんだけど、あれなら確実に受かってると思う。
魔法自体はあまり見られなかったのは少し残念。
いい属性を発現させても、それを使いこなす魔法の才がなければ意味がない。
でも、いるんだよね。
どっちもとんでもない才能を持っている特別な人って。
お姉ちゃんがまさにそうなんだけど、ルーク君もそのタイプだと思う。
ただ……最初からなんでもできちゃう子ほど、意外と打たれ弱かったりするから心配なのよね。
いや、だからこそ私たち教師が支えてあげなきゃいけないってもの!
よし! なんだかやる気でてきた!
……でも私、子供大好きなのにめちゃくちゃ緊張しやすくて、どうにも堅苦しい感じになっちゃうんだよね未だに……。
なんか、クールぶっちゃうというか。
学園での私のキャラ、もうそれで固まっちゃっているという悲劇……。
ううん、弱気になってはダメよフレイア!
今年こそ! 今年こそはもっと生徒に寄り添い、気軽に何でも相談できるような先生に私はなるんだから!
こうして、私の担任デビュー計画が始まったのである。
……なんてね。
✕月#日
ついに、ついに、ついに!
1年の担任教師をすることになった!
やったー!
めちゃくちゃ嬉しいんですけどー!
憧れだったんだよね、担任教師。
本当に嬉しい。
……でも、不安もあるのよね。
とっても厳しいしこの学園。
なんといっても序列制度のせいで、みんなすっごく殺伐としちゃうし。
毎年、必ず一年目で転校しちゃう子がでてきちゃうんだよね……。
うわぁー、考えたらどんどん不安になってきたぁ。
私にできるのかなぁ。
生徒に話しかけられたら、未だにめちゃくちゃ緊張しちゃって口調とかも凄く堅苦しい感じになっちゃうのに……。
不安すぎる。
なんか盛大に失敗しそうな気がする。
参考にならないだろうけど、お姉ちゃんに相談してみよっと。
◎月〇日
……明日だ。
いよいよ明日、新入生の登校初日。
ふ、不安すぎる……。
なんか今日そればっかり考えていたせいか、学園でも小さな胃の痛みをずっと感じてた。
凄く痛いわけじゃなくて、ずっと小さな痛みを感じ続けるタイプの地獄。
助けてお姉ちゃん。
いや、いつも快眠そうで羨ましいことです。
ちょっとは不安がってよね……。
お姉ちゃん、人に何かを教えるのお世辞にも上手いとは言えないんだから。
天才って嫌だよねー。
なんでも感覚で理解しちゃうんだから。
子供の頃お姉ちゃんに勉強見てもらったり、魔法を教えてもらったりしたことあったけど……本当に何一つ分からないんだもん。
勉強の方は情報量が多すぎ。
周辺知識やその発展的内容も一気に教えてくるから頭がパンクしかけるの。
魔法に至ってはさらに最悪。
なんか『ここはグワンッだよ! シュルルンじゃなくて!』という擬音語の応酬。
なんなの本当に。
その感じでなんで論文は書けるの。
天才の感覚だけは一生わからないよ。
はぁ……我が姉ながら未知の生命体すぎる。
でも、お姉ちゃんのこと考えてたら少しだけリラックスできたよ。
ありがと。
◎月✕日
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
本当にやばい。
今日、担任としての初日。
いきなり序列戦をやった。
ルーク君とアベル君。
序列一位と最下位の二人。
それがとにかくやばかった。
まず……なんで2人とも剣で戦うの!?
そこから意味が分からなすぎ!!
いや、アベル君の場合は理解できるかな。
強化魔法の重ねがけ。
未知の塊のような子。
本当にすごいよ。
でも、まだ魔法に振り回されている感じがあった。
動きが直線的すぎ。
剣に対する魔力纏いもできてない。
これはいずれ魔道具で補えるとしても、魔法を斬る『断魔』もできていないのは致命的。
その剣士としてのスタイルを確立するなら絶対に必要。
うん、課題がたくさん。
でも楽しみ。
アベル君、そしてルーク君はいずれ『魔法使いは魔法のみで戦う』という大きな流れを変えてくれる気がする。
そう、いうなれば『魔法剣士』かな。
あとルーク君。
この子は……やっべぇ。
本当にとにかくやっべぇ。
課題は多いけど、アベル君の『速さ』はとても脅威。
目で追えなかった。
私なら超広範囲の魔法で迎撃する。
いや、それができる属性魔法使いなら誰であってもそうすると思う。
どんなに速くても、逃げる場所をなくしてしまえばいいから。
なのに……ルーク君は剣で迎撃した!!
