弐第14話 カシナ南西の無人島

 オルツに戻って、タルフ近くの島から視た海岸線で海草を見つけた……という報告をした。

 どういう状況の場所かを伝え、魔海驢まかいろが泳いでいるので海には入れないということも。


「……魔海驢まかいろ……ですか」

 ランスタートさんが、渋い顔をする。

「俺の持っている方陣だと、海中じゃ全く使えないし、俺自身も……すまんが、海じゃろくに泳げない」

 波があると泳ぎにくいんだよな。


「ああ、そのようなことはお気になさらず。そうですねぇ、遠浅というなら魔導船も使えませんし、小型船で行ったら魔海驢まかいろに粉々にされて終わりですね……また、どこか別の場所で見つけられたら教えてください」

「解った。だが、あの海草は浅い海でしか育たないみたいだった。少し深くなっただけで、全く生えていない感じだったぞ」

「オルツでなくても、デートルやカルース近くなら遠浅の小さい港や海岸がありますからね。セーラントが無理でもルシェースなどでは、育つかもしれませんし」


 依頼は継続ということで、もし見つけて採取できそうだったら……と、蓋が付いた硝子瓶をふたつ預かった。

 海の中でもなんとかなる方陣って……ないもんなのかなぁ。



 海草探しは取り敢えず見つかったらってことで、後回しでも大丈夫そうだ。

 折角いくつかの無人島に渡れるようになったのだから、行ってみようとまずはカシナの南西側の無人島へ。

 ここら辺は浅い海で、船は小船しか使えないような場所だ。

 そして海流が非常に強く西から東へと流れていて、カシナからは風が強く東から吹いていてもここら辺まで辿り着けない。


 島の海岸で、海を『遠視』で眺めてみる。

 今居る場所は砂浜はないが、深さもあまりなく海底が視える。

 でも、海流の速度のせいだろうか全く海草類は生えていないようだ。

 苔みたいなものが生えた石が転がっているだけだな。

 残念でした。

 では、島の中へ入ってみよっかぁ!

 反対側の海岸も、後で視てみよう。



 暫く歩くが、魔獣どころか魔虫もいない静かな島だ。

 こりゃ迷宮なんてないかもしれない。

 これだけ暖かい……というか、熱いくらいだと、絶対に魔虫はいると思ったんだけどなぁ。

 小さい島だから、生物自体が少なくて魔虫は繁殖できないのかもしれないな。

『土類鑑定』で視ても、土は殆ど汚れていないからこの島には魔獣はいないのかも……と少し残念の思いつつ、一応『探知の方陣』で魔力溜まりがないかを視てみた。


 探知を遮るほどの大きな山などがないせいか、島全体が範囲に入るみたいだ、

 おや?

 小さいけど、何かあるのか弱い反応が探知に引っかかった。

 樹木が多くて見通しが悪いから、遠視で視ても移動ができず歩いて行くしかない。

 葉が大きい低い木ってのは、周りが見えづらくて歩くのに邪魔だ。


 暫く歩いたが、その場所と思われる辺りには何もいなかった。

 もう一度探知をかけると、通ってきた場所のちょっとだけ右を移動している。

 生き物ってことだろう。

 あ、消えた。


 この辺りに洞窟でもあって、中に入ったのかもしれない。

 いや、池、かな。

 段差が俺の身の丈を越えるくらいだと、探知に引っかからなくなるんだよな。

 何かが居たと思われる場所には池や沼などはなく、やたらと葉が落ちて……あっ、あった。

 葉に隠れて下へと続く道ができている。


 でも……階段?

 人が作った通路と言うことか?

 もしかして遺跡か何かかもしれない。

 遺跡なら、タルフが海で拾ってくるような『太古の遺物』が見つかるかもっ!


 そして、もし魔獣が棲みついているとしたらここだろう。

 魔虫がいなくて迷宮を作れなかったとしても、遺跡があるならそこにいたっておかしくはない。


 入口は小さめだったが、中にはいるとすぐに立って歩けるほどになった。

 壁は煉瓦詰みのようだし、足下も石が敷き詰められていて平らだ。

 思ったほど深くない場所に部屋のようなものがあったので、採光で明るくする。


 がらん、とした空間だけがあり生き物の気配はない。

 いくつかの通路があるようで、手近なところから入っていった。

 一番奥の正面以外は全て小部屋で、やはり何もない。


 奥に続く通路のあった入口から暫く歩くと、更に下る階段があった。

 いくつかの階層になっているのだろう。

 ますます迷宮みたいだと思いつつ、明かりを灯す。

 部屋というよりは回廊のようで、採光では先まで見えない。

 光の剣で、行く手を照らすように進む。


 壁や床は古くて崩れかかっているというのに、苔や植物のようなものは一切入り込んでいない。

 チリや瓦礫が転がっていて、ほんの少しの砂が溜まっているだけの乾いた場所だ。

 長い長い回廊を歩いているが……絶対に島を横切るより長い距離を移動している気がする。

 俺がいるこの上、海なんじゃないだろうか?


 時折くねるだけで分岐もない回廊を暫く歩き、ようやく上り階段に辿り着いた。

 上がって行くとまた何もない部屋……かと思ったら、足に何かがあたった。

 採光で明るくしたその場所を見渡すと、白っぽい獣の骨に似たものが転がっている。

 触れるとばらっとすぐに崩れるので、かなり古いものみたいだ。


 壁際にそれが崩れたものだろうか、山のようにあちこちに集められた塊があって通り道が作られている。

 魔獣や獣が、こんな風に『掃除』をするわけがない……


 これ、絶対に人が通った跡……だよな?


 さっき探知した魔力は『人』のものだったのか?

 この回廊はおそらく、通り抜けられるに違いない。

 一体、どこに続いているんだと、部屋の奥から上に上がる階段を駆け上がる。

 そして外に出て目に映ったその光景に、俺は一瞬、動けなくなった。


 目の前に『廃墟の町』が姿を見せた。

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