バグった世界にテコ入れを ~停滞した世界をチョロい女神と発展させていきたい~

茉白 ひつじ

S1 1年目

1章 拠点を作るぞ

第1話 これよくあるやつだ

 連日のクソみてえな仕事も昨日で終わり! 久々の連休が今ここに始まった……! 


 ククク……その全てを溶かし、最終日まで幸せにぐーたらしてくれよう! 


 なんてテンションを上げつつも、特にする事も無いので家でダラダラしていると、愛猫のクロベエが腹に乗って前足でペシペシと俺の顔を叩いてきた。


 この行動、これは『散歩つれてけアピール』だ。


 今時のキャッツは放し飼いをしないのがスタンダードだかんな。とはいえ、閉じ込めっぱなしだとストレス溜まっちまうんてんで、たまに散歩に連れて行ってるんだけど、こいつがまた散歩が好きで好きで。


「はいはい、まってろよー。今リードだすからさあ」


 リードを手にすると『そいつを首につけて散歩に連れてってくれる』と理解するんだろうな。ぐいぐいと俺に身体を押し付けて早くつけろとせがむんだ。


「ひゃー、さっむいなあ……」

 

 気づけばもう11月。おらおらそろそろ冬にしてやんよーと、容赦なく冷たい風がピシピシと頬を打ち付けてとっても辛い。辛いったら辛い。


 こんなにも俺が辛いと言うのにクロベエは嬉しそうにリードを引いてのしのしと歩く。


 タヌキのようなぶっとい尻尾に加えて、全身がまた、ふさふさとした焦げ茶色の毛に覆われてるもんだから歩く姿は毛虫のそれにしかみえん。道路をモッコモコモッコモコ歩くアレにしかみえんわ。


 見た目からして妙な生き物にしかみえんのに、犬のように散歩をせがんできちんと散歩ルートを歩くんだもん。猫であることが疑わしくなっちゃうね。


「お前ほんとはタヌキなんだろ? そうなんだろ? もしくはそれに準ずる何かなんだろ? タヌの王様かなにかなんだろー?」


「にあ」


 ジロリとこちらを睨みつけ、不機嫌そうに短く鳴いて歩みを強めるクロベエを見ていると、こいつ言葉を理解してるのではと疑ってしまう。


 そう思う事はしばしばあるんだよな。例えばさ、帰宅して部屋の中にクロベエが居ないなって時に――


『ち~る買ってきたぞー!』


 ――なんて言った瞬間、部屋の奥の方から『ゴソゴソガサガサドドドド』と、音を立てて現れたりするからな。馬鹿なようで賢い生き物だと俺は思うぜ。普通に『ただいま』っていっただけじゃあ絶対出てこねえからな。


 冷たい風が吹きすさぶ中、嬉しそうに歩くクロベエに引かれながら嫌々歩く俺。まあ、楽しそうなら何よりなんだけど、俺ぁもう一刻も早く家に帰りてえよ……。


 何時もの様に近所の市道を適当に歩き、程よく満足したクロベエ君は家に帰ると見せかけて裏山に続く小道を進んでいく。まあ、これも何時ものルートだかんな。裏山の畑までしっかりパトロールしてようやく満足をして帰るかーってなるのが毎度のパターンなんだ。


 ……おっと、クロベエくんの様子がおかしいですね。あれだけ元気に歩いていたのに突然歩みを止め、地蔵のように動かなくなってしまったぞ……。


 って、何かが起きそうな具合にソレらしく言ってみたけど、実はこれって別に珍しいことじゃあないんだわ。苦手な相手――クソデカ野良猫と遭遇した時や、そいつのつけた匂いを見つけたときなんかに、こういう具合に動かなくなるんだ。こいつ、図体でけえ癖にクッソビビリだからなあ。


「どうした? またデカノラの匂いでもしたか?」


 耳はすっかりぺたんと頭にくっつき、尻尾が狸のように膨らんでいる。ああ、だめだね。完全に怯えモードに入ってますわ。


 こうなるともうテコでも動かない。これは完璧に野良猫のマーキングみっけちゃってビビっちまったやつですわ……めんどくせえ。


 こういう時に無理は禁物なんだ。焦れて無理に抱き上げたり、リードを引いたりして動かそうとしようとした瞬間、ガウウと唸って八つ当たりを始めるんだ。それで何度か足をガブりとやられたことがあるからな。


 猫に噛まれんのって馬鹿に出来ねえからな。軽傷でも病院行かなきゃ後が怖いんだ。だからこうなったらもう、隣にしゃがんで優しい声をかけつつ、じっくりと宥めて落ち着かせるしかないわけで……はあ、長期戦にならなきゃいいなあ。


「クロベエ……クロベエ……聞こえますか……あなたの耳に直接話しかけています……」

「ウゥー……」

「怯えるのをやめるのです……さあ……家に帰りましょう……おいしいおやつと……炬燵がありますよ……」

「ウミャア……」

『人間よ……にんげ……あれ? ちょっと! あたしと行動丸被りしてんじゃないわよ!』

「クロベエ…… クロ…… おい今の誰だ!」


 なんか今……知らない女の人の声が聞こえたぞ……まさか近所の人の悪乗りか? と、キョロキョロあたりを見回してみたけれど、誰もいない。そもそもご近所さんとそこまでする仲じゃなかったわ……いきなり距離詰めて来られてもそれはそれでこえーわ……。


