❅5.今でも俺はおまえにあまいらしい

サマエルはおぶってきた暁をその部屋にあったソファーに座らせ、目に入ったクローゼットから数着取り出し暁の着ていた服をはぎ取り着替えさせた。

そのままベットに移動させようと手を伸ばしたところで濡れた床が視界に入った。

少し考えて足元を見れば全身の服の端から水滴が落ちて水たまりを作っている。

チッと舌打ちを一つ零したサマエルは、先ほど入ったクローゼットから自分でも着られそうなシャツとズボンを拝借した。

そして今度こそとサマエルは暁を抱え大きなベットに横たえる。

その身体は未だ熱く発熱していて浅くせわしない呼吸がサマエルの不安をあおっていた。

「本当にこの人間でよかったのか。」

“うぅ”と聞こえた呻き声に我に返ったサマエルは冷却剤、体温計、タオル…と家の中を手早く物色し暁の元へと運び入れ甲斐甲斐しく出来る限り看病した。

もし親友が見ていたならきっと沢山の小言が飛んできただろう。

サマエルの耳に笑いながら「サマエルは相変わらず不器用だね」なんて揶揄からかう、もういないはずの親友の声が聞こえた気がした。


「…サマエル。」

暁がサマエルにすがるような声を出した。

「サマエル。…寂しい。」

そう呟く姿が親友、

「ミハイルにそっくりだ。」

ぽろっと涙を溢す暁の頭をぐしぐしと撫でてやる。

手がにゅっと布団から伸びてきたのをみて仕方ないなと握ってやった。

「誰?」

どうやら俺の零れた言葉は暁に伝わってしまったらしい。

「聞きたい。」

似た姿で、ねだられれば断ることは出来なかった。

「まったく。今でも俺はおまえにあまいらしい。」暁に聞こえないよう呟いて一つ昔話をしてやることにした。

「おまえによく似た奴がいた。」


暁が夢の中に既に旅立っていることなどサマエルは気付いていなかった。




――――「俺の親友、ミハイル…いや、紫月しづき凛弥りんやの話だ。」


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