ライト・ア・レター・イン・ザ・ハウス
再誕歴7700年ノーベンバー25日。
ベルモント伯爵領のベルモンド伯爵邸。
ここでベルモンド伯爵とその娘のサンはここで暮らしていた。
ベルモンド伯爵邸は和と洋の融合というファッショナブルな邸として有名であり
ベネルクス王国での和風な邸と言えばベルモンド伯爵邸と有名である。
無論ファッショナブルなだけではなく巨大な防風林が備え付けられ
4階建ての邸には暴風を完全ガード、 更に日光を遮らない様に広大な庭。
庭には使用人と騎士の邸、 騎士達の修練場。
更に取れたての野菜を楽しむ為の畑、 井戸まで備え付けられている。
茶道ファイブ・マスターのベルモンド伯爵としては
茶畑は欲しかったが納得のいく茶葉が作れずに断念した。
邸の1階は厨房と客間と応接室、 大勢の客人の持て成す為のパーティー会場。
そして和室である、 茶道の達人ともなれば茶の湯を披露する機会も多い。
2階は使用人と騎士詰め所と各種備蓄倉庫、 そしてフロア半分以上を占めるサンの部屋。
サンの部屋は風呂、 簡易的な厨房、 畳スペース、 ドレッサー、 ベッド
使用人詰め所、 完全防音、 冷暖房完備
部屋の中だけで生活が完結するレベルの充実ぶりである。
3階はベルモンド伯爵の執務室や自室
茶道マスター垂涎の茶器、 そして茶葉が保管されている茶道ルーム。
そして4階、 1~3階は和の要素がある物の基本的には洋風の邸だった。
しかしながら4階だけは木造建築で和のテイストを醸し出していた。
ここに何が有るのかはまだ話す事は出来ない。
更に言うのならばベルモンド伯爵以外誰も知らない。
噂によると4階を作ったのは宮大工※1 であり。
特別な何かが隠されているらしい。
※1:日本における大工の最高位。
日本における重要施設の神社仏閣を建てられるのは彼等だけである。
通常の大工では神の座す場所である神社や仏閣を建てると精神が崩壊する。
宮大工は釘すら使わずに建物を建てる事が可能と言う物理を超越した
超常的存在なのである、 宮大工最高位【番匠】となると道具すら使わずに
都市サイズの建物を数日で建てる事も可能であり
聖地すら作り出せると言う。
そんな邸だが邸の住人達は今日も働いている。
我等がフェザーもこの屋敷でサンの御付きとしてサンの自室にて
サンが使う墨をすっている。※2
※2:固形墨を硯で墨にする作業である。
井戸から組み上げた新鮮な清水に高級な墨をする作業は
常人ならば発狂する作業である。※3
※3:墨をすると言う作業は非常に繊細であり、 神経を使う。
更に高級な固形墨ともなると尋常じゃない負荷がかかる。
「・・・・・」
サンが墨をする光景を見る。
滑らかな手付き、 美しさすら感じる。
「どうぞ」
「うん」
硯を受取るサン。
サンは着物にたすき、 そして後ろ髪を縛っている。
真剣な面持ちである。
万年筆に墨を充填し手紙を書き始めるサン。
「いや筆を使わんのかい!!」
部屋の中に一緒に居た居たメイドのフローラは咄嗟にツッコんだ。
ぺしり、 と彼女の両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
読者諸賢も「いや筆を使わんのかい!!」と思うだろうが
これにはやむを得ない※4 事情が有る。
※4:どうしようもないと言う意味。
中国の古文書の一説『不得已』が語源とされている。
不得已は元々別の意味をもった言葉だったが
非常に強い力を持った言葉で中国で恐ろしい災害が起こった。
その為、 "スリー・カントリー・ナンバーワン・ジーニアス"諸葛孔明が
不得已と言う言葉の本来の意味を記した書物を全て焼き払い
忘却と言う形で封印したのだった。
しかしながら不得已には恐ろしかったという記憶が残り
転じて不得已と言う言葉はどうしようもない、 と言う意味になった。
筆だとあざと過ぎるのだ、 如何に和洋折衷のベルモンド伯爵の娘と言えど
流石に筆を使うのはやり過ぎ、 ペンの方が便利である。
