世界最強の殺し屋がヤンデレ女に好かれちゃった!?

フィリア

1話 世界最強の殺し屋がヤンデレ女に好かれちゃった!?

 引き金を引く。乾いた銃声が辺りに響く。そして、血飛沫が舞い上がる。それを見ている一人の中年の女は悲鳴を上げようとする。だが、それすらさせない。その女が声を発する前に、俺はまた引き金を引く。


 どさりと重たい音が辺りに反響し、二人の影が地面に覆いかぶさる。それを見て、俺は何も思わない。何も感じない。そういう風になってしまったから。


 俺は殺し屋。世界最強の殺し屋と呼ばれている男、蘭一縷(あららぎいちる)。それが俺だった。仕事に情など持ち合わせないし、そもそも心を許す人間などいない。だからこそ、目撃者がいたとしても情を感じることなくすぐに殺せると思っていた。


「お父さん……お母さん…」


 その声が聞こえ次第、俺はすぐに振り返り、銃口を向けた。銃口の先にいたのは、ピンク色の髪をした少女。年齢は16歳ほどだろうか。その少女は、俺のことなど視界に入っていないような振る舞いで、倒れている二つの影に歩み寄っていく。


 バレたら面倒だと考え、すぐに殺そうとした。だが、引き金に力を入れることはできなかった。それ何故か…


「早く治療しないと………血流れてるよ…」


 その少女は虚な目をしながら、銃で貫かれた男と女の傷口を消毒している。


 早く殺せ、殺さなければ面倒なことになる。脳は体に命令していた。だが、体は動かなく、その場に硬直する。なぜなら、このような経験は初めてだから。


 俺自身、無情な男だと理解していたし、ターゲットになっていた奴らには情のかけらもわかずに殺すことができていた。そして、殺し屋の暗黙のルールである、目撃者は関係がなくとも殺さなくてはならない。それを実行することもできると考えていた。でも、いざそのような現場に居合わせてしまうと、できなかった。


 俺はその少女に歩み寄った。


「無駄だ。そいつらはもう死んでいる。」


 すると、少女は俺に気がついたのか、肩をピクリと震わせながら振り返った。


「お兄さん……誰?」


 聞かれたが、俺はその問いに答えることはなく、かわりに銃口を少女の額に押し付けた。


「話すつもりはない。そして、今ここで起きたことを口外するな。したら殺す。」


 瞬間、自分の父親と母親が殺されたことに気がつく少女。そして、俺のことを憎悪を含んだ目で睨みつけた。


「なんで…なんで殺したんですか…」


 その問いに、俺は表情を変えることなく、無情に告げた。


「お前に教える義理はない。今すぐここから消えろ。」


 途端、力が抜けたように少女が気を失った。


「………………え?」


 俺はかなり慌てた。任務完了の連絡を入れてからしばらく経っている。そろそろ掃除屋が到着するだろう。だが、そしたらこの少女も殺さなきゃいけなくなる。だから逃げろと言ったのだが…


「おい、起きろよ。おいって。」


 俺は頰を叩く。ぺしり。またぺしりと。だが、その少女は寝息を立てるだけだった。


「……ショックか…」


 ショックで気を失っていた。


 俺はこの少女を殺したくなかった。自己満足かもしれないが、俺は少女の親を殺した。普通ならこの少女も殺すのだが、生憎とこいつに罪なんてない。ゆえに殺すのには躊躇いがある。気を失ってるから放置することも考えたが、結局は掃除屋に殺されてしまうだろう。


