還らずの荒野


 この後、ホットミルクを飲み、テーブルロールをパクパク食べて、人心地を取り戻したようなクレアさん。

 『還らずの荒野』について、説明してくれました。


 『還らずの荒野』とは、その名の通り、入り込んだ者は滅多に生きて戻れないといわれる場所。

 過去、数少ない生きて戻った者でも、山を越えた者はいない……


 ただ、噂によると峠道があるそうだが、真偽は分らないらしい。

 クレアさんは、その峠道を行くつもりのようです。


「峠道といっても、あるかないかわからないが……それに賭けるしかなかった……」

「生きて戻った者の言葉によると、夜はもの凄く寒くなる、しかも暴風が吹くと聞いている」


「亡骸はどうなったのですか?」

「回収は無理というもの、野ざらしだな、もっとも夜になると魔物が徘徊するらしいので、喰われるのだろう」

「生存者は見たのですか?」

「見た者はいないが、夜中に何かの遠吠えが聞こえたそうだ」


「しかし、このヒロ殿の住み家は快適だな、暖かい……悪いが少し上着を脱がして頂く」

 レイピアを佩いていた剣帯を取り外し、ミリタリー調のワンピース?肋骨服のようなデザインの上着を脱ぐクレアさん。


 シフトドレスの上にステイズと呼ばれる補整下着、胸元にはストマッカーという胸当てが差し込まれています。

 膝まである靴下はガーター代わりのリボンで止められています……

 なぜ知っているか?見ちゃったのですね……クレアさんの足の骨折って、大腿部の骨折、治療の為に、靴下をはぎ取りましたからね……

 一瞬、恥ずかしそうにしておられたのですが……私は悪くない!


 下着の名前?ウェブで18世紀の女性の下着とかいうサイトを見たものですから……

 そっくりなのですね……


「あの……目のやり場に困るので、これでも羽織って頂けませんか……」

 クロゼットから、ルームガウンを取り出して、差し出しています。


「私が使っていたものですが、チャンとクリーニングに出していますから……」

 これ、実は両親が勝手にクロゼットに入れていたもので、ヒロさんは一度着ただけ……常は安いジャージを着ていたわけです。

 大学へ行くとき以外は、この手の安いジャージを着ていたようですね。


「すまないな、でもヒロ殿が目のやり場に困ると云って呉れると、褒め言葉に取ってしまいそうだ、なんせ私は出戻りで、しかも若くない女だから」

「いや……そんなことは……クレアさんはお綺麗で、お若くて……その、私、女の方とあまり話したことがなくて……どうすれば良いのか分らなくて……ごめんなさい!」


 クスクス笑っているクレアさん。


「とにかく、お風呂でも沸かしますので、入ってください」

「風呂?風呂があるのか?この住み家には?」


「準備してきます、それから……着替えは……」

「持ってないが、このガウンを貸して頂ければ十分だが?」

「その……私がいっているのは……その……アンダー……」


 真っ赤になったヒロさんです。


「ああ、下着の事か?」

 ここでクレアさん、ニヤッと笑って、


「ヒロ殿の下着でも貸して頂けるか?」

「それは……安くて良いのなら、新品を取り寄せますが、私はレディースの物は詳しくないので……適当に取り寄せますので、お許しください……」


「悪いが風呂を頂く前に、取り寄せてくれないか?」

「異世界の下着、どんな物か分らないのでな」


 どうやらクレアさん、ヒロさんが困っているのが面白い様ですよ。


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