一々出先で筆を使うのはおかしい、 そんな事をすれば日本被れの汚名は必定である。
ペンは細く書けるのでシャープな印象を持たせる事も可能である。
そして何より
「・・・・・」
筆は大体が木の色である。
しかしながらペンは大体の色が黒。
サンは自分の指肌の白さを引き立たせて美しく見せようとしている。
奥ゆかしい、 或は細かすぎる、 そんなアピールなのだ。
手紙を封筒に入れて蜜蝋を押して宛名を書く
貴族令嬢らしい優雅さを持って全てを完遂した。
「・・・如何かな、 フェザー」
手紙を認めたサンがフェザーに尋ねる。
「綺麗な字だと思うます」
「字ぃ!? いや字じゃなくて・・・その・・・」
眼を泳がせるサン。
「いや、 流石に分かり難かったか・・・
じゃあ着替えるから手伝って」
「御冗談を、 私は外に出ていますのでメイドさん達お願いします」
フェザーは部屋の外に出て行った。
「あぁ!! もう!!」
サンは腹立たしい様に叫ぶ。
「お、 お嬢様・・・字が綺麗って言うのも凄い良い言葉だと思いますよ」
メイドの一人、 アンテイアがおどおどと口にした。
「私を綺麗だって言って欲しいの!!」
「ひぃ・・・」
「私達全員で襲っちゃって既成事実を作りましょう!!」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「落ち着きましょうよ、 お嬢様、 私達が出会ってからまだ8、 いや9ヶ月?
まだまだ私達の関係はこれからでしょう」
長身のメイド、 クローリスが諭す。
「・・・私達って何ナチュラルに混ざろうとしてるの?」
「そりゃあ御嬢様とフェザーさんが結婚したらフェザーさんは次期当主!!
つまりは伯爵様!! 愛人の一人二人は作って当然!!
そしてその愛人の座は私達メイドが担いましょう!!」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「結婚・・・か」
ぽつりと呟くサン。
サンは人に好意を伝えられないと言う性格のせいで人にあまり好かれなかった。
とは言えそれは大して問題では無かった、 自分に相応しい男性と言う者が居なかったのだ
今まで色んな貴族の子息を見て来たがこれと言った男が居なかった。
誰も彼も薄っぺらい印象を受ける、 隣領のジョンは見所がある男だが聊か傲慢である。
傲慢なのは頂けない、 そもそも隣領とは仲が悪い為
主導権はこっちが持っておきたいのだ。
幸いな事に父のベルモンド伯爵は娘を政略結婚の道具にしようとする意志は無く。
サンが結婚したい相手と結婚すれば良いと言っている。
サンは結婚を考えた事は無かった。
つい先日までは。
あの時、 命を賭けて戦うフェザーに心を持っていかれた。
自分ですら言語化出来ない感情だった。
しかしながら今まで人に恋をした事が無いサンは悪戦苦闘していたのだった。
「うなじ見せるのとかって効果無いのかな?」
サンがメイド達に着替えを手伝って貰いながら尋ねる。
「え、 ちょ、 ちょっと分からないです」
「私が男だったら押し倒してますよ!!」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「色ボケ、 じゃなかったフローラに便乗するつもりじゃ無いですが
貴女は貴族令嬢、 花嫁修業も嗜みの一つ
一通りの事はやって来た女性です
教養のみならず肌艶・・・どれをとってもそこらの女とは一線を画します
自信を持って下さい」
「・・・・・クローリス」
怒気を孕んだ声でサンが言葉を紡ぐ。
「・・・ハイ」
「自信を持つのは良い、 だけども服を脱がせるどさくさに何処を触っている」
「さぁ殴れよぉ!!」
サンの花嫁修業の中には当然武術の心得も含まれており
クローリスに空手の正拳突きが叩き込まれるのもいわば必然だったのだ。
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