 じゃあ今の声はなんなんだ? 疲れてんのかな? 俺ってもしかして結構弱ってた? 幻聴とかまじやべーんだけど。


 ……なんて、少し不安な気持ちになっていた所に如何にもな感じの光が降り注ぎやがった。おいくそなんだこれ眩しいぞ! ドッキリか!? カズ君の下剋上か? 今までの分まとめて俺を脅かして遊ぼうって……あれ……なんだこれ……視界が……歪む……


 ……これは……まさかマジでWEBノベル界隈でアホほど使い古されてるあれか……? クッソ、なんてベタで強引な展開……ッ!」


◆◇


 ハッと、目を開いてみれば、何かこう……如何にもアレな感じの……いわゆる白っぽい神殿的なアレ、ペガサスな感じの騎士なんかが居るような……例のアレとしか思えない場所に立っていた……マジかよ……マジでテンプレに巻き込まれちまったのかよ。


 目の前にはとても分かりやすい姿をしたアレがにこにことしながら立っている。なんかもうこの先の展開読めるんだけど『ここは?』とか『俺は死んだのか?』なんてベタなセリフを言うのも癪だったから黙ってその姿をじぃっと見つめてやった。


 へへ、見ろよアイツ、気まずくなってモジモジしはじめたぞ。


「こほん。私の名前はリパンニェル……世界を総べる女神です……」


 しびれを切らして自己紹介を始めたぞ。ふふ、この勝負俺の勝ちだな。相手が口を開いた以上、俺もだんまりしてちゃ駄目だよな。話を進めるためにも相手をしてやろう。


「ああうん、知ってたわ。親の顔より見たものこの展開」

「ま、まあ……かなりベタな事をしてるっていう自覚はありますが……恥ずかしくなってくるので勘弁してください」

「それで、ええと……ルィプァnニュ……リゥィパ……なんかヒューマンの俺には発音しにくい名前みたいだからパンちゃんって呼びますね」

「あ、はい……って、ちょ! ちょっとなんですか! 日本語で話してるのに発音しにくいってこたないでしょ!? しかもそんなペットみたいな名前……まったくもう、危うく流れで受け入れかけちゃったじゃないのよ!」

「ペットみたいとか言うなよ! これはなあ、前飼ってた猫の名前で……このクロベエのおばあちゃ……うお! クロベエお前もいたのか!」

「んなあ」

「やっぱりペットの名前じゃないの! あのねえ! 女神よ? 私めーがーみ! それを……猫の名前って……話が進まなくなるので今はそれでいいことにしますけどもぉ」


「あざっす。呼びやすいし以後、それで通しますね」

「くっ! 良くはないけど面倒くさくなってきたので許します……」


 なんだこいつ、ちょっと面白えな。いじりやすいっていうか、引っ掻き回せば良い反応が返ってくるっつーか、あれだ、打てば響くってやつだな。なんだか久々にちょっと楽しくなってきたけど……ここに喚ばれたって事は、そうか俺はあの時裏山でクロベエと……。


「んんっ! ごほん! 実はですね、成瀬なるせ ゆうさん、貴方にちょっとしたお願いしたいことがありまして、本日貴方をこちらに召喚させていただきました」

「ちょっとしたお願い? そんな軽いノリで召喚しちゃったの?『印刷できないのー! 助けてー! どうせ暇でしょ? 今からきてよー』って雑に俺を呼び出す従姉妹みたいなノリで気軽に殺されても困るんですけど!」


「こ、殺す? ああ、はいはいはい違いますよー、死んで異世界の住人に転生とか、生前の姿で転移とかそんなんじゃないですよ!」

「え? マジで? 謎の発作とか、良くわからん細かい隕石直撃とか、死神の誤爆とかそんなんじゃないの?」


「違いますー! そんな物騒な真似しないわよ。私は貴方を元の場所からそのまま連れてきただけですし、用が済めばきちんと元の世界に帰すつもりよ? 勿論、その間年を取らないよう上手いことやりますし、あたしの世界で死んじゃうことも無いです! どんだけ過ごしても27歳のままお帰りいただけます。てかさ、ノベルに有りがちな『後先考えずに勇者召喚する王族』とか『運命弄ってコロコロして異世界にご招待』しちゃう手癖の悪い神族なんかと一緒にしないでくれる? 私これでも穏健派管理神なんだから!」


「めっちゃ早口で一気に言った! 帰れるんならまあ、いいけどさ、やっぱ突然攫われるのはいい気分じゃないですわ……ていうか、なんで俺なんです? 俺なんて良くいるそこらのあんちゃんですよ? ほら、攫われがちな人が持ってるような異世界活躍系職種でもないし、なぜか無双スキルが芽生えるニートや冴えないおっさんでもない普通の会社員なんですが……つか、さらっと流しかけたけど、俺の名前と年齢把握してんの怖いんですけど……個人情報保護法って御存じ!?」


「ほらあれですよ、あれあれ! 第一村人発見! みたいな? ダーツが当たったところに来たら最初にあなたがいたというか、通りかかったというか、まあたまたま? そこに居たからっていう……名前なんかはまあ、そこはそれ。神様的なアレがこれでして……へへ」


「……ええ……色々と雑ゥ……」


「ほらほら! 悪い話だけではないからさ! 話だけでも聞いて行ってくださいよ! 今なら便利な特典もつけちゃうし!」

「なんか老人狙いの詐欺みたいになってきた……」

「たーのーむーかーらー!」


 どうせこんな所から一人じゃ帰れねーから聞いてやるけどさあ、まったく強制イベントすぎるだろうがよ。しょうがない、ひとまず話を聞いてやりましょうかね、話進まねーし。

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