転生特典を3つも貰えたと思ったら一週間で記憶を無くしているみたいなんだが!?

naosan

序章

プロローグ

 気づいたときには、周りは白い世界だった


 キョロキョロとあたりを見渡すと、その白い世界は永遠と続いているようだった。


『次はどんな人生を望みますか』


 女性のような男性のような不思議な声音、その声はすんなりと耳に馴染む。


『貴方は前世は終わりを告げ、次の人生を歩むことになります』


『貴方の望みを3つ叶えましょう、そして3つの試練を与えます』


『さぁ、望みを言いなさい』


こ、これはまさか転生特典!?


「な、なんでもいいんですか!?」


返答はない。


 だけどこれは、恐らくチート転生というやつだ。最近では何も特典を得られず転生するパターンもある中で、俺はラッキーな転生を引いたようだ。


「じゃ、じゃあ剣を! 剣術の才能を下さい!」


『貴方には剣術の才能を与えましょう、それに伴う試練も1つ与えます』


 異世界転生の醍醐味といえば魔物や剣術だろう。その才能があればきっと俺は次の人生困ることなく生活を送ることができる。


1つ目の望みを決めた後に気づく。


 もし次の人生では剣を使うような世界に転生できるのだろうかと、現代のように科学が発展し、銃社会になっていたらとてもではないが、剣術の才能なんて宝の持ち腐れだろう。


「もう1つは魔力! 魔力操作が凄く得意な才能を下さい!」


『貴方には魔力操作の才能を与えましょう、それに伴う試練も1つ与えます』


よし、これで少なくとも魔法が発達した世界に転生できそうだ。剣と魔法の才能があれば、少なくとも次の人生は苦労するような事はないだろう……


望みはあと1つ


「……最後の望みはーーー」


そんなの決まっている。


「前世の記憶持ちでお願いします!」


◇◇


 目が覚める、知らない天井と知らないベットだ。ベットから降りると向かいに丁度良く鏡が置いてある。その姿を見て確信する。


「よっっっっしゃああああ、転生だああああ!」


 ガッツポーズをとる。しかも前世の記憶持ちで、チート有り。最強じゃないかわが軍は。そんなウキウキな気分に、ふと目に入るものがある。


 その机は、この部屋に少し不釣り合いで不格好なつくりをしており目を引く。そして机の上には本が置いてあり、日本語で『起きたらすぐ読むこと』と書いてある。


 その本は机の横の本棚にも何冊が詰め込まれている。


「なんだこれ……とりあえず読んでみるか」


 俺はその本を手に取り、中身を読み始める。


――――――――――『日記』―――――――――――


 どうやら俺は転生したらしい。それも前世の記憶を持って。なるべく知識を忘れないうちに、この本に日記として記載していこうと思う。思いついたこともここに記載していく。


転生して1日目。


 俺は父に頼んで剣術の先生をお願いした。父は、あっさりと了承をくれた。


「やあアーサー。じゃあ今日は剣術の基礎練習から始めようか」


 剣術の先生は2日目には来てくれた。とても早い対応を、父に感謝しよう。


 剣術の先生は少し慣れ慣れしい感じだ。この体が恐らく10歳前後の体なのだが、10歳より以前の記憶が全くない。恐らくその時に出会っているのだろう。


(元の体の記憶がないのも珍しい……)


 転生に関して、科学的根拠や何かしらの証明が、現代でされていたわけではないので、こんなこともあるか。と判断をつけるしかない。


「ふっ! ふっ!」


 剣術の先生に従い基礎練習を開始する。


「うんうん、いいね。」


 前世の頃、中学校の授業で剣道をやったことがあるが、その時よりうまく体を動かせており、心なしか腕の筋肉もある気がする。


「明日から本格的な打ち合いの練習をするから、今日はゆっくりと基礎の確認をしていこうか」


 何事においても基礎は大事だな。少し馴れ馴れしい感じが嫌だったが、剣術については信頼できそうだ。



・・・


剣術の練習が楽しく、日記を書くのを忘れていた。


 今日は転生してから7日目だ。この7日間で大分剣術の才能は伸びた。先生からも中級クラスの実力があると褒められた。明日は休息日らしく、明日は剣術の練習がない。


 明日1日休んで、来週の予定を決めるそうだ。正直、今は剣術が楽しいので来週も剣術がいいと考えている。


 だが確かに転生特典は剣術以外にも魔力操作の才能もあるはずだ。折角なので、そちらを調べてもいいだろう。


 転生してから少し調べてみたが、魔法に関しては独学ではかなり難しいらしく、専門的な知識が必要だ。


 好都合にも、この部屋にはその手の本もあるので明日読んでみようと思う。


――――――――――――――――――――――――








『おい、本の前の俺! この本を手にとって読んでいる俺は気づいているかもしれないが、俺はこの日記に書かれた記憶がない』


 手がガタガタと少し震える。その事実は認めたくない。だけどこの本が、この『日記』がそれを証明してしまっている。


(もしかして俺、記憶喪失……)


 見たくはない、認めたくない。だけど知らないのはもっと怖い。呼吸を整え、次のページをめくる。






――――――――――『日記』―――――――――――


 どうやら俺は記憶喪失らしい。ああ、それも定期的に訪れるタイプの記憶喪失だ。


 もしかしなくても、あの神様の転生特典の一つだろう。


『前世の記憶持ち』という特典に対して、『記憶喪失』という試練を与えてくれたらしい。くそ!


 この世界を過ごしていた時に何人か対応に違和感があったが、ようやく分かった。


・剣術の先生をつけて欲しいといった時の、父の顔と対応

・その話を聞いている時、の悲しそうな母の顔

・なぜか俺のことを知っている、馴れ馴れしい剣術の先生


 全て俺だけが忘れているんだ。恐らく記憶喪失なことを父も母も気づいてるのかもしれない。だからあんな態度だったのか。


……と、まあ嘆いていても状況は変わらない。だから俺は、ここに書き記す。そしてこの日記を読んだ俺なら、きっとこの言葉でいいだろう。


『折角なら、この世界を楽しんでやろうぜ!』


 なんのつもりで記憶喪失の試練を与えたが知らないが、俺はこんなことに屈して折角の異世界転生を無駄にしたくない。だから俺はこの世界を楽しむことにする。


 だから今、この本を読んでいる俺も存分に楽しんでくれ。


 ただもしこの事実を、知らずに過ごしてしまったら、何か取り返しのつかないことが起きる可能性がある。だから俺はこの日記の表紙に『起きたらすぐ読むこと』と書いておく。


 幸いなことにこの世界は、ひらがなや漢字は使われていない。だから使用人や家の人間にこの本を読まれても内容までは分からないだろう。


 そういえば、この世界の文字は読めないが何故か会話は出来る。不思議だ。その辺は今後の俺に調べて貰おう。


 とりあえずこれからは、分かったことや、やったことを日記に記しておこうと思う。


 まず一つ目に分かったこと、予測にはなるが、前回の日記を見る限り、記憶は7日間でリセットがかかる可能性が高い。だから休息日が明日にあるんだと思う。


 是非、この異世界を楽しんでくれよ、来週の俺。


――――――――――――――――――――――――







 2ページ目を読み終え、俺は一息つく。3ページ目以降をチラリとみると分かったことや、やったことがズラリと書き記されていた。


「……ハハッ」


バカだな、俺。


(こんな分厚い日記帳を全部読んでたら、1週間終わっちまうだろ)


「……よし!」


 決めた。今週の俺は、この日記帳を全部読み込んで分かりやすくまとめよう。


俺は、この異世界を楽しむと決めた。

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