第45話「【神様の悪戯】発動条件①」
「っ———————‼‼‼‼‼‼」
俺は、斎藤さんが作ってくれた一瞬の隙を逃がさなかった。よろけて熱がるクサビの手を掴み、それに動揺して突っ込んできたジンの腕をぎゅっと握った。
――『腕力増加・強』発動
「んなっ⁉」
「がァ!?」
ガシッと掴み、動かさない。
そして、振り返り、空いたままになっている玄関の方に思いっきり発動させる。
——『神速』発動。
戦闘機が空母を発艦するがの如く轟音を周囲に散らし、そのまま飛び出した。
「っ‼‼‼‼‼‼」
後ろの雫はきっと、斎藤さんが何とかしてくれる。
とにかく今はこの2人を何とかする。
殺して――やったりはしない。
まぁ、犯すとかなんとか言っていたことはしっかり刑務所で償ってもらうためにな。
「うがあああああああああ‼‼‼‼」
手に持った2人をそのまま地面へ叩きつける。
「かはっ!?」
「ッぐは⁉」
肺が止まったかのような衝撃に俺もやられながら、二人の手は離さない。
しかし、やはり増強剤の力なのかジンを持つ手の方はだんだんとしびれてくる。
「つ、つかんで……んじゃあぁ、ねえよっ!!!」
「離してたまるかよぉ!!!」
「っそうか、よ……まぁ、掴んどかないとなァ!!! お前の妹、ぶっ潰してやるからなァ、今の俺はァ!!」
「っち、やっぱり殺してやりたいなぁ……っ」
「その気で来ないと死ぬぜェてめぇ……くそ、これが……Fの力かよぉっ‼‼‼」
そうはいっているが、俺もまだまだギアが上がっていない。普通に強さ的にはジンの方が上だった。
クサビの方はと言えば、とっくに気を失ってへばっていた。まぁ、探索者のランクもCで、増強剤を使っていてもそこまで強くはなっていなかった。
だが、やはりジンは凄い。
パワーがまるで違う、それに俊敏さと言えばもう今の俺を余裕で凌駕していた。
「——っこれならどうだぁ!?」
「っな」
すると、掴んでいた俺の腕に器用に絡みつき、そのまま捻る様に回転する。もちろん、俺もそのままの流れで一回転。止まらない遠心力に吹っ飛ばされて掴んでいた手をはじき返される。
「ったァ!!!!」
飛び出したと思えば、行先は妹ではなく俺だった。
予想と違って、動きがやや遅れる。
くそ、かまを掛けられた。
こんなことなら未来予知使えばよかった。
俺の意識がちょっと雫の方に行ったのを見計らって技を使ってくるとは思わなんだ。油断大敵っていっつも言ってるのに。
ジンも伊達に武術家職業していたわけじゃないらしい。
危うく首ごと持っていかれそうなところを差し出した手でギリギリカバーする。
もちろん、バカげた速さによって勢いを持ったジンの拳は軽くはなかった。
それはそれは重い。
今の俺の体の状態、全くと言っていい程出せていない防御力を貫通しそうだった。
いや、数値的には貫通していたと言っていい、じりじりと痛む腕を庇いながら、俺の気合でその形を保っている。
何せ、ここでやられたら雫も、それに助けてくれた斎藤さんだってどうなるか分からない。
奴らの狙いは俺だ。
用済みの雫と斎藤さんを最後まで生かしておくとは思えない。
それに何より、スキルステータス増強剤なんてヤバそうなものを作れるくらいの技術力がある組織だ。
たとえ抵抗したって簡単に壊せるやつらではなさそうなのは確かだろう。
腕の外側にジンジンと伝わる痛みに堪えながら、地面を押されてはねのける。
そのまま、勢いを殺せなくなったジンは反対側のアパートの壁にぶつかった。
「っち……いてェよ」
「そろそろ、観念したらどうなんだ?」
「っけ! んなのしてたまるかよォ!!!」
すると、ペッとつばを吐き捨ててそのまま俺に突っ込んできた。
今度の今度こそ、勢いを受け止めきれずに俺はそのままその反対側の壁にめり込んだ。
「——ぐはっ!?」
衝撃がでかすぎて、周りの景色が一瞬で真っ白になった。
気絶、とは言わないまでも微妙に意識が保てない。
ぐわんぐわんと揺れる景色の中で、何かを言ってくる顔が見える。
「っ……ンぁ⁉」
聞こえない。
口を開けるジンの声が全く聞こえなかった。
鼓膜をやられたのか?
いや、違う。
頭を打ったせいでおかしくなってるんだ。
思考がまとまらない。揺れる脳が……。
——ズガン!!!
「んぐっ!?」
いってぇ。
やばい、一発腹にもらった。
意識が持っていかれる。
——ドスン!!!
