ソリューション

再誕歴7529年オクターバー10日。


ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。

ベネルクス王立学園、 屋上。


「・・・・・」


屋上の柵に持たれながら一人の男が佇んでいた。

レオポルドの側近、 ダーロングである。


「ダーロングくーん、 よんだー?」


ナンナが軽い調子でやって来た。


「・・・・・」


ダーロングが真剣な目でナンナを見る。


「如何したの? あたしに告る気?」

「そんな訳ないだろう、 以前に言った事って本気なのか?」

「以前に言った事? って何の話かしら?」

「ポニカの父君が死んだ時の話だ」

「・・・・・ちょっと待って」


ダーロングを制止して屋上をうろうろするナンナ。


「大丈夫そうね」

「何がだ」

「何処で誰が聞いているか分からないから」

「だから誰も居ない屋上に呼んだんだろうが」

「それもそうか、 で、 革命の話、 で合ってるよね?」

「そうだ」

「でもあたしの記憶が正しかったら貴方は一番反対していたよね

何があったの? 貴方の中で一体どんな変遷を獲てそうなったの?」

「・・・・・父上が騎士団長を引退する事になった」

「新聞記事に載ってたわね」

「そうなのか? 私が見た時は載って無かったが・・・」

「三面記事だし見逃してもしょうがないわ」

「・・・・・」

「確か引退理由は一身上の都合※1 だったかしら?」



※1:労働者の個人的な理由で職を辞する場合に退職理由や履歴書等でおいて用いられる定型句。



「父上はまだまだ意欲的に働いていた!! それなのにここで辞める訳が無い!!」

「つまり裏でアリストッドが動いていると?」

「その通りだ!! ここまで国に仕えた者を辞めさせるなんて許せん!!

俺は国を見限る事にした!!」

「でもこの前貴方は『国に逆らうなん命がいくらあっても足りない』と

言っていたような気がするわよ」

「騎士団長になれないのならばもう死んだも同じだ!!」

「うん? どういう事?」

「決まっているだろう!! 騎士団長の指名権は先代の騎士団長が持っている!!

だから次の騎士団長は息子の俺になる筈だったんだ!!」

「そうなの?」

「そうに決まっているだろう!!※2」



※2:単なる妄想であり、 彼が騎士団長に指名される事は無い。



「そうだったの、 じゃあちょっと協力してくれないかしら?」

「協力だと・・・? 何をしろと言うんだ?」

「そんなに難しい事じゃないわ、 使い古し、 或は捨てる品でも良いから

騎士団の制服を幾つか持ってきてほしいの」

「どの位だ?」

「出来る限り多く」

「分かった、 それ位なら可能だろう」



この時に持ち出された騎士団の制服は後に大いに悪用されたという

レオポルドの婚約破棄の後に起こった騒動『レオポルド王子人生最悪の24時間』において

持ち出された騎士団制服が活用されたのは周知の事実だが二度の大戦時に

所属不明の騎士が現れ様々な諜報活動を行っていく事になるのだ。


後にこの騎士達はモーント・ズンディカーズの手先であり

モーント・ズンディカーズが行っていた戸籍の乗っ取り等を行っていたとされる

二度の大戦の混乱に乗じた巧みな戦略だったという。




こうしてダーロングが勝手な思い込みから悍ましい犯罪に手を染める事になった一方で

ハウバリン公爵のブリュッセルハウス、 その庭先のテラスにて茶会が行われていた。

テーブルにはケーキやビスケット等、 色鮮やかな菓子とお茶が並んでいた。


「『この度は皆さんは我がハウバリン公爵の為に尽力して頂き有難う御座いました』

と父が申しておりました」


ハウバリン公爵家の五女アリストッドがうやうやしく礼をする。

集まっているのはハウバリン公爵門閥でベネルクス学園に通っている者達である。

一触即発の様相を呈している。


「いえ、 ハウバリン公爵門閥にとってこれは当然の事です」

「その通りです」


両派閥のトップであるレーラレラとリャクは全くの無表情で応えた。


「そう言って頂けると嬉しいです、 この度、 王家から慰謝料を大量に捥ぎ取れましたので

各家毎に既に分配してあります、 改めまして皆さん、 ありがとうございました

後は皆さん、 何の憂いなくご卒業頂ける事を願っています※3」



※3:訳.王家から金はせしめてお前達の家に分け前やったんだからこれ以上お前等

波風立てず黙って卒業しろ。



「「分かりました」」


両派閥のトップであるレーラレラとリャクは全くの無表情で応えて互いに握手して離した。


「ではこれにて失礼します、 行くぞお前達」

「え、 は、 はい」


リャク達過激派もレーラレラ達穏健派も去って行ったのだった。




帰り道にて穏健派の面々はぽつりぽつりと話し始めていた。


「しかし、 これで良かったんですか? レオポルド殿下全然反省も何もしてないじゃないですか」

「レオポルド殿下には陛下直々に説教をなさったらしい」

「・・・説教ですか」


レーラレラの言葉にイマイチピンと来ないポール。


「親が子供にする説教とは訳が違う、 王の説教はそれはそれは凄まじい

王のオーラで威圧されて分からない様な奴は超ド級のウルトラヴァカだ

それにちゃんと生活できるように周囲に街を作った豪華な離れで

愛妾のポニカと住めるようになっていて、 離婚した後は自由の身だ

これ以上なく譲歩している」

「流石にこれ以上無い条件ですし、 流石のレオポルド殿下も・・・」

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