弐第46話 サーシウスからエイエスト
その後、事情を話して魔法師組合と教会に水場を見せて欲しいと頼み、確認した。
幸いにも、人が飲むような井戸や川の水は汚染されてなかった。
井戸には蓋があり、川などは流れているからだろう。
ただ、付近の牧場にある池や水場の半分以上で
青い殲滅光で魔線虫が分解される度に、村人達から感嘆の声が漏れる。
確かに、結構綺麗だよな。
それにしても……小さい村でよかった……牧場って、かなり広いもんなんだな。
土や牧草などにはこの魔線虫は繁殖できないみたいだったから、水場だけで済んだのは助かった。
こんなに足が痛くなるほど歩いたのは初めてだ。
冬場で、土が硬かったせいもあるのかもしれないけど。
村中から感謝され、その日の夕食は腹一杯になるまで食べ放題って奴だった。
肉も芋も旨かったんだが、やっぱりパンが硬いんだよな。
思っていた通り、魔線虫が腹の中にいた羊の糞なんかは毒性があったので、方陣札を売って欲しいと言われて魔法師組合に頼まれた回復、浄化、水質鑑定、毒物鑑定の方陣札を預けて、エルエラの宿へと移動した。
辺りはすっかり暗くなっていたのだが、宿に戻ってすぐにカバロの様子を見に行った。
ほったらかしにして怒っているかと思いきや……餌に果物が入っているので、随分とご機嫌なようだった。
ここでも厩舎番に可愛がってもらっているみたいだ。
朝、宿を出てカバロと一緒にまたサーシウスへ戻った。
羊毛の上着を一枚、買っておこうと思ったのだ。
昨日は歩いていても結構寒かったから、カバロに乗って走ったら歩くよりは動かない分、寒いだろうと思うんだ。
服屋に行ったら、恩人からは金は取れねぇ! とか言われて、上着だけじゃなくて襟巻きまでもらってしまった。
なんだかちょっと、図々しいのではないかと思ったのだが……まぁ、甘えることにした。
あ、あったかい……ほわほわだ。
アーネナに羊達がみんな元気になったと、改めてお礼を言われ、彼女と父親に見送られて俺はサーシウスから西へとカバロを走らせた。
その後、パントナ村を通り過ぎ何日かかけて小さい村々に寄る度に、魔法師組合や教会で方陣札を頼まれることが多かった。
『いい魔法師でもいい札が描けるとは限らない』とは聞いたが、魔法師によって得意な方陣などもあるのだろう。
場所によっては、かなり偏ったものしか置いていない所もあった。
特に『治癒の方陣』は置いてない村が多かったが、ロンドストは殆ど魔虫が出ないからあまり売れないのだそうだ。
……高いからな、治癒は。
気になって水場も見て回ったが、魔線虫はおらず毒性もなかった。
渡り鳥は、皇国の北側だけを掠め通っただけなのだろうか?
サーシウスからどちら方面に飛んでいったのかは気になったが……見た者はいないようだった。
そして幾つか見た村の教会では、司書室などがない場所が多くて本もなく、新しい方陣を手に入れることもなかった。
のんびりとした旅をひと月ほど続け、ウラクとの越領門まで辿り着いた頃にはすっかり風が温かくなっていた。
ウラクはアーサス、そしてガエスタとの国境がある領地だ。
だが、今は国境への『橋』がなく、陸続きではどこへも渡れなくなっている。
大峡谷の向こう側、アーサス教国にはまだ皇国から渡っている人達だっているはずなのだが……どうやって戻ってくるつもりなのだろう?
やっぱり、破氷船を使ってストレステへ入るのだろうか。
だが、ストレステの北方は凍土で、夏場になっても溶けない氷の大地だ。
もしかしたらそのまま北の海を東へと抜けて、大回りでセーラントへと戻るのかもしれない。
だとすると……セーラントの魔導船じゃなければ、そんなことは不可能だろう。
今度、オルツで聞いてみたら教えてもらえるかな。
もしオルツからアーサスに行く魔導船が出るとしたら……乗せてもらえたら、あっち方面の島も遠視で視られるかもしれない。
だけど、凍土の島だと迷宮はなさそうだな。
越領門をくぐり、入ったウラクの最初の町はエイエスト。
低めの山を越えたすぐ隣にベスエテアという町があり、そちらの町からだとエデルスへ抜けられる越領門がある。
もう温かくなってきたから、ウラクを一回りしたらセイリーレに行ってみてもいいかもな。
明日はこの町から、北の方へ行ってみようか。
ウラクには領地を横切り、マントーエル領を突っ切りコーエト大河へと流れるセトイーゼ川がある。
ベガイート山脈から流れ出ているこの川の南側がケトアーオ地区と呼ばれる。
この街区はウラクの中でも比較的町が多くて、人が多い街区らしい。
陸路はロンドストから、川を使ってマントーエルからも物資が運びやすいからだろう。
エイエストの町中は馬を下りてくれと言われたので、カバロの手綱を引いて脇を歩く。
へぇ……珍しい。
衛兵隊の制服、黒なんだな。
なんだかやけにキラキラの袖口だが……金糸?
ああ、刺繍か。
キョロキョロと町中を見ながら歩いていたら、ぴたっとカバロが立ち止まった。
何かと思ったら……宿の前だ。
なるほど、ここの厩舎がいいんだな?
最近おまえの厩舎選び、ちょっとハズレが多いがここがいいって言ったのはおまえなんだから文句言うなよ?
さほど高級そうに見えない宿だが、一階にある食堂がかなり混んでいるから食事が旨いのかもしれない。
取り敢えず一泊、手続きをして厩舎へと案内してもらう。
なかなか広そうだ。
どうやら、当たりかな。
馬具を外してやると、ぶふふーん、とご機嫌そうな鼻息を漏らす。
じゃ、俺も腹減ったから、何か食べようかな。
食堂はかなり賑わっている。
越領門のある町はどこも大概人が多いが、この町は王都並みに多いかもしれない。
……あれ?
席が空いてない。
うーん……別の所に行った方がいいか……
「その言い分は聞き捨てならんっ!」
突然、客のひとりから怒鳴り声が上がった。
どうして人が集まる所ってのは、揉め事が起こるんだかなぁ。
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