第41話「頼れる人は頼るべき」
目を疑った。
どうせ二人の事だと、そんなわけないと心の中で言い続ける。
いるわけがない、だって今朝、雫と一緒に登校したんだぞ?
まだ昼間、普通に考えて中学校で給食を食べてる時間帯だ。
それに、だ。
雫は凄く用心深い。
俺よりも見る目があるし、何事にも抜かりがない性格だ。
どんなときにも油断しないし、黒崎さんの様に何手先も読んで生きている凄い女の子なんだ。
もしも早退するようなことになっても絶対に俺に連絡を入れてくる。そんな雫が連絡もせずに家にいるわけなんて。絶対ない。
あるわけ、ないだろ。
そんなこと。
ましてや、ジン君だ。
いじめてくる嫌な奴だけど、少なくとも法律とかその辺を見間違えたりする男でもない。
頭は良い方だし、クサビ君の方だって同じくらい冴えてるところがある。
もちろん、嫌な奴だ。
俺は許した覚えは一度もないけど、俺の家に侵入して、それで雫を縛り付けるなんてことは絶対しな――――――い、よな?
だめだ、不安だ。
するのかしないのか、分からない。
あの2人だったらやりかねないか?
でも、でもやっぱり——あの二人はいじめが先生には見つからないようにやるし、外でやる時は必ず人目がない時でやるような人たちだ。
俺のようないらない探索者でも、やはり外でいじめると色々と進路に関わってくる。その迫害は探索者の中ではふつうだが、一般人の中では違う。ただのいじめになる。
それを知っていて、それが見つからないようにしている――そのくらいの要らないずる賢さがある。
こんな、いくらなんでも――犯罪だ。
誘拐、拉致、そして監禁。
それにあざがあることから抵抗した雫を殴っているのが分かる。これはもう暴力、むしろ殺人未遂にも当てはまるかもしれない。
くそぉ、本当なら。こんなの許しちゃいけない。
あいつだけは、手を出されて黙っていられないぞ俺は。
ぶっころ――
「——とはるくん! 元春君!」
「はっ——!?」
ミチッ!
頬っぺたに激痛が走り、俺はすぐに目を覚ました。
すると、目の前には斎藤さんが心配そうな顔で見つめていた。
どうやら、いろいろ考えすぎてたらしい。
『神経伝達速度上昇・強』のスキルが暴発的に発動していたので途中まで声が聞こえていなかったみたいだ。
「元春君、はぁ、気づいた! もぉ、やばかったよぉ。目がもう鬼どころじゃなくて尖り過ぎてたよ……」
「え、あぁ……俺としたことが、すみません」
自分の世界に入り過ぎてた。
この写真見てから色々と気が動転していて、心拍数が上がって頭に血が上り過ぎた。
「っ——いてぇ」
「大丈夫、頭?」
「大丈夫ですけど……」
その聞き方、よくないですよ。まるで俺が頭おかしいみたいな――
「——ってそうじゃない!」
「え、え……あぁもう、大丈夫? この子、あれだよね? 君の妹なんだよね?」
「はい、でも今頃は——普通に、学校で給食食べてると思うんですよ……っこんな、家にいるわけなんて」
「でも、この写真じゃ拉致監禁されてるっけど……そ、それで、ここは?」
「ここは俺の家です……でも、鍵が無きゃ入れないですしっ」
いや、違うか。
カギなんて今どきセキュリティとしては低すぎる。何より二人のスキルならドアノブごと破壊することが出来るだろう。
それに、最悪雫を拉致していれば……鍵で入ることができなくはない。俺たちの住むアパートは安い代わりにセキュリティ面が絶望的ともいえる。
「そんなの余裕で入れちゃうじゃん! は、早く行かないと——やばいよっ!」
「で、でも、これがただのいたずらではめられたりでもしたら――」
ヤバい、スキルが勝手に発動してたみたいだ。
周りの速度が遅く感じる。
動揺して、勝手に暴走しているのか。
でも、だめだ、これがどういうことなのか、こういうことにまったくと言っていい程慣れていないせいで色々と考えてしまう。
体を動かすよりも先に、頭が働いてしまう。
まずはいかなくちゃって分かっているのに、体が動かない。
くそ、くそ、くそ。
俺の小心者め!
何が精神力バグってるだ。こんなとこで動揺してるじゃないか!
