第44話「スキルステータス増強剤」
「うらァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼‼‼‼‼」
途轍もなく長く大きな咆哮と共にまずはジンが飛び掛かってきた。
二人が注射器を刺し、目を見開いた瞬間、俺は背筋が少しだけゾッとした。
もちろん、怖くはなかったが、異変を示されたような、直感的な知らせのようで体がぴくっとする。
ギリギリのところで俺は『神経伝達速度上昇』と『知覚向上——視覚』を発動させ、飛び掛かるのをすんでのところで躱すことができたが——それにしても、パワーは絶大だった。
仁井田ジン、スキルは『高速移動Lv.4』。名前の通り、速度をアップさせるスキル。速度的には目に負えない、それこそ音速に近い速度で移動できるようになるものだ。
しかし、今のジンはそれを軽く凌駕していた。
一体全体、何が起こったのか、前の戦いで掴んでいたと思っていたが彼のとっておきはこれだったらしい。
そして、躱した先。
俺の家の壁がジンの拳で粉砕されている。
クサビがやったならまだ分かる。スキル的には確かに壊せる威力を持っているからだ。しかし、ジンにはそれがない。速度で勢いを付けて、そのまま体当たりすれば壊せるかもしれないがそんなことすればジン自身も無事では済まない。
だが、今のジンは違う。
体がやや強張っていて、それでいて力がみなぎっているのが伝わってくる。目がヤバい。
——さっき注射していた『スキルステータス増強剤』というものだろうか。
名前からしてスキルランクを強くさせるものだが、正直なところどこまで増強されているか分からない。
「かぁ……クソッたれェ。まぁ、まだまだァ、体が温まってねえからなァ!! ココからだぜええエ!!!!」
「あったまってない……?」
つまり、まだ本気じゃないということか?
これでもかなり強いぞ。目では負えるし、躱せる程度だが……って、あれ?
なんで、今って神経伝達速度上昇を使っている最中だよな?
なんで、こんなにスパンが短い。というか、速度が急に速くなってないか?
「うらああああアア‼‼‼‼‼」
瞬間、見える速さではあったが——明らかにさっきよりも早くなっていた。見えない速さに加速するまで、俺の家を破壊する如く、壁から壁へ、俺の目が回るまで回り始める。
そして、唐突にクサビが俺に向かって拳を突き立てた。
「っく!?」
「おらおら、こっちの速度がおえるのかなぁ~~!?」
やばい、普通に隙がない。
まだ、体の力を使いきれてないからだ。
この前、あのAランクの魔物と戦った時、確かに感じた高揚感が今はない。
まだステータスをどの程度使えるのかについては俺だって未解明でよく分からないが、あのときの戦いではステータスが5%使えると言われていた。おそらく、5,000程度。
どうすれば使えるようになるかは分からないが、確かにあの時の手ごたえというものは体に残っている。
——今の感じじゃきっと2%すら使えていない。
体が妙に重い。
まぁ、それでもステータス的には1,000近くはあるんだけど……こうなると別だ。
こいつら、一体どんだけ強くなって――
――直後、加速したジンが目にも止まらない速さで頬を斬った。
「っ——!?」
血が噴き出る。
あまりにも速すぎて痛みを感じるのがワンテンポ遅れる。見えなかった。ジンジンする頬に気を取られていると、今度はクサビが畳みかける。
そこまでデタラメな速さはない。避けることはできる。
だが、それでもパワーが今までの比じゃない。
風圧で体のバランスが取れなくなる。
「くそっ」
「ほらほらほらああああああ‼‼‼」
叫ぶクサビの後ろからジンが波状攻撃を仕掛けてくる。
次から次へと見えない速度で軽し傷をつけてくるジンに、そこからバランスを崩そうとしてくる。
頭の中がこんがらがってまったく対処できない。
それになにより――致命的な傷を与えようとして来ない。
俺にダメージを与える事だけ考えてくる。しかも、致命傷ではない。きっと、精神的にじりじりとHPを減らして、俺が戦えなくなったところを見計らって雫に危害を加えるつもりだろう。
許せん。それなら絶対に許せるわけが無い。
だが、俺だってスキルで移動したいがここじゃ確実に雫に被害をもたらしてしまう。
やるならもっと広いところ、それに警察だって呼ばなければどうにも状況を覆せない。
だが、この状況で警察を呼べば――俺も犯罪者として扱われる可能性だってある。
家の中にカメラなんてない。家の物を壊したともなれば器物破損で起訴されるのは俺だろうし……何せこの時代に少年法なんてない。
義務教育が終わった者、つまり16歳からは等しく罰せられる。
そうすれば探索者免許は停止処分、下手すれば剥奪だ。そうなると続けるのは不可能だ。
だめだ、袋小路だ。
すべて囲まれてて、動けない。
「うらうらうらああああああああああああ‼‼‼‼」
「痛いかぁ? 痛いんじゃないのぉ⁉」
煽りは痛くない、だが、精神攻撃と波状攻撃でひしひしと削られていくHPが感覚で分かる。
ふと、雫を見るとやられゆく俺の姿を見て涙を流していた。
「んんんん――んんんん―――‼‼‼」
「ケハ!!!! お兄ちゃん弱いなぁ、助けてくれないなァ!?」
「うひょぉおおお、カッコわりいなぁ、全く駄目だなぁ!?」
だめだ、一対一なら1%ちょっとのステータスでも渡り合える自信はある。
スキルステータス増強剤を使ったところでその程度なのは戦って分かる。だって見えるんだからな。
だが、この状況。
雫がいて、小さい部屋の中でとなると俺のスキルも発動できるわけがない。
それがステータスを開放するストッパーになっている可能性だってある。
どうにか、ここでなんとか覆せたら――
「っく!!」
やっぱり、だめだ。
動こうともしても、確実にクサビのパンチの風圧で体のバランスが崩れそうになる。
「ほらほら、何とかしないとやられちゃうぞおおおおおおおおおおおおおおおお!‼‼‼‼」
「良いのかぁナァ!? 妹がやられちゃうぞォ!?」
「っくそ!!!
煽られても、だめだ。
体が力んでまったく本気を出せない。
どうしたら5%、いやそれ以上にそのレベルを上げられる?
ここから脱出すればストッパーが取れるか?
それに掛けるのは無駄ではない、気はする。
ならやってみる価値はありそうだが……この状況じゃ難しすぎるっ。
それさえできればいいのに……これじゃあっ。
見える、避けれる、そこまでは分かっている。
攻撃に何か綻びさえ生まれてしまえば、そこを的確に付ける程度には戦える。その分の余裕がある。そのまま外に出て、戦えれば。
キャパオーバーなわけじゃない。キャパがギリギリなだけだ。
どうにかして、そのチャンスを作らなければ――俺たちの勝機はない。
「っぐ」
「あれれェ? いいのかなァ!?」
「早く本気、出さないとなァ!?」
本気……なぜ知っているんんだ?
俺が本気を出しきれていないことに。
いや、そうか、何となく理解できる。
アンチスキルが俺を捉えたいと言っていたとかなんとか言っていたが……そうか、俺のF級スキルをどうにか利用して、スキルは全てではないとメッセージでも打ちたいのだろう。
まぁ、その捨て駒としての2人だ。
俺も奴らに捕らえられればそうなるだろうけど……。
捉えるために色々と俺について俺よりも調べ上げ、あのAランクの魔物だって俺の力を図るために仕掛けたって感じか。
なんか冴えてるな、今日の俺。
ギリギリなはずなのに。
いやむしろ、これが火事場の馬鹿力ってやつか。
とはいえ、やっぱり雫がいちゃ使えない。
何とか避け切っている俺の体をどうにか外に逃がして——
そう思った瞬間、声が聞こえた。
「たぁぁああああああああ‼‼‼‼」
それは魔法だった。
魔法士と回復士、魔法が使える者たちだけが扱える攻撃手段。
弱い魔法であるのは間違いなかったが、その一瞬は大きかった。
知っている声、その顔も知っている。
薄っすらと見えた影、その正体は——斎藤朱鳥、彼女が魔力を放っていた姿だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〇仁井田ジン
・スキル:
・ステータス(スキルステータス増強剤付与時)
攻撃力:156/1000(×10)
防御力:320/1000(×10)
魔法力:0/1000(×10)
魔法抵抗力:200/1000(×10)
敏捷力:480/1000(×10)
精神力:239/1000(×10)
〇鮫肌クサビ
・スキル:攻撃力アップ+60(C)
・ステータス(スキルステータス増強剤付与時)
攻撃力:100/1000(×10)
防御力:98/1000(×10)
魔法力:0/1000(×10)
魔法抵抗力:89/1000(×10)
敏捷力:67/1000(×10)
精神力:90/1000(×10)
※スキルアップ時 攻撃力+(60×10)
〇國田元春
・スキル:神様の悪戯(F)
・ステータス(1.5%時)(通常、表示されるステータスの値はMAXの値)
攻撃力:1500/1000
防御力:1500/1000
魔法力:0/1000
魔法抵抗力:1500/1000
敏捷力:1500/1000
精神力:1500/1000
※増強剤の名前を変更しました。
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