第10話
岩田は、その後の犬の処分について知ると、蓮宮に相談した。
「俺のせいで、犬が殺される……。どうしたらいいんだ?」
岩田はそう言って頭を抱えた。
「まったく。どうして、こうも使えない奴ばかりなのかしら? 私の力を借りないと何も出来ないなんて、情けないわね」
そう言いながらも、蓮宮はすでに手を打っていた。
ある動物愛護団体に、犬の救出を依頼していた。その方法も、合法ではないことも知っている。彼らは動物の命を最優先として、法を破り、闇で動くこともしばしばある。しかし、彼らにとって、それは正義なのである。蓮宮はそれを陰で支援することもあった。
「あなたに、やってもらうことがあるわ」
岩田は同胞に協力を依頼して、救出された五匹の犬を大神村へと運んだ。
「無事に終わったようね。あそこなら犬たちものびのび暮らせるわね」
蓮宮が言うと、
「はい。ありがとうございます」
岩田は心から感謝の言葉を述べた。二人が会う場所は、決まってビルの屋上だった。
「もう、同じ過ちは許されないわよ。人の命も、動物の命も等しく尊いものよ」
「はい。反省しています。俺はこれからも、この都会で生きていく。同郷の者が都会に出て来た時には、俺が面倒をみようと思っています。二度と、こんな事件が起こらないように」
岩田は覚悟を決めた、いい顔をしていた。
「その言葉、覚えておくわよ」
蓮宮がカフェで待っていると、五十嵐と須藤が入店してきた。
「珍しいな、俺たちを呼び出すなんて」
五十嵐が言った。いつもなら、蓮宮が平然とした顔で警察署に来ていたが、今日は何事かと、様子を窺うような眼で見ている五十嵐に、
「何よ、訝し気な顔をして。怖いじゃない。二人とも座って」
蓮宮は二人にそう言って座らせた。女性客の多い店で、目つきの鋭い五十嵐と、所在なさげにする須藤は目立っていた。
「それで、何の用だ?」
五十嵐は声をひそめて聞いた
「犬たちはみんな無事よ。自然豊かな場所で暮らす人たちに預けたわ。それだけ伝えようと思ってね。あなたが、あんなに落ち込んでいたから。これは貸しよ」
蓮宮はそう言って不敵に微笑んだ。
「そうか、ありがとう」
五十嵐は少し口元を緩め、安堵の表情を見せた。
「あら、素直にお礼を言われたの、初めてね。なんだかこそばゆいわ。それじゃ、私は忙しいから」
蓮宮はそう言って、店を出て行った。入れ替わるように、店員がコーヒーを二つ運んできて、
「ご注文は、以上でお揃いでしょうか?」
と尋ねた。
「ああ」
五十嵐が答えると、店員は伝票をテーブルに置いた。
女性客で賑わうカフェに、不釣り合いな男性刑事が二人、残される形となった。
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