ミスで、隣の席のめがね女子のスマホと無線イヤホンが繋がってしまった。そしたら、めっちゃえっちな動画見てたんだが!? さらに、彼女が最推しの姉だなんて聞いてない

未(ひつじ)ぺあ

第1話 全てはミスから始まった

無線イヤホン。


簡単に言うと、ケーブルいらずであり、無線でデバイスと接続できるイヤホンのこと。最近これを持つものが急激に増えている。

試しに、高校へ通学する時に周りの人の耳元をみると、十人に七人は無線イヤホンをつけているのだ。それくらい、無線イヤホンはトレンドである。


「この最新型、やっぱ低音がいいんだろうな……買い換えて正解だな」



俺、加屋宙斗かやそらともその一人だ。


俺のステータスを言っておこう。

高校二年、彼女なし。友達はいるが、親友はいない。差し障りがない程度にクラスメートと触れ合っている、的なやつだ。成績も中の下くらい。

まあ、俺のステータスはそこまで悪くないだろう。


今は放課後、部活などの関係で、教室はがらんとしている。


強いて言うのなら、隣の席に、存在感が薄いめがね女子が座っているくらい。俺は心置きなく椅子の背もたれにもたれ、


「ふっふっふ……どんな音質か楽しみだな……」


ポケット内であたためられていた、昨日買ったばかりの無線イヤホンを引っ張り出した。

取り出すなり、俺はケースを念入りに眺めまわす。周りから見たら、完全に不審者だ。


「傷は……ないな。よかった、二万円がパーになるところだった……」


俺のおこづかいたちが昨日、一斉に羽ばたいていったことに涙をこらえながらも、俺はイヤホンケースに頬ずりする。


バカ高いのにも関わらず、超高性能、最新型の無線イヤホンを買った理由は、明確だ。


あめちゃんしか勝たんっ!! 天ちゃんこそ神っ!!」


推し活。それに尽きる。

天ノ川天あまのがわあめこと天ちゃんとは、最近、最も人気のアイドル。なんと俺より年下の15歳。顔はびっくりするくらい小さくてかわいく、高一とは思えないくらい、ぼっきゅっぼんのナイスボディだ。


「俺より年下、最高にかわいい、スタイル抜群。それに……」


スマホをつけると、壁紙にしている天ちゃんの姿が映し出された。トレードマークであるツインテールに、揺れるミニスカート。ライブでマイクを握り、幸せそうに歌っている様子だ。

俺は、推しの最大の魅力を、大きく息を吸って叫ぶ。


「歌が、上手いっ!!!!!」

「きゃっ!?」


俺が叫ぶと、隣のめがね女子がびくっと体を震わせた。


「す、すみません……」

「い、いえ……」


俺が慌てて頭を下げると、めがね女子はさっと顔を背け、小さなケースを片手にスマホに向き直ってしまう。


俺は申し訳なく思いながらも、そろそろと視線をスマホに戻した。途端、壁紙の天ちゃんの姿が目に映り、テンションが爆上がりする。

天ちゃんは、とにかく歌が上手いのだ。かわいくてそれでいて透き通っていて、この世のものとは到底思えない。

無線イヤホンを買い替えた理由……そんなの、天ちゃんの歌声を聞くために決まってるじゃないか! この一択!!


「ふっふ……昨日、天ちゃん歌ライブがあったんだよな……アーカイブ残ってるし、早速イヤホンを試してみますか……ふっふっふ……」


俺は高揚しながらも、無線イヤホンの電源をつけた。その時だ。



「『天川雫あまがわしずく』のスマホと接続されました」



……ん???


俺は、無線イヤホンから流れてくる無機質な声に、首を傾げた。



「あ、あれ……」


隣の席のめがね女子が声を上げ、俺は慌ててそちらを見た。


めがね女子の名は確か、天川あまがわしずく……だったと思う。先程の罪悪感と共に、俺は天川を観察する。

ずり落ちそうなめがねをかけ、二つに編み込まれた黒髪は、綺麗に整えられている。しっかり見たことはないが、目がぱっちりしていて、顔がとても小さい。と思う。

授業にはいつも真面目に取り組んでいて、休み時間は読書をしているイメージだ。


そんな天川との関係はというと、朝挨拶を交わすか交わさないかくらいのものだ……なんてつまらない。


「音……聞こえない……?」


天川は無線イヤホンを両耳に入れ、首を傾げた。どうやら、無線イヤホン初心者らしい。

よく見ると、その無線イヤホンは、俺の新しい無線イヤホンと同じ機種らしい。


「よいしょ……」


天川がスマホをいじるなり、ぴこん、とイヤホンから音がこぼれ、俺は肩を跳ねさせる。


まだ俺のスマホと無線イヤホンは繋げてないのに……も、もしや?!