「………どうすんだよ……」


 俺は呆然と呟き、しばらく考えた後に、この少女を一旦引き取ることにした。これ、誘拐じゃね。


 そうして一旦少女を部屋の外に隠し、掃除屋に後は任せ、俺は少女を家に連れて帰ったのだが。


「…………んにゅ…」


 謎の言語と共にそいつは起きた。俺は話しかけることでもないと判断し、そいつが話しかけてくるのを待ったのだが


「お兄さん……誰?」


「…………へ?」


 変な声が口から出た。


「お前……覚えてないのか?」


 すると少女はしばらく考えるそぶりを見せたが


「なんにも。」


 と呟いた。俺は困惑した。覚えていないということは、親が死んだということも覚えていないのだろうか。


「お前、親のことは覚えてるのか?」


 すると、少女は微笑みながら


「うん!優しいお父さんとお母さんだよ!」


 と言った。その言葉に、俺は眉を顰める。あの二人の中年の男と女が優しいとはどういうことだろうか。


 俺は殺し屋で、過去何人殺したかなんて覚えていない。わざわざ覚えてたとしても意味がないから。


 そして、俺は、罪を犯した人間しか殺さない。ゆえに、今回のターゲットも殺した。陰で子供たちを誘拐して身代金を要求したりしながら生計を立てていたクソな奴らだった。俺がそういったことを言えるわけではないとは思っているが、今回のターゲットともそこそこ罪を重ねていたのだ。


 だからこそ、俺はこの少女が言った優しい父母と言う言葉に疑いを持った。だが、考えてみれば実の娘にそんなことを言うわけがないという結論に至った。


「ていうかなんで私知らない人の部屋にいるの?誘拐?」


 今度は今自分が置かれている状況に疑念を抱いたようだった。


 ショックで失われてしまった記憶というのを伝えるべきかどうか悩んだのだが、今伝えても混乱させてしまうだけだという結論に至った俺は


「お前の父さん母さんからしばらく引き取ってくれって言われてな。しばらくお前と暮らすことになった。」


 苦しい言い訳かと思ったが、少女は楽観的な思考なのか、すぐに納得して


「そうなんだ!よろしくねお兄さん!」


 と言ってきた。この少女の名前は確か…そう考え、俺は仕事前に見た名簿を思い出す。


「二階堂零(にかいどうれい)。だったか。まぁ、よろしく。」


 そんなこんなで俺たちは一緒に暮らすことになった。何故一緒に暮らさなければならないのかというと、まずこいつを野放しにしたら殺しがバレる可能性があるのと、ただの罪悪感だ。


 そうして俺たちはそこからしばらく暮らしていったのだが…




「好き。」


「どうしてこうなった。」


 俺は頭を抱えた。ここ最近で毎日のように言われている好きという言葉。俺はその言葉の真意が分からず悩む。


「その好きの意味は?」


「恋愛的に決まってるでしょ!」


「そ、そうですかー。」


 こりゃダメかもしれん。なんで俺がこいつから好かれてるのか意味がわからない。


 あれからしばらく時が経ち、こいつの両親は行方不明ということになった。それなりに大きな家の金持ちのグループだったということもあり、いなくなってからすぐに話題になった。幸いにも、悪いことをして育てていた娘が零だったので、零のことは世間には知られていない様子だった。


 最初はこいつも悲しんでいたが、少し甘やかしたら気がつけば好かれていた。ただ好かれるだけだったら良いのだ。だが、こいつの場合は違う。


「……ねぇ。」


 低くて無機質な冷たい声が俺に向けられる。


「……なんでしょう。」


「肩についてる髪の毛…誰の?」


「あ、あはは〜。誰のだろうね〜。街でぶつかった人かなぁ。」


 目が泳ぐ。俺は嘘が苦手かもしれない。いや、こいつにだけ嘘がつけないのだ。


「ねぇ。1と2と3。どれが良い?」


「なんの選択肢?」


 いきなり聞かれたと思ったら意味のわからない選択肢を迫ってくる零。


「言うわけがなくない?言ったら意味ないもん。それで、どれにするの?」


「そ、そうだな〜。じゃ、じゃあ1で?」


 すると零はキッチンに向かって行って、しばらくして帰ってきた。瞬間


「っぶねぇ!」


 俺の顔の真横を鋭いナイフが通り抜けた。


「あれ?殺すつもりだったんだけどな〜。」


 そんなことを笑いながら言う零。


 俺は殺し屋。最強の殺し屋と呼ばれた男。怖いものなんてないはずだった。だが、ここで一つ恐怖を感じる人物が出現した。それは


 二階堂零だった。


 





 

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