第37話「病室にて ※黒崎ツカサ視点あり」
斎藤さんの方を止めておきたかった気持ちを押し殺してなんとか病院に着いた俺は事情を説明して黒崎さんを緊急病棟に移してもらった。
もちろん、黒崎さんが落ち付いた後こっぴどく医者に叱られた。
まず、いくらEランクとは言えど侮ってならないこと。ポーションが黒崎さんが持っていた一つしかなかったことも含め、回復魔法の後にそれを使わなかったことすべて指摘された。
今回何とかなったのはたまたま運が良かっただけで、これがもしも他のランク帯の迷宮区だったら死んでいるのかもしれないと色々言われたわけである。
この歳にもなれば怒られて反抗しようだななんて思いもしないが、医者に怒られるのは学校の先生に怒られるのとは話が違うし、ちょっと辛かった。
実際、言われていることは本当だし、そこら辺しっかりと胸に刻んでいかなくてはいけない。とにかく、このままステータスとスキルで驕り高ぶっていては高みにはいけないということなのだろう。
俺も、まだまだってわけだ。
そんなことを小一時間叱られてて、特別に許可をもらいその日は黒崎さんの病室で一夜過ごすことにした。
もちろん、雫には電話で伝えた。今回色々とイレギュラーが起きてしまったことや黒崎さんが様子見で入院しなきゃいけなくなったこと。
しかしまぁ、うちに妹は心配性なもので途中まで――
「わたしも行くから! お兄ちゃんに何があっても嫌だけど、それよりもツカサちゃんに何かあったら嫌だもん! わたし絶対行くもん‼‼‼」
——て言って聞かなかった。
いやまぁ、気持ちは分かる。俺だって妹だったらそう言っているだろうし、新しくできたお姉ちゃんみたいな存在を心配に思うのはその通りだ。むしろ止められずにここまで行くだろう。
そこで止まって明日帰ってきてね――と、最後に言ってくれた雫に感謝しなきゃだな。
ほんと、優しい妹だよ。マイラブリーエンジェルシスターしずくたんは。
とにかく、雫の分までしっかりと黒崎さんを見ておかないとだ。
「すぅ……ぅ……っ」
俺はすやすやと寝息を立てている黒崎さんをパイプ椅子に座りながら眺めていた。
——にしても、可愛い。
この前も似たような状況に陥った気がする。黒崎さんの不意に見せる表情が胸に来るというか、浄化されるというか。
……あ、いや、違うか。あれはたまたま風呂場から飛び出てきた黒崎さんの生まれたままの姿を見ただけだったか。
いやぁ、あの光景はすさまじかった。
黒崎さん、筋肉質な割に意外とムッチリしているって言うか。肉月が程よくて、胸も大きかったし、ガッチリムッチリでふわふわ(?)みたいな感じだった。
察わり心地が餅だけどどこかマシュマロみたいで、それでいて大根みたいに硬いというか。
うん、何言っているか分からないかも。
ごめん、俺結構変態なんだ。
でもまぁ、とにかく美しかった。
一糸纏わぬ姿であそこまで衝撃受けたことがない俺にとっては胸にキュッと来るものがあった。
大体、女子の裸なら雫のを何度も見ている。
雫、たまに今でも真っ裸でいるときあるし。お茶飲みたいからって風呂上がりにバスタオル頭に巻いて出てくるんだもん。
いや、タオルは体に舞いとけよって感じだ。
とにかく女子の裸は慣れていたはずなのに、黒崎さんには色々と驚かされた。
それに、意外とジャングルなのもちょっとだけ——可愛いかった。
絶対に口に出しちゃいけないよな、これ。俺だけの秘密にしておこう。
「すぅ……」
――って馬鹿なこと考えるのは失礼か。
強い癖に、可愛い顔で、それでいてどこか抜けてるところもあるし。
なんだか、惚れる要素がたくさんあり過ぎて、胸がモヤモヤする。
俺に教えてくれるくらいのお人よしでもあって、誰よりも責任感があって、でも普通の女の子で。
彼女には敵わないよ、ほんと。
美しく、可憐で、恐ろしくて強い。
それでいて、優しくて思いやりがあって、たまに見せる笑顔が最高にキュート。
そんな黒崎ツカサって言う人間が——
「——好き、なのかもな」
あぁ、なんか、やべえ。
急に睡魔が襲ってきた。
意識が薄れてくる。
瞼が重力に引っ張られる。
あぁ、くs————。
※黒崎ツカサ
胸が飛び跳ねた思いだった。
たまたまだ。
いつの間にか、知らない天井が見えて、ハッとして私はどこにいるのか考える。
この辺は期間で育てられたときに学んだこと。
私みたいな機関に所属する人間は常に命を狙われている。
だからこそ、気を失って倒れて、そこから目が覚めた時にどこにいるのか、今は何時なのか、その他状況判断は大事だと叩き込まれていた。
まぁ、おかげでっていうのはS級というものが嫌いだった私への皮肉なのかしらね。
神様は本当に悪戯好きな子供みたいだわ。
——とにかく、それが功を成したというか。
今の私の心臓は爆音を鳴らしていた。
この感情は一体どんなところから来ているのか。
なんでこんな気持ちになっているのか。
理由は分かっている。
意味も分かる。
今まで避けていることが如実に突き付けられたというか、そんな気がしてならない。
私は、ドキドキしながら驚いていた。
だって、こんな気持ちになったことは今まで一度もなかったからだ。
「——好き、なのかもな」
好き?
彼の目の先は私の目だった。
つまり、見つめられていたんだ。
私の事が好き?
國田君が、私の事を?
それを理解した瞬間、電撃が走った。
胸が跳ねた。爆発した。
もう、感情の大噴火。
表してもいいかしら?
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。
こんな感じ。
もう、最高な気分だった。
比喩じゃ表せられない――純粋な気持ち。
今にも抱きしめて伝えたかった。
でも、なんか起きれなくて、とにかく寝たふりをしながらドキドキして、耐えていた。
そして、すぐに彼は倒れ込んで寝息をかき始める。
――ゴクリ。
生唾を飲んで起き上がると國田君の頭は私の太ももに当たる。
そんなに膝枕してほしかったの? そう聞いてほしいばかりにすっぽりと収まっている彼の頭がなぜだかしっくりしてしまった。
胸のドキドキが止まらない、でもだんだんと落ち着いてきてその正体が何か分かってくる。
「可愛い寝顔」
ツンツン。
色白な綺麗な頬っぺたを触るとふにゅりと沈んだ。
マシュマロよりかは硬いけど、それでいて柔らかい感触。何かケアでもしてるのかな——なんて考えてしまう自分がいることにさえ驚いてしまっている。
この前、興味を持っていることに気が付いて、いつの間にか苗字で呼んでいて、それでもここまでドキドキはしていなかった。
でも、今は彼のすべてが気になるくらいにドキドキしている。
その現状を落ち着いて感じてる私もいる。
はち切れそうなくらいの思いが彼の可愛さで浄化される。
暴走しそうだったけれど、冷静になって、手を伸ばした。
「……っ」
ふわりふわりと撫でると猫のようで、それでいてどこか赤ちゃんを撫でているかのようで。知らないはずの母親になった気分だった。
さっきまで化け物に追いかけられていたっていうのが分からなくなるくらいに穏やかになり、抱きしめたい気持ちでいっぱいになる。
それを感じて、理解した。
そう、私は彼が好きなんだ。
——大好きなんだ。
私を超える唯一の男の子で、努力をして、諦めずに戦う彼の姿が守ってくれる彼の姿が好きなんだ。
きゅっと手を握る。
あったかいぬくもりが広がる。
ふぅ、彼の顔に息を掛けて、変な優越感に浸る。
「——ねぇ、好きになったわよ」
スリル満点の聞こえない告白に背中がゾワッとした。
<あとがき>
たくさんのコメントありがとうございます。ふぁなおです。
渦巻く闇の中で恋愛をして成長する二人。やっぱり恋愛っていいですよねぇ~~。僕も彼女欲しい。
てなわけで、一つ質問です。
文屋ってなんですか?
無知ですみません。
僕も知りたいんです!
あと、良ければ☆評価とかレビューとかしてみてくださいね~~。
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