「やっぱり聞こえない……」

「え、いや、あの!!」


凄く嫌な予感がし俺は、スマホとにらめっこをする天川に声をかけようと、手を伸ばす。


「新しいのだったのに……早速壊れちゃったかな……」

「あ、あの」

「とりあえず再生してみるか……」

「ちょちょちょ!」


さらに嫌な予感に見舞われ、俺は慌てて天川を止めようとした。


先程聞こえた音声、「『天川しずく』のスマホと接続されました」を思い出す。これ……天川のスマホ、俺の無線イヤホンと繋がってません!?


俺の無線イヤホンの機種は、販売されている無線イヤホン全てに、大体似たような名前がついているようなのだ。

安直だが、例えば、『Y1111』と、『Y1112』とかだ。大抵、数字が少しずれているとかで、名前に大差はない。

つまり……同じ機種の無線イヤホンだった場合、間違えて繋げてしまう確率は……十分に、ある。


「天川さん!!」


声をかけるが、無線イヤホンにノイズキャンセリング機能がついているせいか、全く気づかない模様。これは……まずい!


慌てる俺を置いて、天川は画面をタップした。


途端に漏れ出す音声に、俺は口をぱくぱくとさせる。


『こ、こんなとこじゃ、ダメだよ……先生』

『誰もいないし、大丈夫だよ、ほら』

『せ、先生っ……ん』

『全部脱いで』


「すとおおおおおっぷ!!!」


俺は絶叫し、周りの生徒がぎょっとして見てくるが……それどころじゃない!!

真面目そうな天川さんが……ええええっちな動画を……!?


『んぁ……んっ』

『かわいいよ……そのまま』

『あ……っあぁあっ、ひぁうっ!』


喘ぎ声が激しくなり、俺は頬を真っ赤にしながらも、慌てて手を伸ばした。


「天川さん!!」

「ひ、ひゃいっ!?」


天川の肩を叩くと、天川は、寝ていた犬に触れた時みたいに、びくっと身を震わせた。

光の速度で動画を止め、目を泳がせ、頬を真っ赤にさせながらも、平常心を装った風にして俺を見る。


「な、なな、なんでしょう……」

「あ、あのだな……」


き、気まずい……ッ!!!

俺はおどおどしながらも、なるべくオブラートに包もうと試みる。



「俺の、む、無線イヤホンが……天川のスマホと繋がってたみたいで……それで、その、動画が……」



「へ……ひ……ひぅ……!?」


天川はしばらく、俺と自分のスマホを見比べ。

――そしてみるみる内に、ゆでダコのように、顔を真っ赤に染め上げた。


「う、う……嘘……っ」

「……は、はは……」



天川はしばらく硬直していたが、我に返るなり手をばたばたと振り回し、冷や汗をだらだらと流しながらも口を開く。


「あっ、き、気のせいじゃないかな……!? そそそんなえっちな動画なんて、学校で見るわけ……わぅっ」


天川は慌てすぎたのか、スマホをつるりと取り落としそうになり、慌てて掴みなおす。

その慌てっぷりに便乗するようにして、ぴこん、というなんとも無残な音が鳴った。



『あ、ひゃっ!! ダメ、そんな大きな……っ』

『いい子だから、我慢して?』



「「…………っ!!!」」


画面を覗き込み固まる天川と、流れ込む喘ぎ声に固まる俺。



「……」

「……っ」





……今の気持ちを一言。


気まずすぎて、爆発して塵になりたい。





しばらく俺たちは、真っ赤な顔のまま硬直する。


――先に動き始めたのは天川だ。




「……ぅぅっ!」



湯気まで出るんじゃないかというくらい真っ赤になった後、天川はがたっと立ち上がった。

その拍子に、リュックからノートがバラバラとこぼれ落ち、派手に床に散らばる。



「ち、ちょっと!? ノートが! ああ天川さん!?」



俺の声を無視し、天川さんは頬を覆い、勢いよく教室を飛び出していってしまった。

教室は俺だけになり、辺りはしんと静まる。


と、その沈黙を破るようにして、無線イヤホンが音を発した。



「『天川雫』のスマホと接続が切断されました」

「『天川雫』のスマホの位置情報を取得します」



「いっ、位置情報……っ!?」


俺は、追い打ちをかけるようにして流れる、無機質な音声に息を呑む。


位置情報取得機能……そういや、この無線イヤホンはそのような機能がついていたと思い出す。万が一、ペアリングされたデバイスもしくは無線イヤホンを無くしてしまった時、位置情報が検索できるようになっているのだ。


つまり、だ。


もし、天川がこのまま家に帰った場合……天川の家が特定されてしまう……っ!!?



