第19話 鈴芽の激昂①
学校生活だけは変わりがなくて落ち着く。
寝不足でぼんやりした頭で授業を受けていながら、先生の話は全く頭に入っていない。
結局、詩衣が寝落ちするまで俺も眠れなかった……。
というか、眠すぎたあまり自分の部屋に帰るのが面倒になって、そのまま俺も寝てしまった為に朝起きた時にはまだ詩衣の部屋にいた。
起床時には驚きのあまり眠気が吹き飛んで二度寝をすることはなかったものの、こうして今は眠い。
あの時はそう……ケロッとしている詩衣の顔と既に用意された朝ご飯を見て、別々の部屋を用意した事が果たして意味のあったものかと自分自身へ問いかけた。
いや、あれは一夜の間違いというやつだ……昨日は偶々動画を見せられていたからであって、毎日ああなる訳ではない。
「…………」
昨日の事はさておき、学校にいる間は他人のままを装うのだ。
少し寂しい気もするが、俺にとってはリフレッシュする大切な時間だということ。
「ねっ、ねえ……真琴」
「なんだ? 珍しいな」
なんて思っていたのに、休み時間に入ってすぐ鈴芽が話しかけてきた。
いつもは大体兄貴とセットなんだが……鼓の方は何故か遠くからこっそり様子を伺っている。
バレバレだ。
「あんたさ、今日の放課後……暇だったりしない?」
「藪から棒だな。まあ今日は図書委員もないけど」
「じゃあ一緒にさ、遊びにゲーセン行かない?」
「何故にゲーセン? 鈴芽らしくないような気がする」
「えっ? 真琴が思う理想のデートスポット、ゲーセンだって聞いただけなんだけど?」
「意味わからん。俺、そんなこと一言も言ってなかったろ。誰から吹き込まれたんだよ」
「ちっ、
「じゃあ、鼓が適当言っているだけだな。大体、本当にそうだったとしてさぁ……鈴芽、俺とデートでもしたいのか?」
「それはっ……違うし! こっ、言葉の綾っつーか……行きたいんとこなんしょ?」
どうしたら、そんな話題が二人の間で交わされたのかさえ理解不能だった。
なんか鈴芽がいつもの調子じゃないみたいだ……鼓がいない所為なのだろうか。
鈴芽……何だかんだ言って兄貴想いだし……若干ツンデレ患っているみたいだけど。
「いやだから俺は行きたいなんて一言も……まあ嫌じゃないけどさ」
「そう。ならいいわね。あっ、あとついでに……あーし、今日美容室行きたいから、それも付き合ってくんない?」
「……? それは付き合う必要あるのか?」
「あんの!」
ないだろ……あるとすれば、お財布扱いか? 鼓にでもねだりなさい。
「ほら、なんか学内掲示板で真琴の話題広まってたじゃん? だからっ……髪整えた真琴、ちょっと見たいなって思っただけ」
「ああ……あれか、鼓が広めてたやつな?」
特に気にしてなかったけど、見える形で俺の陰口が書き込まれていたのは覚えている。
だからといって何も思わないけど、話題に上がる度に触れてはいけない扱いになるからな。
逆にどうして霜鳥兄妹はすんなり俺に近づけたのか。
避けられる以前からの知り合いなのと、コミュ力の高さなんだろうけど……あれ、口が軽いのか二人とも何かと俺の話題を出している気が……気のせいかな。
「ごめん」
「なんで鈴芽が謝るんだよ」
「……あっ、いや……だってほら、あーしが鼓を止めるべきだったってゆーか……探らせておいた罪悪感ってゆーか……」
「探らせて……って、ちょっと待て。もしかして、鼓が言っていた髪を整えた俺を見たのって鈴芽?」
「……あっ」
あっ……じゃないだろ。白状してんじゃねーか。
なんだよ、鈴芽が目撃者だったのか。
やけに鼓が色々な手を使って探りを入れてきた訳だ。
鼓のやつ……何だかんだ言いつつ妹想いで結構結構……重いんだよ。
「見られたことくらいどうでもいいし、正直忘れていたけどさ。まあなんだ……そんで俺のこと尾行でもしたのか?」
「ちょっ、どうでもいいって言いながらめっちゃ気になってるし! もしかして、見られてたの思い出したら恥ずかしい?」
「まさか。自分の容姿を気にしていた時期はとうに過ぎているからな」
知り合いに見られていたとなれば、詩衣との対面が見られた可能性を最大限考慮しなければならない。
勘が鋭いのか的を射た言葉に投げかけられ、グッと同様しないよう本心を隠す。
「そ。一応言っとくけど、あーしがストーカーなんてする訳ないない! 真琴じゃないし」
「……っっ!?」
「え、何その動揺」
「何でもない」
「えぇ……大丈夫? あーし聞いたげるよ? 一緒に交番行く?」
「聞かなくていいし、行かねぇよ……てか、ストーカーなんてしたことないから。鈴芽の気のせいだろ」
「ふうん、ふふっ……そんな顔もするんだ」
「……笑うなよ」
良かった……まさか俺が本当にストーカーに勤しんでいたことを見抜かれている訳ではないらしい。
まったく。揶揄われているのはわかるが、寿命が縮まるかと思ったぞ?
「んで、一緒にゲーセン行くの? 返事、聞いてないんだけど」
「あー、そうだなぁ。今日は――」
その瞬間、鋭い視線が俺に突き刺さっている事に気が付いた。
何故か詩衣がこちらを見ながら、笑顔を向けている……が、目は笑っていない。
「っとー、ちょっと考えさせてくれ」
「えっ? 暇なんじゃないの?」
「暇かもしれない」
「は? なにそれ……何か迷っていることがあるならさぁ、言葉にしてくんないと、あーしじゃ何もわからないだけど」
「いやまあ、そりゃ仰る通りなんだけど……」
詩衣の事を話す訳にはいかない。
しかし、恋人という関係である上に催眠のかかった詩衣は一応、現状において俺のことを好いているのだ。
俺はこれでも鈍感じゃないどころか、鋭い方だ……俺の鈴芽に対するアプローチを詩衣が気にするのは自然だと言える。
すごく不機嫌な雰囲気を垂れ流している詩衣の顔を見れば、嫉妬の感情はよく伝わった。
困ったね。
「……あーしには話してくれないんだ」
「いやいや、元より深い訳はないって……単純に行こうか迷っているだけ」
「迷っている方がストレス溜まるし! もう早く決めよ! 行くの? 行かないの?」
「いや――」
「あああ……あのっ、霜鳥さん。その……浅丘くんが……こ、ここっ、困っているように見える……から! やめ……ないか?」
はぐらかせながらも、急かしてくる鈴芽に困っていると、背後から意外な人物が鈴芽に話しかけてきた。
柚木舞風……俺のよく知る図書委員として共に活動している時の遠慮ない彼女とは違い、ぎこちなく言葉を紡いでいる姿は、なんとも痛々しさを孕んでいる。
「はあっ!? 何あんた、突然他人の会話に割り込むとかどういう神経してんの? 頭、大丈夫?」
神経を逆なでされた鈴芽は激昂していた。
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