死なぬ路にて

石野二番

受診その一

 その奇妙な姿をした眼医者を自称する者は、三本ある右腕の一本で頭を掻き、一本でペンライトを持ち、もう一本で僕の右目を指して言った。

「この右目で生物の気のようなものが見えるという話だったねぇ。それは生気だろう」

「生気、ですか?」

「そう。生きとし生けるもの全てが持っている。我々の常識ではね、生気があるから生き物として分類されるし、どれだけ元気に動き回っていても、これのないものは生き物ではないのだよ」

 ただねぇ、と眼医者は右腕の一本と左腕(こちらは一本だけだ)を組んで言った。

「確認するけれど、左目では見えないんだよね?」

「はい。その生気が見えるのは右目だけです」

「なんでだろうねぇ。機能的には、左目も同じく見えているはずなんだけどねぇ」

「え?」

 僕は驚いた。てっきり右目だけの異常だと思っていたのに。

「機能が何かに阻害されているのかな?先天的なものかな、それとも後天的?後者なら、阻害というより、封印?」

 そう言って眼医者はぶつぶつと一人思案し始めた。

「あ、あの。先生」

「うん?あぁ、まだいたのかね。何だい?」

「その阻害?封印?って、右目にもできますか?」

 僕の問いに眼医者はぽかんと口を開けた。

「それはぁ……、やめといた方がいいんじゃないかな」

「どうしてですか?」

「第一に、もったいないよ。本来生身一つで生気なんて見られるものじゃないし。第二に、こっちの方が大事かもしれないけど」

 眼医者はもったいぶるように言葉を区切ってから、重々しく言った。

「おそらくその方法は身体の別の部分、特に脳の辺りに悪影響を及ぼすだろう」

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