弐第61話 ストレステ東側の島-2
怯えることはない。
『錯視の方陣』はちゃんと描いてある。
この迷宮でだって今まで同様に、全く魔虫達は俺を襲ってきていない。
ゆっくりと、右側に首を動かす。
大きくは、ない。
群れだ。
途轍もない数がいる。
俺の腰くらいまでの大きさの魔獣が。
青い光でその姿を見ると、横に広いぺったりとした嘴に『歯』が生えている。
ギーギーと鳴く声が喉の奥から聞こえ、俺はすり足で左側へと後ずさる。
足が重いのは……恐怖感ゆえだろうか。
話にだけは聞いたことがある……こいつはおそらく『
羽根は短く少しずんぐりとした体型で、太くて節くれ立った鷲のように鋭い爪を持つ長目の二本足。
尾の五枚の羽根は鋭利な刃のようで、閉じたり開いたりする度にシャシャシャと細かい音を出す。
暗闇で目が輝くのは
俺が塞いでいたその小部屋の入口から離れると、
正直……見たくはない食事風景だった。
こいつ等は魔虫だけじゃなくて、魔獣の死骸も食べるようだ。
ここから先に行くとして、背後からこいつ等が迫ってきたりするのは、遠慮したいところだ。
そして、この部屋の魔獣達とは少し離れた土中にも魔力を感じる場所がある。
剣の光を強い黄色に変え、『雷光の方陣』を発動させて麻痺光を部屋全体に放つ。
そして、そのまま炎熱を使って焼ききる。
全てが灰になったのを確認して、『浄化の方陣』で整える。
採光で明るくして隅々まで確認……よし、大丈夫そうだな。
天井も……平気。
魔力を感じるのは、部屋の奥。
普通なら魔獣達は部屋の真ん中に魔力溜まりを持ってくるが、壁に硬い岩盤があって掘り進められなかったのだろう。
【土類魔法】の方陣と、自分自身の【土動魔法】を使ってなんとか掘り出す。
武器?
いや、それにしちゃ変な形をしている。
刃……らしき物が付いてはいるが、やたら小さい。
手の中にすっぽり収まる刃物って、何の意味があるんだろう。
なんだ、これ?
何かを切るための道具……なんだろうか?
全く解らん物が出て来てしまった。
まぁいいか。
こんなのって、意外とタクトが面白がるかもしれない。
前にも、迷宮品からおかしなものばかり欲しがったからなぁ。
ついでに、ここらの石も一緒に袋に入れておこう。
さて、先に進んでみようか。
それからいくつかの階層を進んだが、暫くは
しかもどの部屋も不殺にいた
その
最奥には大物がいると思っていたのだが、道幅が狭いままだ。
変な作りだな……この迷宮は。
少し広めの部屋に辿り着いたときに……二カ所の下り回廊を見つけた。
横に広がる分岐は、殆どなくなっている。
そろそろ核に近づいていると思うのだが、ここに来て道がふたつか。
どちらもあまり広い道ではないから、立って歩くというより滑り降りる感じかもしれない。
入ったら自力では上に上がれないだろうが、俺は問題ない。
ただ……滑り降りた先が『水中』だったら……まずいが。
とにかく、一度ここで食事をしてからにしよう。
時間的には天光の入りを少し過ぎたくらいで、さほど腹が減っている訳ではないけど魔力を回復させておいた方がいい。
採光で明るくし、魔虫の居ないことを確認して浄化。
何にしようかと保存食を出そうとして、ふと思い出した。
そういえばタクトから、菓子が届いていたな。菓子パンの感想を書いてくれたから……とかで。
『苺ルリィ』……お、初めて見る菓子だ。
うわ……うまぁ!
え、苺?
苺って初めて食べたけど、甘いんだな。
ふわふわで、何これ。
あいつ、なんで魔法師なの?
あ、いけね。食事もしないと。
いや、でもこの菓子、ホント旨……
感想いっぱい書いて良かった。
……しまった、菓子だけで腹一杯にしちゃった。
まぁ……いいか。
旨かったし!
すっごく元気になった気がするし!
では、まずは入口近くの下り回廊から。
殲滅光を雷光に乗せて発動し、回廊の中を青い光で満たす。
へばりついていた魔虫は悉く消え、照らされた灯りで先まで見たが行き着く先までは見えなかった。
土類の方陣で足場と手を掛けられる場所を作りながら、一気に滑り落ちていかないように進んでいく。
左側がやけに滑るな。
ちょっと方向を変えつつ、足場を作らないと……
そして出口の先が見えてきたので、もう一度殲滅光に雷光を乗せて放つ。
キラキラと光が反射する。
……どうやら、水がありそうだが、足場は確保できるみたいだ。
その部屋に降り立ち、採光で明るくすると……斜めに傾いた床の部屋半分、満たされた水の中にゆらり、と影が見えた。
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