「元春くん!!」
「っ」
ハッとして速度が元に戻る。
そうだ、何をあーだこーだ考えているんだ俺は。
落ち着け、俺は最強のレベルなんだ。
この身体に慣れていないだけ。この強すぎる体に慣れていないだけだ。
落ちつけ、いつだって俺は俺だ。
「行きましょう、家に」
「う、うんっ! 私も行くわ!」
「え、斎藤さんも!?」
「もちろん。だって、私は2人に悪いことしちゃったし……少しでも、役に立ちたいので!」
その純粋な瞳は少しだけ頼もしかった。
気持ちは嬉しい。
でも、この写真が本当ならここにいくのは確実に危ない。
何より、殺すつもりなら雫をすでに殺していてもおかしくはないのに律儀にこうしてラインで写真まで送ってくるんだ。
確実に、人質にして俺と話を付けるつもりに違いない。
いくら新聞を作ったからって、そんな危険に彼女を巻き込むのは——話が違う。
「駄目ですよ、それでも。あの2人は何かをしようとしてるんです。それにあなたを巻き込むわけにはいきませんっ」
駄目だ。
黒崎さんが走り出して、俺だけになったことで嫌な予感はしていた。
おそらく、そう言う作戦か何か。
行けば、確実に何かある。
しかし、彼女は俺の手を掴んで抱き寄せるようにして持ち前の目力で訴えてきた。
「忘れてない?」
「え?」
すると、彼女は俺に向けて自分のステータスを見せつけた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
名前:
年齢:17歳
探索者職業:回復士
探索者レベル:Lv.56/100
オリジナルスキル:
―――――――――――――――――――――――――――――
「私、探索者なんだけど?」
俺よりも強い。
全然強いステータス。
そうか、そうだよな。俺。
何を勘違いしているんだ。
バグったステータスで、黒崎さんにも稽古つけてもらっていい気になっていた。
俺一人じゃ何もできないんだ。だいたい、あいつら2人は俺が1人で来ると思っている。
それなら、誰かと協力して、手と手を取り合った方がいいに決まっている。
これは紳士的とかそう言う話じゃない。
彼女はちゃんとした探索者なんだ。
「……何かあっても、俺は責任取れないですよ?」
「えぇ、分かってるわ。もとより、探索者になった時点で私は命なんて覚悟してるもの」
学生の探索者は毎年1000人近く死んでいる。
自分の力を見誤り、行けると勘違いして死んでいく。
でも、それも探索者の本懐だ。
彼女がそれを全うしようとしているのなら、それでいい。
それに、こういう時に守ってやるのが俺の力の使い方だろうに。この丈夫な体と、バグったステータスは本来そうやって使うべきだ。
「——そう、ですね。分かりました。じゃあ、行きますか。俺の妹を助けに」
「えぇ、そうね! 回復は任せておいてねっ」
「まぁ、その前に弟さんに連絡しておくのも忘れずに」
「えっ、あぁ」
「んじゃ、俺は先に向かってます――」
「は、え、ちょま――――っ⁉」
————スキル『
音速をも越えた速度。
マッハで放った衝撃波もすべて打ち消す、不思議な力で駆け抜ける。
人に迷惑さえかけなければスキルは使っていいからな。そこは既存の法律に引っ掛からなければ大丈夫。
できる限りの最高速度で妹の元へ。
雫を良いようにし様だなんて思うんじゃねえよ、どんな奴でも許さねえ。
俺のたった一人しかいない家族を辱めようだなんて、馬鹿したやつがどうなるのか教えてやる。
<あとがき>
というわけで、現在第一章になるお話が完結に向かいつつありますが伏線をバリクソ張りまくってしまったおかげでお話的には第3章、書籍で言うと三巻分くらいは必要になる計算です。
一応、カクコン用に作っていはいたのですでに10万文字を超えていてどうしようか検討中ですが……さすがにPVも上がらなくなって来たりでもすれば1日1話投稿にしようかなと考えています。新作も挙げてみたいので!
ですので、少しでもいいなって思ったら見られる機会が増えるので是非是非フォローと☆評価、なによりもコメ付レビューしていただけると幸いです!
それと最後に、筆者はカクヨムの底辺で揉まれてきた経験があるので批判コメにはめっぽう強いです! 気にせず指摘、批判してください! また、どんなアンチコメでも普通に大丈夫なので運営さんが消さないなら通報しないで挙げてやってください!
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