弐第93話 収容施設-4

 子供のいる家族は同じ西側にかたまっていて、廊下で子供達が一緒に遊んでいたりするみたいだ。

 でも、この頃みな、あまり元気がないという。

 ……毒塗料玩具のせいじゃないかと思うんだよな。

 部屋は俺のいるところとさほど変わらない広さだが、子供と三人だと少し手狭に感じる。


 毒鑑定で見回すと、玩具だけでなく家具に使われている塗料も所々……

 子供のいる部屋は彩りが多い、と言うので全然毒とは知らずに『好意』で綺麗に塗っているのかもなぁ。

 俺の部屋では、毒は出なかったし。

 小さめの声で俺がその夫婦に毒塗料のことを説明したら、めちゃくちゃ驚いていた。


 橙色の玩具に使われているタルフ毒は、赤だけでなく黄色もだろう。

 浄化すると色が残るのはタルフ赤だけで、黄色の方は消えて……というか、生成りになってしまうみたいで木目と変わらなくなる。


「知らなかった……『毒物鑑定』は……持っていないんだ」

「最近子供達に元気がないのって、もしかして……?」

 俺は多分、と頷く。

「一応、ここでは魔法は使えないことになっているようだが、あんた達、浄化は?」

 夫婦ふたりは顔を見合わせて、横に首を振る。


「体内の微弱魔毒までは消えるか解らないが、方陣札を預けておくから……にでも使ってくれ。それと……子供だけは今のうちに少しだけ……」

「できるのか?」

「窓がないのは……浴室か。ちょっとそこで『法具』を使う。いいか?」

「お願い! この子、ずっと怠いって言ってて、最近言葉も上手く喋れなくなってる気がするの」


 父親に扉を見張っててもらい、母親と子供と一緒に浴室に入る。

 法具や方陣の魔法は、個人が発する魔法よりずっと感知も鑑定もされにくい。

 殲滅光で子供の全身を照らすと、みるみるうちに顔色が変わった。

 ……相変わらず、すげーよな、これ。


「これでも問題ないと思う」

「ありがとう……っ! 心配だったの……この子、まだ魔力が少ないし……」

は?」

「ああ。感謝するよ!」


 父親にも礼を言われて、強く手を握られた。

 これは、子供のいるところ全部回った方がいいな。

 こんなことになっているとは、思っていなかった。


 それから、俺は『玩具に興味があるから、是非見せて欲しい』と子供のいる家族の元を訪れた。

 同様の説明をして、子供達に光を浴びせる。

 最後に、あの母親に抱えられていた赤子のいる部屋へ入れてもらって吃驚した。


 子供が使っていた寝床に、あの黄色い模様の布が使われていた。

 ドォーレンで村長の奥さんが使っていたものよりは、黄色い部分が少ないが子供にはかなりまずい。


 この家族がここに来たのは、二十日ほど前だと言う。

 やはり『毒物鑑定』の技能は持ってないようで、気付かなかったようだ。

 持っていたとしても皇国人は『魔獣の毒』や『タルフ毒』を殆ど知らないから、ちゃんと鑑定できなかったかもしれないが。


「ここに来てから、どんどん具合が悪くなっていて……」

 子供は薬を使ってもよくはならず、父親が毎日こっそりと【回復魔法】をかけて、なんとかもたせていたらしい。

「浄化の方陣札を使い切ってしまっていてね……これからどうしようと思っていたから……は……本当に嬉しかった」


 もっと……早く辿り着いていたら、こんなにこの子を苦しませずに済んだかもしれない。

 そう思うと、少し胸が痛かった。


 浴室で、子供だけでなく抱いていた母親も一緒に光を浴びせる。

 まだ、母親の乳を飲んでいるみたいだったから、親の方も浄化できるなら、と思った。

 でも大人は全部は無理だろうから、応急措置的ではあるが。


「この子は……魔力量、大丈夫なのか?」

「……解らない。だから、多めにはいるけど……手にも持てないし」


 そうだよな……魔石が握れないとなると、身に着けておくのがいいんだが衣囊だと触れていないから不安だろうし……

 あ、そうだ!


 俺は持っていた迷宮品の中に、いくつかの腕輪があったのを思い出した。

 結構良い石がはめ込まれていたはずだ。

 銅の腕輪に、複数の貴石が嵌められているものがいくつかあった。


「おい、これは……こんな法具まで?」

「今のところ俺には必要ないし、迷宮品だから気にしなくていい。欲しくなったらまた取りに行くし」


 タクトが浄化と魔力吸収を無効化する付与をしてくれているから、子供に使っても問題ないはずだ。

 貴石に魔力を入れて、子供の両足にひとつずつ嵌める。

 腕だと細過ぎるが、足の太腿辺りだとなんとかずり落ちないで済みそうだ。


「で、でも、こんなに高価なものを」

「それじゃあ使その場にいるにでも預けておいてくれ」

「……ありがとう……必ず、返すよ!」

「あなたはじゃないの?」

「ああ、


 全員移動した後に、ウァラクの隠密達は方陣札でアーメルサスに戻って暫くは皇国人の捜索をすると言う。

 俺はもう少しアーメルサス内を歩き回りたいから、ここを出るのは同時だが行く場所が違う。

 いや……ちょっとだけ遅らせて、全員が無事に移動したかを確認した方がいいかな?

 隠密さん達もそうするだろうけど、やっぱり気になる。


 そうだ、まだ腕輪もいくつかあるから他の子供達にも渡しておこう。

 子供の移動には、親達はかなり心配だろうからな。

 指輪でも平気だろうか?


 そして夕食時、全員が集まって『ここでの最後の食事』が済み、兵士達が見回りと施錠を終えて出入り口を固めた。

 全ての部屋で板戸が閉められ、扉も内側から施錠されて……全員が、消えた。

 そのことに気付いている兵はいない。


 隠密さんが俺の前に姿を見せ、ここにはもう誰もいないよ、と笑顔で戻って行った。

 俺も出るか……と、部屋から外側をぐるりと取り囲んでいる壁に目をやったら……その外壁を乗り越えようとしている奴がいた。


 あの、ムカつく奴じゃないか!



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『アカツキは天光を待つ』第15話とリンクしております。

 別視点の物語も、是非w

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