第18話 建造ツールその3
女神を言いくるめた男、ユウですけれども、現在女神様をガイドにしてだらだらと森を歩いています。
クロベエに乗って楽をしようと思ったのに、あいつどっかに出掛けたまま帰ってこねーでやんの。まあこっち来て強くなってるからな。
ほっといても平気だろうけどさ。
てなわけで、自分の足でてくりてくりと歩く。森林浴だぜと楽しんでいたのもはじめだけ。だんだんと飽きてまいりました! 草めっちゃ生えてて歩きにくいし!
まだつかねーのかよと、なんか肘のあたり痛痒くなってきたぞと、俺がグズり始めた所でパンちゃんこと女神さまが足を止めて指をさす。ようやくか……。
「ほら、この木がそうよ。この大きさなら2本もあればいいけど、今後のために10本くらいキープしておきなさい。また口車に乗せられて道案内させられたらたまったもんじゃ無いからね」
「へいへいーっすいませんねーとくらあ」
道中楽しそうにしてたくせに何言ってやがんだ。今時ツンデレヒロインとか流行らねんだぞ? いや僕は好きですけどね。
さてと、伐採するとしますかね。つっても斧なんて便利な物は持っちゃいない。けれど俺には便利なチートがある。いいですよね、開拓ツール……ええと、スマホを取り出して、っと。
「そしてそのままスマホでドーーーン!」
「ちょっとおおおおおおおおお」
なんかアプリ起動すんの面倒でそのままスマホで殴りつけてしまったが、いけるじゃないの。これならわざわざツールを出す必要もないね。
「よっしゃーー! 盛り上がってまいりました! 続いてもういっぽんいくぞー!」
ズドドーーーン
「こらー! だからなんでツールを使わないのよ!!!」
「え……こっちのが手っ取り早いし……それに……なんだか……気持ちいい……」
「うっとりすんな! 気持ち悪い!」
いやあ、楽しかったですねえ、伐採作業! 気づいたら20本ほど切り倒してしまいましてね、やり過ぎだとパンちゃんさんに睨まれちゃったが、まあノルマを達成できたんだし許してほしい。
切り株は流石にスマホじゃどうにもできなかったので、開拓ツールで除去をしてアイテムボックスに突っ込んでおいた。いつか何かに使う日が来るかもしんねえしな。
「初めからそれを使いなさいよ!」
「それはそれこれはこれ」
アプリを開いたついでに整地もしておく……ううむ、森の中にちょっとした広場が出来てしまったな。せっかくだし、後で何かに役立てることとしよう。
作業も一段落したので、拠点に戻りお昼の用意を始めた。
パンちゃんが『これからはちゃんとアプリを使え』だの『せっかく作ったのに甲斐が無い』だのうるさかったが、肉を焼き始めると静かになった。これからこいつがうるせー時は肉を焼くことにしよう。
たださ、こいつ解説マンになるとちょいちょい便利なネタをポロリとするっつーか、生活に役立ちそうなヒントを出してくれるんよね。うまく付き合えば『生体ナビさん』として便利に使えそうだし、なるべく優しくして手懐ける事にしよう。
「鉄板や鉄串、フライパンや鍋があればもっといろいろ作れるんだけどなあ」
「それなら【制作ツール】で実現出来るわね。明日作ったらいいじゃない。ちなみに私はシチューを食べたいわ」
「さり気なく催促するなよ……シチューに関しては俺も食いたいけどどう考えても食材が足らんだろ? スープ的なそれを指すなら出来なくは無いけど、パンちゃんが言うのは多分クリームシチューだよね? 材料的に無理無理無理無理カタツムリー」
「あー食材ねー」
「野菜もそうだし、牛乳とか無いじゃん。どう頑張っても肉と木の実の謎スープしか作れねえぞ」
「うーん、近所に牛乳的な物は……無いけど野菜ならあるわね。わりと近場にある集落の人達が畑をやってるから、そこから野菜を分けてもらいましょう」
