【声劇用台本】教会都市ドレスロー占拠事件

おかぴ

教会都市ドレスロー占拠事件


(SE:石畳を歩く音。ドアを開く音)


司令「久しぶりだなイーゴン。会いたかったぞ」


イーゴン「俺はアンタにだけは会いたくなかったがな」


司令「店を始めたそうじゃないか。経営は順調か?」


イーゴン「おかげさまで赤字続きだ。おまけにアンタの部下たちに拘束されてここに連れてこられたせいで、明日の仕込みも出来やしない。いい営業妨害だ」


イーゴン「俺の顔を見て気も済んだだろう。帰してくれ。明日は大口の予約が入ってるんだ。店に戻って準備をしなければ……」


司令「……済まないイーゴン。明日の予約はキャンセルしてくれ」


イーゴン「……どういうことだ」


司令「キミの力を借りなければならない事態になった」


司令「……今から7時間前のことだ」


司令「南西の教会都市きょうかいとしドレスローに左翼過激派政治団体『人の使徒しと』の一団が侵入し、都市を占拠した。現在、ドレスローの都市機能は完全に掌握されている」


イーゴン「政治団体が教会都市きょうかいとしドレスローを占拠……? あそこはユリアンニ教の聖地だが、言ってみればただの観光地だぞ。あそこを占拠して何がやりたいんだ」


司令「『人の使徒しと』からの要求は2つ。法王ドラクロワ2世の辞任と議会の解散及び再構成だ」


イーゴン「そんなことをすれば行政に空白が出来る。国中が混乱するのが狙いか」


司令「それだけではない。キミが言った通り、ドレスローはユリアンニ教の聖地であり、毎年多くの観光客が訪れる経済の中心地でもある。そこが占拠された今、我が国の経済への影響は計り知れん」


イーゴン「占拠しているだけで国にダメージを与え続けることが出来る……」


司令「経済にダメージを与えるのは、戦争での基本戦術だ。奴らがそれを知っているかは知らんがな」


イーゴン「しかしそうたやすく事が運ぶとも思えん」


司令「もちろんだ。それをさせないために、キミや我々がいる」


司令「キミに依頼する任務は、教会都市きょうかいとしドレスローに潜入し、『人の使徒しと』の中心人物であり今回の事件の首謀者である男ユリウス、及び事件に参画している2人の幹部を暗殺すること」


司令「そして教会都市きょうかいとしドレスローを『人の使徒しと』より奪い返し、彼らを無力化することだ」


司令「質問はあるか」


イーゴン「待て。俺はまだ受けるとは言ってないぞ」


司令「何もいますぐ判断しろとは言ってない。状況を知ってからでも遅くはないだろう」


イーゴン「そもそも俺はすでにあんたの元を離れている。自分の部下を使えばいいだろ。なぜ俺なんだ」


司令「理由があるんだ。キミに頼まなければならない理由がな」




○潜入方法


イーゴン「……都市への潜入方法は」


司令「地下道を使う」


イーゴン「地下道?」


司令「今でこそドレスローは教会都市きょうかいとしとして有名だが、かつては強固なへいに守られた堅牢けんろう城塞都市じょうさいとしだったことをキミは知っているか」


イーゴン「聞いたことはある。かつての大陸宗教戦争たいりくしゅうきょうせんそうが起こった際、国内でユリアンニ教派の王国軍に最後まで抵抗したのがドレスローだったはずだな」


司令「その時代の名残りとして、ドレスローの地下には網の目のように張り巡らされた地下道が現存している。そのうちのいくつかは、城塞じょうさいの外側への抜け道として機能していたそうだ。それを使う」


イーゴン「現存するといっても数百年前の話だぞ? 本当に大丈夫なのか?」


司令「資料によると、抜け道の一つが北部バーナム山脈にある洞窟に繋がっているようだ。入り口も確認出来ている。そこから侵入してくれ」


司令「しかし、いくら存在が確認できたとしても数百年も昔の地下道な上、人の往来も無くなって久しい。中がどうなっているか見当もつかん」


イーゴン「入ってみたら盗賊や化け物の巣窟であることも考えられるか……」


司令「『人の使徒しと』の待ち伏せも充分にあり得る。くれぐれも慎重に侵入してくれ」


イーゴン「途中で道が途切れていたらどうする」


司令「ドレスロー周辺からバーナムにかけての地層はそうそう地震は起こらない。ドレスロー地下道が今も崩れずに現存していることから見ても、その可能性は低いだろう」


イーゴン「人の手によって塞がれているかもしれない」


司令「人の手によるものなら、キミなら容易く突破できるだろう。そのためのキミだ」


イーゴン「無茶を言う……」


司令「抜け道への侵入時、必要最低限の装備を渡す。それでなんとか抜け道を突破してくれ」


イーゴン「装備内容は」


司令「上質なものが必要な場合は、現地調達だ」


イーゴン「この分では支援はあまり宛にできないようだな……」


司令「訳あって、この作戦は極秘で行われる。表立った支援は難しい」




○現地到着後


司令「ドレスロー到着後、すぐに行動を起こしてくれ」


イーゴン「現地は今どうなっているんだ。状況は分かるか」


司令「先行させたエージェントによると、陥落かんらくした5つの主要施設を拠点として、街全体に『人の使徒しと』構成員が散らばっているようだ。自警団が壊滅かいめつしたことで現在は大きな戦闘もなく静まり返っている」


イーゴン「そんな状態の街に潜入しても相手にすぐバレると思うが」


司令「キミは今までもそういった戦場で成果を上げてきたはずだ」


イーゴン「買いかぶるのもいい加減にしてくれ。本当にバックアップはないのか」


司令「先行させたエージェントがキミの助けになるだろう」


イーゴン「街の状況を知らせてきたヤツか」


司令「キミが街に到着したのと同時に、彼女が陽動ようどうを行う手筈てはずになっている」


イーゴン「彼女? ……彼女か」


司令「ああ。彼女だ。彼女ならキミの足を引っ張ることもない」


イーゴン「虐殺者ぎゃくさつしゃユキ……」




虐殺者ぎゃくさつしゃユキ


イーゴン「あいつが参加しているなら、わざわざ俺が出張る必要はないだろう。あいつの戦闘力の高さは俺も知ってる」


司令「確かに、私の子飼いのエージェントの中では彼女が一番腕が立つ」


司令「なんせ一人で傭兵団ようへいだん壊滅かいめつさせたこともある女だからな」


イーゴン「しかも闇討やみうちや暗殺ではなく、戦場で正面切って皆殺し」


司令「うむ。……だが逆に言えば、それだけユキは目立つ。隠れることが出来ない」


司令「皆殺しがいい例だ。あれはそうしなければならないからやっている。デモンストレーションや気まぐれではないのだ」


イーゴン「虐殺の陰で静かに任務遂行する者が必要……」


司令「陽の光の当たらないところで動くのは得意だろう?」


イーゴン「そういう風に俺を育てたのはアンタだろ。ユキが一切合切いっさいがっさい斬り殺したらどうなる」


司令「それで状況が解決するなら、それはそれで構わない」


司令「だが本作戦の主軸はあくまでキミだということを忘れるな」


イーゴン「買いかぶってくれる……それにまだ受けると決めたわけじゃない」


司令「キミとの共同作戦を彼女は楽しみにしていたぞ? かつては『刃物を持った暗闇』と言われていたキミを」


イーゴン「忘れたいことを思い出させるな」




○もう一つの懸念事項


司令「それに、彼女がおらずとも陽動は事足りるかもしれん」


イーゴン「どういうことだ」


司令「キミがここに到着する少し前に、本件に関し法王庁が独断で自前の騎士団を介入させてきたとの報告が入った」


司令「現在、3つの師団しだんのうち、最も戦闘力に秀でた第一師団だいいちしだんがドレスローに向かって移動しているとのことだ。我々への報告無くな」


イーゴン「聖地が奪われたんだ。そら法王庁も問答無用で騎士団を出すだろうさ」


イーゴン「聖地を奪われ続けたままでは法王庁の沽券こけんに関わる。信者も減少しかねん」


イーゴン「今までも敵対者には容赦ようしゃなく攻撃を加えていただろう。今回もそれと同じじゃないのか」


司令「……確かにそのとおりだ。特に第一師団長だいいちしだんちょうウィルは今まで敵対する不信心者ふしんじんしゃを神の名のもとにことごとく粉砕ふんさいしてきた歴戦の戦士」


司令「知っているか。第一師団のモットーは『立ちふさがる不信心者ふしんじんしゃには説教をし、なお強情な者はぎ払い、圧殺あっさつし、容赦ようしゃなく殲滅せんめつする』だそうだ」