しかも何の強化もなく!!
もう意味が分からない。
剣を知らない私でもさすがに理解できる。
ルーク君のそれが並々ならぬ技だってことくらい。
そして最後に見せたあの闇魔法!!
もう凄すぎて一瞬放心してしまったよ!!
お姉ちゃんから聞いてはいた。
闇は『吸収』という特性を持つって。
だけど、あそこまでなの!?
全力で魔力操作してなんとか抵抗したけど、半分くらい吸い取られた。
“魔法障壁”を展開していた魔道具も全部壊れちゃったし。
お姉ちゃんがこの子に固執する理由がわかった気がする。
だって、一目で分かるくらい特別な子だもん。
はぁ……でも怒られるだろうな……。
なんかその場の勢いに任せて序列戦の許可だしちゃったし……。
あ、あと担任デビューは盛大に失敗しました。
今年もクール先生キャラでいきます。
……憂鬱。
◎月☆日
授業が始まって数日たった。
なんというか、すごく順調。
寮でも仲良くやってるようだし。
序列がある以上、周りは皆ライバルでしかない。
でも、同級生とは協力しないといけない側面もあるのよね。
積極的に情報共有して高め合わないと、絶対に上級生には勝てないから。
まあ……いつの年も例外はいるんだけど。
それよりも、明日はミアさんとロイド君の序列戦がある。
一年生にとっては、国民に観られた状態で行う初めての正式な序列戦。
不安だろうなぁ。
何か私にできることはないものか。
というか、私は一年生の段階で序列戦を行うのは反対の立場なのよ。
絶対に二年生からでいいと思う。
まずは心を育てるべき。
そうすれば一年目で転校しちゃう子も減るよ。
……私ごときじゃこの学園のシステムを変えられないのが悲しいところ。
でも、ミアさん! ロイド君!
どちらも頑張れ!
応援してるからね!
◎月♢日
序列戦の結果、ロイド君の勝ち。
ミアさんは三属性を発現させた紛れもない逸材。
ポテンシャルの高さは決してロイド君に劣っていない。
でも、今回は精神面の強さが大きくでたね。
結果だけ見れば呆気ないものだったけど、内容はとても良かったと思う。
きっと、この経験は二人を大きく成長させてくれる。
ロイド君は戦闘が上手いね。
三属性を扱えるミアさんよりも、どうしても選べる選択肢が限られてくる。
だから、何かさせる前に圧倒的火力で制圧する。
シンプルだけど最適解だと思う。
とても理にかなっている。
ただ……ミアさんは心配。
おそらく、彼女にとっては初めての大きな挫折。
大丈夫かな。
声をかけようかとも思ったけど、今日はそっとしておいた。
今は何を言っても彼女の心には届かないと思ったから。
でも、明日は声をかけてみようと思う。
◎月□日
終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった、終わった。
今日、ミアさんが魔法修練場の使用許可を取りにきた。
立ち直るの早いなー、と思ったの。
当然気になって見に行ったの。
そしたらさ、ルーク君がいてミアさんと何か話してた。
声までは聞こえなかったけど、普通では無いことは分かった。
だって、途中でミアさんが泣き出してルーク君に縋りついたから。
好奇心に抗えず夢中で見てたら、ルーク君がこっちに歩いてきたの。
パニクって慌てて掃除用具入れのロッカーに隠れたのが運の尽き。
バレた。
そして動揺しすぎた私は──
『掃除用具を入れるロッカーに教師が隠れている。その蓋然性はとても高いとは言えないが、決してゼロではない。そこにこれ以上の事実はなく、これが現実であり真実なのだよ』
……という、自分でも本当に意味の分からない謎発言を残して去ってしまった。
あああああああ!!
私のイメージがあああああああ!!
明日からどんな顔にして学校に行けばぁぁぁお姉ちゃん助け──(文字が乱れて読めない)
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