帝様の為ならば! 元ヒーローロボのアイドル稼業

ログシー

第1話 戦いは終わった

 人里離れた山の奥で、幾つかの黒煙が立ち上っていた。

山の見た目には人の手の入っていない山林の緑に覆われていたが、この中は人々の知らぬ間に、ロボットによる裏からの世界の支配を企む組織『ダーククラウド』の拠点があったのだ。


そう、あった。

 

 山林を降り、近くの町に通じる道の上に、一人の男が倒れている。見た目にはスーツ姿の金髪碧眼の白人男性だが、腹部に開いた大きな穴からは、彼が紛れもなくロボットであることを示すように細かな機械と火花が音を立てていた。

 その倒れているロボットを見下ろすようにゆっくりと歩み寄る人型のロボットは、対称的に全身を鋼の装甲に固めた存だった。

彼もまた深く傷付いている。左腕は既になく、身体中にも細かな損傷は数えきれない。右手からは白く煙がまとわりついている。

「お前の野望は潰えた、マスタークラウド」

 ボロボロのマスクの口にあたる部分から低い男性の人口音声が響いた。

倒れていた白人男性ロボットは苦悶の表情を造りながら頭部だけを憎き敵ロボットに向けた。

「アンティークめ。我々が人類を正しく管理しなければ、地球の劣化は限界を迎えるというのが何故解らぬ! 我々は進化の止まった人類に代わり何処までも進む。お前とて私に手も足も出なかったドラム缶の案山子がここまで強くなった。ロボットの可能性は人類の上に立つべきだ!」

白人男性ロボはアンティークと呼んだが、その見た目は戦いの傷を除けばおおよそ真新しいメタルスーツのヒーローの姿である。テレビのヒーローものにあったそれを思えば確かにレトロに感じる人もいるだろうが、マスタークラウドが指すところではない。

「人の力あってのことだ。私は大切な御方を護る為に造られた。人の手で造られたものが人を支配しようなどと烏滸がましい」

 煤だらけになった右拳を胸元で握りしめる。ブルーをメインとしたメタルヒーローのその手は関節の隙間から高熱による赤い光が漏れている。

 先程マスタークラウドを貫いた必殺の一撃はその手をも著しい損傷に晒していた。おそらくもう一度その鉄拳を放つことは出来ないだろう。

 マスタークラウドと戦うまでに、本拠地で多数の戦闘ロボット、幹部クラスロボットをも死闘の末打ち倒しての今である。もう、エネルギーも尽きている。

「人に使われるだけが私達の存在価値ではない! 私は私達を…」

 それ以上、マスタークラウドの言葉はなかった。

「否定はしない。だがそのために多くの人々が傷付くのは見過ごせない。別の方法であったはずだ」

 その言葉と共に、ヒーローは膝から崩れ落ちた。立ち上る力もない。センサーが微かに、人の駆けてくる足音を捉えているが、そちらへ顔を向けることも出来ない。

(氷見博士か。私はやれるだけの事はやった。おそらくまだ残っているダーククラウドのロボットはいるだろうが、博士なら私より優れたヒーローを造れるはずだ)

 自分がもはや修復する価値など無いと、言葉にはしないがある種の諦めを、そこに少しの願望も込めて考えていた。

(もう、終わらせてくれ。願いの叶わぬ人生でも、充実していた。これで眠らせてくれ)

「マイティー・ゴウ!!」

 駆けてくる女性の悲痛な叫びを最後に、最期まで戦い抜いたヒーロー、マイティー・ゴウはその機能を停止した。

戦いは終わった。

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