かかとで思いっきり脚を蹴られた。
痛い、普通に痛い。
一瞬の油断が、こうなるなんて……くそぉ。
本来のステータスが無ければ勝つことさえできないのか……俺は。
まだまだ、最強だなんて言えるはずもない結果がそこにはあった。
ゴクリ。
生唾を飲み込んで目を見開くとそこには拳を振り下ろそうとしているジンの姿が見える。
やばい、こんなの貰ったら今度こそ死んでしまう。
殺されなくともそこはおそらく死なない程度に殺してくるのだろう。
ジンとの付き合いは長い。
そのくらい俺だって理解できる。
こんなの、ねえよ。
くそぉ。
俺だって強くなれた気でいたのに。
こうも簡単に崩れ去るなんて、油断なんてしたつもりないってのに。
黒崎さんの後姿から学んだはずなのに、何もできていない。
斎藤さんから貰ったおぜん立てをギリギリで無駄にするだなんて。
俺がやられたら、2人はどうなる……絶対に殺されるに決まってる。
俺がやられちゃいけない。絶対にやられちゃいけない。
ここで諦めて、なるものか。
歯の奥を噛み締め、食いしばる。
向こうへ、限界をカンストして、それで見えたやっとつかめた景色だって言うのに。
本来、レベルを100にしたって10までしか上がらないステータスを99999まであげたのに。
そこまでした努力が水の泡に……そんなことさせてたまるものか。
「お兄ちゃんっ……」
しかし、その一瞬で俺の耳に雫の声が聞こえた。
いや、復活したのか?
見える、聞こえる、感じる。
知覚向上が暴発したのか?
本来、五感のどれか一つにしか使えないはずなのに、使っている時と同じくらい全てがよく見えていた。
周りが見れて聞こえて、感じられていた。
一瞬だった。
天啓を得た。
まるで、それは神の啓示。
自由気ままの神様のお告げのような——悪戯の宣告だった気がした。
直後、流れ出す。
【神様の悪戯により、生命の危機と向上心を感知しました。ステータスを5%解放します】
は、え?
急に一体、なんだよ。危機と向上心って。
……いや、解放ってことは、それが俺のステータスを上限解放して最大値を使うことができるストッパーなのか?
それが条件。
いや、ちょっと納得したかもしれない。
初めてEランク迷宮区に潜った時だって、俺は向上心を持っていた。
これから始まる冒険へのワクワク感と背中を見せてくれた黒崎さんへの憧れ。
何より、より使えるようになったブルードラゴン戦、クリスタルドラゴン戦ではもちろん、生命の危機を感じていた。対象はどっちも黒崎さんだったがお姉さんはそんなのがダメとは言っていない。
殺させたくない。
そう、深層で思い感じることが発動条件だったのか?
【神様の悪戯により、信託を受けました。あなたの推測はおおむねあっています。解放上限に関しては、危機の限度、向上心の高さに比例します】
やっぱり、だからか。
そんな簡単なことを俺は迷っていたのかよ。
それに見合った相手ならそれ相応の力を発揮させてくれる。
でも、それじゃあ、スキルは?
いつ獲得できるんだ?
【神様の悪戯により、啓示を受けました。あなたが、このスキルを発動できている間。不便だと感じたこと。それをスキルによって補うことができます】
いや、おいチートだろそりゃ。
【神様の悪戯です。すべては、神の仰せのままによって実行されています。神の気ままに理論なんて介在しません。あなたの体は神の物なのです】
随分とデタラメだな。
まぁ、そんなのどうでもいいか。
神様だとか、それがどうとか、俺には関係ない。
とにかく、こいつらを黙らせられるのなら今はそれでいい。
ゆっくりと動くジンの拳。
いつの間にか、俺の体の敏捷力は跳ね上がっていた。
腕が軽く動く。
あの時感じた速さで、目の前の拳を握りつぶした。
「——んがぁ!? な、なにィ!?」
「頼むから、大人しくしててくれよ!!!」
押し込んだ。
形勢逆転。
ジンと向きが変わる。そのまま地面に抑えつけ、気絶させるべく首を絞めた。
殺さないように、気を失えるように、そう掴んでいると——
——何かをポケットから取り出した。
「そ、それはっ」
「もうおせぇ。こいつに食われちまえヤ、おまエらァ……」
吐き捨てるようにボタンを起動させる。
すると、どこからともやら――背後に気配を感じる。
「お兄ちゃん‼‼‼‼」
「元春君!!!!!」
二人の叫び声が聞こえる。
そして、あの時と同じ異変が背中にひしひしと伝わってくるのが分かった。
——そのシルエット、あの時逃したクリスタルドラゴンそのままだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇仁井田ジン
・スキル:
・ステータス(スキルステータス増強剤付与時)
攻撃力:156/1000(×10)
防御力:320/1000(×10)
魔法力:0/1000(×10)
魔法抵抗力:200/1000(×10)
敏捷力:480/1000(×10)
精神力:239/1000(×10)
〇國田元春
・スキル:神様の悪戯(F)
・ステータス(5%時)
攻撃力:5000/1000
防御力:5000/1000
魔法力:0/1000
魔法抵抗力:5000/1000
敏捷力:5000/1000
精神力:5000/1000
【スキルリスト】
『
『
『
『脚力増加・強』『神経伝達速度上昇・強』
『腕力増加・強』
『
『
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