イーゴン「そいつら本当に宗教家か? 神の啓示けいじを説く者の言葉だとは思えん」


司令「成立の歴史を勉強してみろ。そうすれば、その言葉に得心とくしんも行く」


イーゴン「帰ったら教会のドアをノックしてみるとしよう」


司令「話を戻そう。法王庁が騎士団を介入させる理由は分かる。私も法王庁の側の人間であれば、同じく騎士団を派遣しただろう。キミの言う通り、事は沽券こけんに関わる」


司令「だが、我々に無断でというのが納得が行かない。我々も事情は分かっている。話を通してくれれば騎士団の派遣を止めはしない。なぜ法王庁は無断で動いた。その方が事態が複雑になることは目に見えているのに」


イーゴン「こちらに話を通す暇すら惜しい……」


司令「法王庁は宗教団体といえども小さな国家レベルの組織だ。そんな稚拙な理由だとは思えん」


イーゴン「なら、他に何かこちらに悟られたくない真の目的がある……?」


司令「それを知りたい。それがキミへの最後の依頼だ。法王庁騎士団を探り、介入してきた目的を探って欲しい」


イーゴン「……あんた、何か目星はついているんじゃないか?」




○法王庁騎士団介入の理由


司令「歴史の復習をしよう」


イーゴン「なんだ唐突に」


司令「聖女リーゼは知っているか」


イーゴン「ユリアンニ教の中でも最も有名な聖人だと言っても過言じゃない」


イーゴン「この国の人間は、小さい頃は聖女リーゼの物語を子守唄こもりうた代わりに聞いて眠ったものだ」


司令「うむ。そのリーゼだ。今も大陸中には、彼女が起こした奇跡の片鱗へんりんの数々が残っているな」


イーゴン「飢饉ききんで苦しむ村におもむき、荒れ果てた畑を黄金色こがねいろに実る小麦で満たした話は俺も好きだった」


司令「満足に食えない時代がキミにはあったからな。その気持ちは分かるよ」


イーゴン「だがそのリーゼが何の関係がある」


司令「議会には熱心なユリアンニ教の信者にして、法王庁と強固なパイプを持った議員も何人かいる。そのうちの一人から聞いた話だ」


司令「法王庁は、リーゼに助けを乞われて騎士団を派遣した、と」


イーゴン「バカな。リーゼは実在するかも怪しいおとぎ話の登場人物だぞ」


司令「確かに」


イーゴン「それに、仮に実在するといっても数百年も前の人物だ」


司令「私も同意見だ」


司令「だが忘れていないか? ドレスローは聖女リーゼが救済の旅の最後におもむいた地で、彼女が逝去せいきょした場所でもある」


司令「そして現在のドレスローの主要施設には、それぞれリーゼの体の一部と伝えられるものがまつられている。いわばドレスローは街全体が彼女の墳墓ふんぼと言ってもいい。ドレスローが教会都市きょうかいとしと呼ばれる所以ゆえんもそこだ」


イーゴン「だから、街のピンチに伝説の聖女様が法王庁に助けを乞うた、と? アンタもヤキが回ったか。どう考えてもその議員の口から出たデマカセだろうが」


司令「別に私もすべてを信用しているわけではない。ただどちらにせよ、無断で介入してきた理由は探らなければならん」


イーゴン「もしその議員がついた嘘ならどうする」


司令「どうもしない。虚偽きょぎの証言という名目でその議員を追放するだけだ。その方が楽だし、そう願っている」


イーゴン「もし嘘でなければ……」


司令「伝説の聖女なぞ、おとぎ話の中だけにして欲しいものだな。考えなければならんことが増える……」




○『人の使徒しと


イーゴン「ドレスローを占拠しているヤツらのことを教えろ。情報はあるか」


司令「左翼過激派政治団体『人の使徒しと』。『人を救うのは神ではない』というスローガンの元、ユリアンニ教と法王庁、そして王家の解体を最終目標として掲げる危険思想集団だ」


イーゴン「どうして侵入を許したんだ」


司令「先程も話したが、ドレスローは教会都市きょうかいとしであると同時に観光地であり、日々大量の取り引きが成立している貿易都市ぼうえきとしの側面も併せ持つ。故に日々たくさんの人間や資材が出入りする関係上、どうしても個別のケースに警戒しきれなくなってくる。奴らはそこを突いてきたということだな」


イーゴン「自警団じけいだんはどうした。ドレスローには自警団じけいだんもあっただろ。それこそ拠点防衛能力きょてんぼうえいのうりょくに限れば法王庁の騎士団にも引けを取らない強さだったはずだ」


