恋の話しは居酒屋でしないかい?

羽弦トリス

第1話気になる2人組

ここはとある中部都市の港にほど近い、公益法人の職場。ここの港からの輸出入物はこの団体がチェックしなければ、貿易は成り立たないとも言われている。

職員が着岸した船に乗り込み、輸出する新車、中古車の台数、トン数、場所、キズのチェック、または、輸入する木材、インゴット、外車のチェックを担うのが業務課である。

「藤岡主任、内線1番にお電話です」

「はいよ」

この、男は藤岡智弘43歳。既婚者で小太りの冴えないヤツなのだが、難しい仕事は生え抜きとして、現場に投入される。

「はい、お電話代わりました藤岡です」

『もしもし、オレだけど。今夜、いつもの店行かない?』

「バッカだな~、内線使うなよLINEで送れよ」

『それだけじゃないんだ。業務課の数名が残業80時間を上回っている。田山課長に話してくれないか?お前も、既に90時間を超えているぞ。このままだと、労基署も組合も黙ってないからな』

「三浦、何故単なる主任の僕に言うんだよ!係長の柴田に言ってくれよ!」

『柴田は馬鹿だ。理解できんだろ?』

「分かったよ」

藤岡は、ため息をついてから課長のデスクに向かった。


「田山課長、お話があります」

田山はじっと、PCの画面を見詰めていた。

「あのう、田山課長」

田山は、やっと藤岡の声に気付いた。

「な、なんだい、藤岡君」

「総務課から連絡がありまして、業務課の数名が規定の残業80時間を上回っているようです。次いでに、私は90時間を超えております」

田山はハゲ散らかしている 頭を触りながら、

「船の仕事は入港次第で仕事が延長する事が多い訳で、総務課のように定時であがれないからさ。分かった。その数名と君は今日から仕事が残っていても、他の者に引き継がせるから定時であがりなさい」

「分かりました。柴田係長にも言っといて下さい」

「分かった分かった」

田山は藤岡に野良猫を追い払うように、シッシッと手を振った。

藤岡が田山の横でPCの画面をチラ見したら、将棋盤の形が見えた。

部下はせっせと働き、課長はネット将棋を指していたのだ。


藤岡が安物のG-SHOCKの腕時計をみると。17時半。定時だ。引き継がせる仕事はないので、隣のデスクに座る石神美樹に、

「じゃ、先に帰るね」

「はい。お疲れ様です。藤岡主任」

「主任、お疲れ様です」

この、世の中で要らない役職の主任と藤岡のことを呼ぶもう一人は、石神と同期の新卒、中村一郎である。藤岡は中村にも、

「今月はもう僕は定時であがるから。君たちも、僕みたいにあんまり残業しないように。過労死しちゃうぞ」

会社の一階の喫煙所に入ると、いつも通り三浦克也がいた。三浦はタバコを吸い終わったが、藤岡はハイライトに火をつけた。

「藤岡~、ハイライトなんてジジイが吸うタバコだぜ?」

「お前さんは、マルメンというコジャレたタバコをお吸いになられてますが、歳いくつ?」

「43歳だよ!」

「43!か~ジジイだな。介護保険引かれまくりの、まさかの43」

「お前と同い年じゃないか!」

「……ま、肉体は43だが精神年齢は10歳少年よ~」

「お前、それでよく生え抜きと呼ばれているのか分からん」

「さっ、居酒屋行こう」

「ああ」

「いつもの、居酒屋千代でいいかい?」

「もちろん。凛ちゃんのファンだから」

2人は居酒屋へ向かった。

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