第3話 警告はした
夜の人の少ない道。そこにいたのはエトワールとチンピラ3人。そして怯えている少女。
そこに新たに現れた乱入者。その人物がエトワールに直撃しかけていた拳を受け止めたのだった。
「またかよ……」男たちはため息をついて、「しかも今度は女か……夜道を一人で歩いてると危ないぞ、べっぴんさん」
男は掴まれた手を振りほどいて、距離を取る。そして現れた女性を見て、
「なんだぁ……弱っちいガキの次は片腕女……いや、片腕片足女か?」
そう。その女性には左腕がなかった。さらに右足も義足だった。膝から先に木の棒をつけただけのような簡素な義足。
細身な女性だった。真っ白のロングヘアーに長い手足。整った顔立ち。まったくの無表情で、感情が読み取れない女性。
腰には刀を携えていた。
「お前もサンドバッグ希望か?」女性は首を横に振る。それを見て、男はさらに言う。「訳分かんねぇこと言うガキに続いて、今度は無口女か……最近は変なやつばっかだなぁ……」
女性の表情は変わらない。どうやらかなり無口な人物であるらしく、口を開く様子は一切なかった。
「なんの用だ? まさかこいつらを助けに来たとでも?」
「……」
「……ただの通りすがりか? だったら今逃げたら見逃してやるよ」
「……」
「……なんか言えよ……」
「……」
彼女はとても無口な人物であるらしかった。何を言われても、返答を返す様子がない。
「今日は変なやつに会うもんだ……」男たちは、今度はその女性を取り囲む。「まぁいいや。気に食わないやつは殴るだけだ」
「……!」それを見ていたエトワールが、「逃げてください! ここは僕が……」
「ここは僕がどうするって?」男たちは嘲笑する。「お前がもっと強ければなぁ……こうやって犠牲者が増えることもなかっただろうに」
男たちはまた指の骨を鳴らす。自分たちの恐ろしさを伝えるかのように、女性に威圧感を与えるように。
緊張感が強くなって、不意に女性が口を開いた。
「少年」女性にしては低めの、ハスキーよりの声だった。なんとも抑揚が少ない。「なんで、ケンカしてたの?」
「え?」突然話しかけられて戸惑ったエトワールが言う。「それは……その人たちが、女の子の薬を奪って……」
「わかった。ありがとう」女性は男たちに向かって言う。「その薬を置いて逃げたら、このまま見逃す」
「見逃す? お前が? 俺たちを?」
女性は無言で頷く。必要最低限の言葉しか発さないようだった。
「ふん……バカばっかりだな……痛い目を見ないとわからないみたいだ」
そう言って男が拳を振り上げた。
その瞬間だった。乾いた音が鳴り響いて、男が1人吹き飛ばされた。男は地面に転がって、そのまま気絶したようだった。
「は……?」残った男が呆然と女性を見る。「なんだ今の……」
「警告はした。伝わってなかったのなら、ごめん」
女性の右足が上がっていた。どうやら義足で男を蹴り倒したようだった。男は蹴られたことにも気づかずに、気絶したようだった。
「こいつ……!」
男たちは今度は2人同時に襲いかかる。女性はあっさりと攻撃を避けて、さらに蹴りを放つ。その蹴りは男たちの足を払って、あっさりと転ばせた。
「な……」男たちは転んだ状態で女性を見上げて、「お前……なんだ? 何者だ?」
「あ……」もう一人の男がなにかに気づいたように、「お前、メル・キュール……!」
「メル・キュールって……最近、この町に住み着いたっていう……?」
男たちはなにやら2人で話し合って、しばらくして、
「頼む。薬は返すから見逃してくれ!」
勢いよく頭を下げた。
メル・キュールと呼ばれた女性は差し出された薬を受け取って、
「今度やってたら、見逃さない」
「……じゃあ今回は……」
メルは頷く。それを見て、男たちは嬉々として去っていった。気絶している男を連れて、その場から消えていった。
男たちが消えたことを確認して、メルはエトワールと倒れている少女のほうを見て、
「治療が必要なら、うちに来て」
「え……」少女が先に反応した。「いえ……私のケガはたいしたことないので……」
「そう」
メルは少女に近づいて、薬の入った袋を手渡した。少女はそれを受け取りながら、
「あ、ありがとうございます……」言われたメルは首を振って、エトワールを指す。「えっと……お礼ならあのお兄さんに、ってことですか?」
頷いてから、メルはその場を立ち去ろうとする。
そんなメルの背中に、エトワールが言う。
「ま、待ってください……!」
「……?」
振り返ったメルに、エトワールは頭を下げる。
「ありがとうございました……その、助けてくれて……」エトワールはしばらく頭を下げ続けた。しかしメルからの返答はない。不審に思って頭を上げると、「あれ……?」
メルの姿は見えなくなっていた。どうやら返答もせずにこの場から消えたらしい。
「……」
エトワールは呆然とその場に立ち尽くしていた。
自分が全く刃が立たなかった3人を、メルと呼ばれた女性はあっさりと倒してしまった。
いったいあの女性は何者だったのか。エトワールはそんなことを考えていた。
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