「通貨がねーとか言ってたから物々交換だよね? 俺が出せるのって肉くらいしかねーっつうか、近場に集落があったんだ」
「うん、近場といっても徒歩だと少し遠いけどね。お肉もいいけど岩塩もいいわね。掘るのも手間だからそれなりに喜ばれると思うわ」
「野菜のことはまあ、わかった。けど牛乳はどうする?」
「それは……この辺りだと難しいから……そうね、牛みたいで無害な魔物がいるからそのうち何匹か連れてきて牧場を作りましょう。あ! ちなみに野菜はね、製作ツールで種にすることもできるの! この余ってる土地に畑作れるわよ! 畑よ畑! わあ! なんか楽しくなってきたね! 牧場のゲームみたい! ねえ、ユウ! 私カブを育てたいわ!」
女神さまがノリノリである。そんだけやりてえなら自分でやればよろしい。うん、この調子ならもうこの世界は大丈夫だろう。俺の役目はもう終わったようだな。帰ろうか……地球へ……そして俺の身体が白い光に包まれ、次に目を開けたときには見慣れた竹林が……――
「何馬鹿なこと考えてるの! 私に押し付けてクリアーってそうは行かないわ! そう簡単に帰してなるものですか!」
畜生、こいつ時々ノーモーションで心を読みに来るのがムカつくわ。つか、そう簡単に帰さねーって……何処の悪役だよ。
しっかし、なんか急にやること色々増えちまったな? 誰のせいだって女神がシチュー食いてえとか言ったせいなんだけど……取りあえずスマホに予定をまとめてみっかね。
◇◆
明日 魔石の確保 午後からは生活用具作成
明後日 魔石の確保 午後からは集落へ行く下準備
明々後日 集落へ行き肉や塩と野菜を交換
◆◇
野菜がどのくらい貰えるかわからないが、ある程度ストックできるだけ貰えると嬉しいな。優先するのは種にして増やすことだけど、やっぱ野菜は食いたいしね。
ううん、野菜が手に入ったら畑を作って牧場を作ってかー。
自分の畑で作った野菜はきっと美味しいだろうな。ジャガイモ的なのを植えたとすれば、最低でも収穫まで3か月くらいだっけ。時間はかかるが、それだけ楽しみが増えるってもんだ。
なんだかんだいってこういう生活は楽しいからな。スマホがあるから文明が恋しくなることはあんまりないし、ちょっとしたキャンプ気分だよほんと。うーん、パンちゃんじゃ無いけど盛り上がってきたぞ!
って、家を建てるんだったわ。何のために森に行ったんだよ!
改めてアプリを立ち上げ建造をする。魔石をやや消費し、5分ほどでクラフトが終わって拍子抜けだ。
「案外……いや、かなり早いんだな……バッテリーもあんまし減らなかったしびっくりしたわ」
「ちっこい家だしね。そんなもんよ」
少々釈然とせんが、早く安く建てれる分には文句は無い。
というわけで、早速お宅拝見だ。ドア……いや、資材の関係で引き戸になっている戸を開けて中に入る……
「わあ! 木の香り漂う温かみあるおうちですねー」
「あらー、意外といい感じじゃないのー」
悪くなかった。狭いながらも素敵な我が家が出来た。じわりじわりと謎の達成感がこみ上げる。うん、俺殆どなんもしてねえけどね!
いいの! それなりにがんばったんだから!
さあ、さっそく今夜はここで料理をしてご飯を食べ、ぐっすりと寝ようじゃないか。
屋根の下で料理をして御飯を食べる、か。当たり前だと思って居た事だけれども、一度失った後では文化的でとても素晴らしい事に感じるなあ……。
ん? 料理?
「あれ、そういえばキッチン作り忘れてたわ……」
図面に一番大切なものを書き忘れたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます