第35話「Aランクの壁② ※編集済み」


「黒崎さん‼‼‼‼‼ 大丈夫ですか!!!!!」

「っぅ……かはっ……⁉」


 向かってくるクリスタルドラゴンの攻撃を何とか躱しながら黒崎さんに目を向ける。


 どうやら大丈夫そうではあるが……ダメージを受けている。頭と脚から血が出てて口からペッと血を吐きだすのが見えた。


「私はっ……いいから、自分をっ。回し蹴り、食らったらやばぃ……っ」


 あの黒崎さんがやばいというならこのAランクの魔物はかなりの強者って言うことだ。


 まぁ、この前黒崎さんから初耳でびっくりしたこと聞いたが、Aランクだからと言ってS級探索者がラクラク倒せるような相手ではないようだし、それは頭に入れていたけれど……。



 まさか、こうも簡単なはずの迷宮区で出るとは思わなんだ。



 Aランク。


 つまりは奴が、Sランク迷宮区に出てくるような化け物クラスの魔物ってわけだ。


 見た目からしておかしいのはよく分かるがにしても――黒崎さんが普段から戦っているような化け物相手なんて未知数だ。


 俺のこの数時間の訓練がどこまで通用するのか。


 ——発動、『脚力増加・強』

 ——発動、『神経伝達速度上昇・強』

 ——発動、『知覚向上——視覚』

 ——発動、『跳躍』

 

 頭の回転、脚力、そして視覚情報を加速させる。


 さっき扱えたスキルの神髄、ここで見せられなくてなにが探索者だ。


 超絶な速度で突進してくるクリスタルドラゴン。口を大きく開けて俺をかみ砕こうとしてくる。


 意外とスピードが遅い。足だけは速いが攻撃は意外とそうでもないのか。


 それに、さっきからずっと壁に背中預けてる黒崎さんが心配だ。


 「——っと!」


 しかし、まるで俺の油断を誘っていたかのように攻撃が加速する。


 ——ギュゥインンン!!!!


 風を切るような剃刀音が耳を劈く。

 まさに一瞬だった。


 体を捻らせて数センチのところを何とか躱す。


 しかし、躱した後に時間差で襲ってきた風に脚を取られる。


 さすがやばい。

 奴の目は狙った目をしていた。


 最初から俺が余裕をこいていたから、それを鑑みてさらに足元を誘おうとしてきたのだ。


 さすがにヤバい。


 黒崎さんでも受けたらヤバい攻撃をいくら何でも俺が受けるわけにはいかない。


 受け身の取り方もできるようになったが、それはアックスホーンにわざとやられて練習しただけだ。


 ——発動、『剛翼』。


 スキルを発動し。背中に硬い翼を生やす。

 交わした時に発生した風を利用し、そのまま巻き込まれるように飛翔する。


「っぶねぇ!」


 しかし、俺の動きにクリスタルドラゴンも動揺していない。まるで理性があるかのような知的な目でこっちを睨んできた。


「たぁあああああああああああああ‼‼‼‼」


 そこから一気に急降下。

 翻す様に回転を加えて、拳を振り下ろす。


 そのまま顔面へ一撃。


 ——ズガン!!!!!!!!


 炎が口から洩れる。

 脳を震わせる打撃を食らわせた——が。


「っ―—ま、まじかよ」


 貫けない。

 ブルードラゴンには余裕で通った攻撃が今やへこんですらいない。


 かすり傷だった。


「くそっ」


 ぎろり。

 目つきが変わる。

 さすがにダメージは通ったらしい歯が欠けている。


 とはいえ、まじか。

 貫けないのかよ……俺のステータス、やっぱり嘘なんか。


 なんで通らないんだよ、黒崎さん太鼓判押してくれたって言うのに。


 さすがに一度、退く。

 遠のいて様子を見る。

 どうするか、考えるんだ。


 黒崎さんは負傷していて、さっきの探索者がなんとか見てくれているが戦うのは不可能だろう。


「俺が何とかするしかないってのか……っ」


 そして、今度は背中を頭上に向ける。


 次は一体、何をする気なんだ。あの巨体でジャンプするなんて言わないよな……。


 すると、今度は寝ているはずの黒崎さんの叫び声が耳に届く。


「——避けてっ‼‼‼‼‼」


 避けて?

