ディアヴォロスの天使
来栖彩月
初めの話
最強の2人組
ドカンッ!バタンッッ!!
ドアが乱暴に開かれて、銃を構えた男達が現れる。
「3人ねぇ、まあ、大丈夫よね。見た感じ銃に慣れていないようね」
「なぁにブツブツ言ってんだぁ?」
「今の状況がわかっていないんだろ」
「美女がパニックゥ!いいねぇ」
男達は銃という武器に頼っているようで余裕のある表情でぺちゃくちゃと話している。
「おい、早くその鞄をよこせ」
「じゃぁないと、ほらぁ?」
バンッ!!
足元に銃弾を撃ってきたのは右端に立っていた男。
「あ、おい撃つな」
「ああ?いいだろ、もう使わないんだろぉ?」
真ん中の男が何かいいたそうな顔をしているのに、それに気づかない右端の男はなにが楽しいのかクツクツと笑っている。
「ほぉら、美女さん?次は頭に撃ってやらぁ!殺されたくなら早くその鞄をよこしなぁ?」
右端の男がドラマなんかにありそうなセリフを大声で叫んでいる。
「うるさいわね、そういう茶番はしたいものかしら?残念、不合格」
そう言った瞬間、走り出すと右端で騒いでいた男の手元に向かって蹴り上げる。男の手元から離れた銃を素早く掴むと、左で驚いたように突っ立っている2人の男を撃つ。
「さあ、何か言い残すことはあるかしら?」
銃を奪った男の頭に銃を突きつける。
「あ、あああ、ああ・・・」
2人の男が横で血を流して死んでることにパニックになっている男。
「はあ、つまらない男ね。せっかくドラマを再現させてあげようと思っていたのに?サヨナラ」
バンッ。
その音と同時に男はバタリと倒れていく。
月の鈍い光が差し込む薄暗い部屋に静寂が訪れる。
「どうするんですか?強盗犯から盗んだ品々は?」
薄暗い部屋に静かに聞こえてきた声変わり途中の不安定な声。
「あら、彩。そこにいたのね?いい影の薄さね」
褒めているのなけなしているのかよくわからない言葉。
おそらくどっちもなのだろう。
「ありがとうございます。それ、どうするんですか?」
「そうね、盗まれたもの返しといてちょうだい。こいつら、盗んでくるのはうまくいったようだから、楽よ」
男たちから奪った中身を見てつまらなそうに言う月。
「大したものはないわね。まあ、そんな感じはしたけれどね」
大量の宝石が入っているであろうバッグをひょいと投げ捨てる。
「なぜ、3人とも殺したのですか?」
このバッグを奪うだけであったら、この3人は殺さなくてもよいはずだ。
わざわざ殺した意味がわからず、彩は肩をすくめた。
「いいじゃない?こういう奴らは罰を与えなくっちゃ。ほら」
月がみせてきたスマホの画面には、男3人と5歳から11歳ほどの子どもたち十数人が閉じ込められている写真が映し出されていた。子どもたちの体には多くの痣がある。痣だけで済んでいるのはその子どもたちを売るためなのだろう。痣程度の傷ならすぐに治る。顔に傷がないのも商売だからだ。
「そんな証拠持っているんだったら、警察に言えばいいじゃないですか」
「バカね、この問題は裏社会の問題よ。表社会の正義である警察が動くはずないじゃない」
「だから月さんがこんなところで殺したんですか」
2人が3人の亡骸とともにいるこの場所はすっかり人気のなくなった街の廃墟ビル。何も置かれていないこの部屋の空間は不気味だ。
月はすっと亡骸のもとに行くと亡骸の近くに落ちている銃を取り上げしげしげと見つめている。
「あら、はじめに殺した2人はまあまあな銃じゃない。一番威勢の良かった男の銃だけなんでこんなにしょぼいのかしら?」
それが不服だったらしく、すねたように口を尖らせている。
「そんなことで、すねないででくださいよ」
タブレットを操作している彩は月に目を移すことなく呆れた声で言う。
「『そんなこと』じゃないわよ。私のプライドが許さないわ」
「はあ、そうですか」
無関心な彩の声は月には聞こえていなかったようで、細くて長い指に銃のトリガーをかけ、くるくると回している。
「男三人の処理、終了しました。」
「やっぱり彩は処理が早いわね。あとはこのガラクタだけね」
そう言って、月はくるくると銃を回していた手を止め、ズボンのポケットに銃を突っ込んだ。そのポケットに入れた銃が『一番いい銃』だったのだろう。月は武器を集めるのが趣味の一つだ。
「処理班を呼びました。このままで大丈夫とのことです。」
「あら、そう。なら帰りましょうか」
月がポニーテールに高く結んでいた髪を解くと、絹のようになめらかな黒髪がふわりと舞う。
窓から差し込んでいる月の光に照らされて歩く様子は、天国へと導く天使のようだった。
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