司令「『人の使徒しと』の侵入後、同時多発的に5つの主要施設で戦闘が勃発ぼっぱつした。その戦闘により、自警団じけいだん壊滅かいめつしたとの報告を受けている」


イーゴン「ただの政治団体にそんな実力があったのに、あんたたちはそれを見逃していたのか」


司令「それは我々の失態しったいだな。反省材料だ」


イーゴン「白々しい……」


司令「今回の事件には、首謀者しゅぼうしゃを含む3人の幹部が参画している。キミに暗殺してもらいたい人物も彼らだ」


司令「神をも処刑できるほど残忍ざんにんかつ心優しい男『泣き虫ケイン』、大木のような棍棒こんぼうを振り回す大柄な女『勇者マリエル』、そして『人の使徒しと』創設者にして中心人物『賢者ユリウス』。この3人だ」




○三人の標的


イーゴン「なんだその二つ名は……聞いているこっちが恥ずかしい……」


司令「『刃物を持った暗闇』と呼ばれていたかつての自分を思い出すか?」


イーゴン「やめろ」


司令「すまない。……おのおの二つ名には由来があるそうだが、そんなことはどうでもいいだろう」


イーゴン「ああ。外見や性格が知れればそれでいい。人生なぞ興味は無い」


司令「『泣き虫ケイン』は痩躯そうくの男だそうだ。ボロ布を身にまとい頭にはいばらかんむりを乗せている。組織内ではもっぱら拷問ごうもんを担当するが、苦しむ相手を気遣きづかい、号泣しながら残忍に殺すらしい」


司令「逆に『勇者マリエル』は大柄おおがらな体格の女性だそうだ。膂力りょりょくに任せて繰り出される棍棒の一撃は大岩すら砕くという。戦場では誰よりも早く敵陣に切り込み、一人でも多くの敵兵をつぶころすことにこだわるそうだ」


イーゴン「そこだけ聞くとただの危険人物の集団としか思えん」


司令「そしてそれら危険人物たちを束ねるのが、『賢者ユリウス・コルネリウス・ウェスパシアヌス』」


司令「王立アカデミーを主席で、しかも史上最年少で卒業した王国屈指の天才」


司令「元々資産家の一人息子だったが、卒業とともに資産すべてを投じて王国随一の福祉施設を建て、その後、失踪しっそう。次に世間に姿を現した時、ユリウスは、過激派政治団体『人の使徒しと』の創設者となっていた」


イーゴン「この国では珍しいタイプだな。神に反旗はんきひるがえす人間というのは」


司令「アカデミー時代から、度々神学の教師たちに議論を吹っかけていたそうだ。福祉施設を建て弱い者たちを守る事業を起こしたのも、『神では弱者を守れない。神にその力が無い上、神自身に弱者を守る気が無い』と痛感したからだそうだが」


イーゴン「『神は怠惰たいだで無能だ』……確かその時の言葉だったな」


司令「ああ」


司令「彼の武器はそのカリスマ性だ。『この人なら私の人生を救ってくれる』『彼ならば、世界をより良くしてくれる』相対あいたいする相手にそう思わせる事ができる、極めて危険な男だ」


司令「流行歌のように人間愛を口ずさみ、神の姿を見れば公衆の面前で堂々と侮辱ぶじょくし、罵倒ばとうする。それを止めようとする聖職者たちを議論で完膚無きまで叩きのめし、さらなる醜態しゅうたいを白日の元にさらさせる」


司令「そういったユリウスの姿が、主に自分の人生を呪う貧困層や満たされない下層民を中心に受け入れられ、今では『人の使徒しと』は大きな政治集団となってしまった」


イーゴン「一番相手にしたくない人間だろうな。あんたたち組織としては」


司令「そういった恐ろしい相手が、キミの標的なのだ」


イーゴン「……」




○イーゴンである理由


イーゴン「そもそも、あんたは俺の最初の質問に答えていない」


司令「質問?」


イーゴン「あんたの元から離れた俺に任務を任せたい理由はなんだ」


司令「状況から見て、現在の私の子飼いよりもキミの方が適任だと判断したからだ」


イーゴン「俺は、昔のあんたを知ってる」


イーゴン「あんたはいつも抜け目がなかった。作戦行動中どれだけ事態が悪化しても、すべてあんたの想定内だった。あんたの準備やあんたの打った冷静な手で幾度となく命も助けられたし、あんたのおかげで成功にこぎつけた作戦も少なくなかった」


