業魔と戦う破戒僧

どらぱん

第1話 暴力による介入

 繁華街の雑居ビル2階。


 狭苦しい鍼灸院しんきゅういんの待合室、院長である俺は招かれざる客と対峙たいじしている。


 待合室で男が三人、全員警棒けいぼうで武装している。

「ここに女子高生が来ているはずだ、そいつを出せ」と言ってきた。 狂ってる。


 警察を呼ぼうと思い、とにかく殺気立っている客をなだめようとする。


 その時、院内の通路にお目当ての女子高生を見つけたようだ。出てくるなって言ったのに……

 狭い通路に黒髪で紺のパーカー、短く改造したスカートの女子高生が立っている。


 「いたぞ!やっぱりかくまってたな!」


 先頭の男が警棒を振り上げる。マジか、る気か!

動作がめちゃデカい。ド素人だ。だが硬度が高い物で殴られると骨が折れる。

袈裟斬けさぎりに来たのをウィービングの要領でかわす。間合いが近くなった所を掌底しょうていあごを叩く。

 武装した集団に先制攻撃されてるんだ、正当防衛だよな?


 ゴッッ!


 鈍い音が鳴るが戦闘不能ではあるまい。そのまま組み付いて二人目、三人目からの攻撃の盾にする。

 と思ったら敵の後続は俺を無視して女子高生の元へ駆けていく。 やべっ。

 今組んでいる男を大外刈おおそとがりで倒す。そのまま馬乗りになるがバタバタ暴れている。警棒がウザい。

 援護えんごにいけない。


 『ミヤビッ!逃げろ!』


ミヤビと呼ばれた女子高生は男達を狭い通路で迎え撃つ気だ。 おいマジか。


 武器を持った男は狭い通路では一人ずつミヤビに当たるしか無くなる。

 やはり警棒を袈裟斬りに振る。分かりやすい攻撃だ。

 ミヤビは左半身で軽くスウェーして躱し、飛び膝ジャンピングニーを相手の顔面に入れる。


 と、飛び膝??大技を実戦できっちり当てる女子高生に当惑する。


 だが女子の一撃、そのままびるわけではない。相手はたじろいで上体を起こす。

 すかさず懐に入り、足を持ち顎を押し上げて倒そうとする。 朽木倒くちきたおしと言うよりニータップだ。

 だが男女の体重差だ、倒れはしない。

 ミヤビは足を持ったまま相手に倒れ込む。

 捨て身で押し続け、相手の頭を後続の男の顔面に叩きつける。


 ドゴッ!


 鈍い音と共に相手は倒れる。頭を押さえてうめいている。


 多人数戦に慣れているのか!?あの女?


 ミヤビは捨て身の勢いのまま、倒した敵を飛び越え、後続の敵の服に掴みかかる。

 そのままぶら下がるかのように相手の体制を崩そうとするが、やはりそうはいかない。固着した相手の足を引き出しながら足をかける。小内刈こうちがりの形になる。


 当然、体重差もありほとんど効果がない。すかさず引き出した足を片手で抱き抱え、もう片方の手であごを押す。いや、よく見るとのどに指が食い込んでいる。喉輪のどわだ。

 そのまま捨て身で押し倒そうとする。

 それでも相手は倒れない、体重差は残酷だ。

相手は大きくバランスを崩す。ミヤビは捨て身で押し続け、コンクリートの柱に相手の頭を叩きつける。

 あの柱、普段から邪魔だったんだよな。 相手は倒れ込んでうめいている。



 ……異様なものを見た。あの女子高生はずいぶん戦いなれている。

敵は別に気を失ったわけではない。 すぐに逃げよう。


 俺の相手はいつの間にかびている、ミヤビの戦いに夢中になっていたが、俺も無意識のうちに相手の背後に回り込んで方羽締かたはじめをきめていた。警棒がうざかったんだな。多分。


 『ミヤビ!ここは逃げるぞ!』


 俺は自分の上着を持って外に駆け出す。外はもう真っ暗だ。

雨が降っているが、そのまま全力で走り出す。

 後ろを振り返るとミヤビはキッチリついてきている。いい脚をしている。


 「リュウシンさん、強いんだね!」


 いやいやいや!強いのはお前だろう!?

 当然のように俺に追いついて走りながらミヤビが言う。特殊部隊の訓練でも受けてるのか?


 「いつまで走り続けるの?」


 『走りながら後ろを警戒しろ。ついてくる奴は追手おってだ』


 後ろを見る。誰もいなさそうだな……。


 『俺はこのまま家に帰る。お前も帰れ』


 「え、ヤダ」


 『やだって……俺んまでついて来る気か!?』


 「うん」


 ……ミヤビの脚は俺についてこれる。いて帰るのは難しそうだ。




 家に着いた。ボロアパートの一室だ。

 玄関の前でミヤビをさとす。


 『俺んはここだ。別に逃げやしない。今日のところは家に帰れ』


 「無理。わたしお父さんと仲悪いの。夜中にずぶ濡れで帰ったら怒られちゃう。

今日は泊めてよ」


 『…お前、未成年だよな。 家に連れ込んだら俺は誘拐犯だ。それにお前を連れて歩いていたら職質しょくしつされる。

 俺がお前のためにそこまでやってやる理由が無い』


 ただでさえ、職場をめちゃくちゃにされたんだ。ここは強めに言っておく。

 ミヤビは少し考え込んで、覚悟を決めたように口を開く。


 「……わかった。お金はないから身体で支払うよ。 リュウシンさんが望むことならなんでもするから、わたしを助けて下さい」


 ゾッとした。

 今の女子高生は簡単に身体を売るのか?という事ではない。いや、それもあるけど

それ以上に、友達を助けるためになんでもするという「覚悟」だ。

 尋常じゃない。

 さっきの戦いぶりからもコイツがじゃないのは瞭然りょうぜんだ。「覚悟」を決めた人間を説得するのは無理だろう…。  …ここで話し込んで警察が来るよりはマシか。


 『……わかった。入れよ』


 ミヤビはゴクリ…と生唾を飲み込んで、ギクシャクと付いてくる。急にどうした?

あ、今の流れだと俺がミヤビを「買った」と思い込んでるのか。こんなガキをく趣味はないが、面白いから黙ってよう。意趣返しだ。


 中はなんの変哲もない一人暮らしのワンルームだ。

 『とりあえずシャワー浴びてこいよ』

男ものだが着替えとタオルを渡す。エロい意味はない。寒い中びしょ濡れだからだ。


 「うううう、うん」

 面白いくらい動揺している。自分で言ったくせに、意外な一面だ。

ミヤビは脱衣所へと消えていった。



 鍼灸院で俺が締め落とした男の財布を抜き取っておいた。この中に襲撃犯たちの正体の手掛かりが有ればいいが…………警察にも連絡しなくちゃな。


 バスルームからシャワーの音がする。

 俺は身体を拭いて着替えてから夕食の準備をする。ミヤビの分も一緒に。


 食器を並べながらぼんやりと考えていた。


 なんでこんな事になっちまったんだっけ……?

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