 何から避ければいいんだ?


 ただ、黒崎さんの表情は悲壮感漂っていた。あれは、絶望する時に見せる顔だ。

 つまり、今の状況は考えられないほどにヤバいってこと―――――



――――――ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!



 射撃音。

 いや、射出音だった。


 魔法的な攻撃でもない、ましてややつが宙に舞ったわけでもない。


 背中、奴の背中から放たれたのはそこから生えていた無数の角だった。


 アダマンタイトとダイヤモンドの最強硬度を誇る物質が一斉に解き放たれる。まさに閃光の様だった。


 銃撃音。


 孤児院にある200年以上前に起きた戦争史、第二次世界大戦時の高射砲の如く。


 薄暗めな迷宮区内を光る無数の線、一本の糸の様なものが虹を描くかのように光った。


 避け切れない。

 凄まじい速さだった。

 俺の『神経伝達速度上昇・強』のスキルを上回っていた。


 風を切る――なんて比じゃない。空気を斬っている。光速に近い。あまりの早さと破壊力に迷宮区内の元素が核融合しそうな、そんな勢いだった。


 つまるところ、パワーアップさせた視覚と意識を上回る。

 目に見えない、目で追いきれない。


 これが”A”。

 これが未だ未知数のAランク迷宮区、Sランク迷宮区を闊歩する魔物なのか。


 分かっていた。

 ブルードラゴンと戦ってから、明らかに強さが違っていた。

 高ランク帯のレベルの高さ、それは思うはずだ。


 F級の探索者が手を出していい領域じゃない。レベルが上がり、ステータスがバグってしまったからこうして黒崎さんと一緒に戦えていただけだ。


 すべてが初めて。

 すべてが冒険。

 その夢、知的好奇心と探求心を追い求めてやって来れた。


 たかだが数時間訓練しただけで、黒崎さんが追っていたものに追いついていたと勘違いしていたかもしれない。


 躱しきれない。さすがにこれは——駄目だ。


 しかし、その瞬間。


 再び、あの声が聞こえた。

 走馬灯、神経伝達すらも上回る速度で、響く声。


 またまた聞こえてきた。

 あの天の声が頭の中に響いた。


【神様の悪戯により、『神速ゴッドウインド』を獲得しました】


 その瞬間、体が一気に軽くなる。

 ——いや、というよりも周りの世界が重くなった感じだ。


 奴が射出するそのクリスタルも見えなかったのに今ではらくらく見えていた。


「っく――」


 次々に来るそれを避ける。

 神速――とはいったが、さすがにこの何もない状況では最大速度が出ていないのか、近づくことはできなかった。


 しかし、奴も疲れたのか攻撃をやめて、一気に後ろに飛び退いた。


 その間に着地を決める。


「今頃かよ、姉さん」


【神様の悪戯より、神託を受けました。現在、ステータスの5%を使用中です】


「は、え? 5%?」


【神様の悪戯より、『未来予知』を獲得しました】


「今度はおい、まじか、未来予知って」


 その瞬間、目に浮かぶビジョン。


 加速して突進してくるクリスタルドラゴンが一面に炎をまき散らし、黒崎さんたちが巻き込まれるのが見える。


 ——これが、未来予知。

 

 俺は大丈夫そうだが、さすがにこのままほっとけば黒崎さんたちが危ないのは確かだ。


 ココは倒したいが、仕方ないか。


「っ——」


 動き出す。それよりも前に動く。


【神様の悪戯により、『腕力増加・弱』を獲得しました】

【神様の悪戯により、『腕力増加・弱』が『腕力増加・強』に進化しました】


 神速。

 えぐいスピードで走り出し、強くなった腕力で全員を抱える。


 炎がまき散らされるのを確認して、俺はそこから飛び出した。



 初めての敗走。

 それを知った日が今日となった。







【スキルリスト】

神託予見ゴッドハイジャック』『知覚向上パーセプションアップ』『魔物特性モンスターブック』『高速移動スピードスターlv.1』『自信向上コンフィデンスアップ』『極寒性気色悪つまらないセクハラ

周辺探知マップローディング』『跳躍ジャンプ

剛翼ハードウイング

『脚力増加・強』『神経伝達速度上昇・強』

『腕力増加・強』

未来予知フューチャープレディクション

神速ゴッドウインド

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