イーゴン「そんなあんたが、俺の代わりを持っていないとはどうしても思えない」


イーゴン「だとすれば、あんたが俺に拘る理由は別にあるはずだ」


イーゴン「今更あんたにどういう仕打ちを受けようが、これ以上あんたへの心象が悪化することはない。すでに底まで落ちているからな」


イーゴン「だから本当のことを教えろ。俺に依頼する理由は何だ。なぜこの作戦を極秘に進めようとしている」


司令「……」


司令「キミは、すでにエージェントとしては抹消まっしょうされている」


司令「つまりキミは、存在しないことになっている」


イーゴン「それがどうした」


司令「本作戦ではそれが重要なのだ」


イーゴン「……?」


司令「ユキからの報告だが、ドレスローへの道中、彼女は盗賊とうぞくの類に襲われた」


イーゴン「問題無いだろ。あいつなら苦もなく排除できるはずだ」


司令「うむ。問題はそこではない。事実、彼女はぞくの一人を除いた全員を殺している」


司令「そして残った一人に尋問じんもんを行ったところ、盗賊には依頼主がいた。報告を受けた我々はその依頼主の男を確保するべく追跡したが、男はすでに死んでいた」


イーゴン「殺されたか?」


司令「自殺に偽装ぎそうされてはいたが、恐らく殺されたのだろう」


司令「そのやり口からみて、犯人はエージェントの誰かだ」


イーゴン「エージェントの中に裏切り者がいるというのか、あんた」




○裏切り者


司令「いや、エージェントはただ任務を忠実に遂行したに過ぎない」


司令「裏切り者はもっと上の方にいる。エージェントたちに任務を与えることが出来る組織……」


イーゴン「エージェントを動かせる組織って言ったら、議会しかないぞ」


司令「ああ」


イーゴン「議会の中に裏切り者がいる……やっかいだな」


イーゴン「しかしなんで裏切り者がいるんだ。議員の中に奴らのシンパでもいるのか」


司令「それは知らん。だが議会も一枚岩いちまいいわでは無い。中には『人の使徒しと』の支援者がいてもおかしくないし、私を政敵せいてきだと思っている老人も少なくない」


司令「その裏切り者はいずれあぶり出すとして、当面の問題は今回のドレスロー占拠事件だ」


イーゴン「すでに存在しない俺が動けば、その裏切り者にあんたの行動を悟られずに済む……」


司令「そういうことだ。あわよくばその裏切り者の正体もつかみたいが……それはまぁいい。キミは自分の任務を遂行すいこうしてくれ」


イーゴン「そこから先はあんたの仕事だからな。俺に謀略ぼうりゃくは向いてない」


司令「そういうことだ」




○はじまり


イーゴン「最後にもう一つ聞かせろ。あんたの目的は何だ」


司令「今回の事件の解決」


イーゴン「それだけじゃないだろ」


司令「もちろん議会の掃除も行う。裏切り者にはご退場願い、老人にはそろそろ引退していただく。場合によっては法王庁シンパの議員も始末し、議会を再び健全な形に戻す」


イーゴン「その先は」


司令「議員の一人として、この国の平穏へいおんを守る。どんな手段を取ろうとも」


司令「我が国の子供一人の笑顔と平穏へいおんを守るためなら、たとえ100人の敵であっても血祭りに上げる」


イーゴン「……」


司令「引き受けてくれるか」


イーゴン「あんた、手段はえげつないがこころざしは本物だ。さっきの言葉も嘘ではないだろうしな」


イーゴン「あんたを見直したわけじゃないが、あんたのこころざしは理解出来る」


イーゴン「その言葉を信じる」


司令「ありがとう」


イーゴン「ただし条件がある。一つ目。明日の予約のキャンセル料金は議会が払え。ニつ目。その予約客にはあんたが出向いて頭を下げろ。他のやつが行くのはダメだ」


司令「私がか」


イーゴン「日頃議会の連中と戦ってるあんたにしてみれば、楽な仕事だろう? それぐらいやってくれ。こっちは体を張ってるんだから」


司令「……いま、初めてキミをここに呼んだことを後悔した」


イーゴン「ならやめるか? 俺は別にそれでも構わん」


司令「いや、クレーム処理は私に任せろ。キミはドレスローを頼む」


イーゴン「わかった」



おわり

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