「おお加屋、残ってたのか……ん? そのノートはなんだ?」

「せ、先生……っ!?」


と、超激バットタイミングで、担任の先生が教室に戻ってくる。地面に散らばったノートを見て、眉をひそめている。


俺は真っ赤からすぐに真っ青になる……どう説明すればいいんだ、こんな状況……っ!!


「そのノート……加屋のか?」

「あ、天川さん……の、です」

「なぜ天川のノートが地面に散らばっている?」


なにか揉め事があったのか、と訝し気な視線を俺に向けながらも、担任は俺を見る。

馬鹿正直に、『天川さんがえっちな動画を見てて、それで……』なんて語りだすわけもなく、俺は必死に言い訳を考える。


「なんだ? まさか、なにか揉め事が……」

「い、いえ!! その、天川さんからノートを借りていて! それで、今ついうっかり落としてしまって!」

「……そうか」


俺がノートをかき集めながらもはにかむと、担任は怪しげな視線を向けながらも、教室を出ていこうとする。


「……ふう」


俺が安堵の息をついた途端、担任は去り際に振り返り、言葉を発した。


「では明日、念のため天川に尋ねることにしよう。担任として、大事な生徒である加屋を疑いたくはないのだが」

「……っ!?」


そりゃ、このシチュエーションを見て、俺を疑うほかないだろうよ!!

と今の俺ならそう突っ込めるが、その時の俺はものすごく焦っていた。


担任が立ち去った後、俺はとりあえず、丁寧な字で名前が書かれたノートを机の上に並べる。

国語、数学、地理、自主学習ノート。どれも綺麗に色分けされ、折れ目や汚れ一つもない。

いや、さっき落としてしまったせいか、少しだけ汚れているのは確かだ。


「……そういや、明日、国語のテストがあるんだっけな……」


国語のノートをぼんやりと見ながらも、俺はそう思い出す。

明日は一限目から古文のテストがある。今日の授業では、その最重要ポイントをノートにまとめたところだった。


「……ノート、無いとやばいだろうな」



ぴこん。

「『天川雫のスマホを追跡』をタップ……って」



あああああバカ、何してるんだ、俺!!!!!


気づけば『デバイス・無線イヤホン追跡アプリ』を開いていた自分を、俺はしこたま叱咤する。


……でも、ここで立ち止まったら、天川がテスト勉強に困ってしまうだろう。それに、先生の誤解(?)を解く必要がある。


「ええい、ここは親切心で割り切れ!!」


俺は細目になりながらも、えいやでスクリーンに映し出された地図を見た。

と、ぴこん、ぴこん、と点滅する赤色のアイコンが、学校のすぐそばの家にとどまっているのが確認できた。


――すぐそこだし、届けるべきか?

――でも、それだとただの変態ストーカーじゃ……。



「…………っ、ああぁ!!!」


俺は頭をぐしゃぐしゃとかき回し、がたんと立ち上がった。

ノートを持ち、リュックに入れながらも、自分に言い聞かす。


――これは、別に犯罪なんかでもない!! ただ、クラスメートが学校に忘れていったノートを、純粋な俺が偶然、たまたま知ってしまった住所の元に、そっと届けるだけだ。


「よし、俺は悪くないぞ、悪くないんだからな……」


俺はそうぶつぶつ呟きながらも、追跡アプリを元に学校を出、アイコンが点滅する元へと歩を進めた。







――当然、この時の俺は知らなかった。




この出来事をきっかけに、天川、それに自分の推しまでを絡めた、壮絶な青春物語が繰り広げられるということに――。







★★★★★


こんにちは、この作品を読んでくださりありがとうございます!!


これ以降一度も言わないと約束するので、言わせてください(´;ω;`)


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ではでは、引き続きよろしくお願いしますᏊºัꈊºัᏊ

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