野良猫にも見たい空がある

@manami_k

第1話 逆レイプ

 愛が重かった。


 俺は明らかに出来損ないなのに。



 手放しで愛を与えられた。




 何をしても怒られなかった。



「しょうがないな」とポンと頭に手を置かれた。




「祐が嫌ならしなくていいよ」


 そう言われて育った。




 何時のころからだろう。




 どこまでダメな人間になれば見捨てられるだろう。


 捨ててくれるだろうって思うようになって。




 叩けばいいのか、殴ればいいのか、刺せばいいのか。


 血を流したらいいのか。



 物を盗んだら………。




 考えるけど、家族の顔を見るとどれもできなくて。




 だから家を出た。




 ダメになるのは自分。


 それでいいと思ったんだ。






 客の前で席を立ったら、そのあとは目の前のものに口を付けないようにね。



 千沙ちさオーナーは、いろいろ仕事に就くにあたり助言をしてくれた。



 客はいろいろいるから覚悟してね、とも。




 本当にいろいろだった。



 安くないデート代金を払える人だから、基本的には穏やかなマダムが多い。



 だけど顧客の中には、同じようにおやじに媚び売って金にして、それを俺みたいなのに使う若い女もいた。




 そんな客はたいてい闇を持っていて、それが俺にもじんわりと染みる毒のようで不快感を持った。



 だけど、こっちは客を基本選べない。



 多少のことは目をつぶれるけど、なんか盛られるのはキた。





 その客は、指名が二度目だった。



 あとで考えたら、バーテンがグルだったんだろうか。




 目を離した飲み物は飲んでなかったし、食べなかったのに。




 最初の症状は発汗だった。



 やけに熱い空調だなと。



 でも、自分の視界がぐらついてなんか盛られたと自覚した。




 ラブホテルの一室。



 性交渉はNGを出していたのに、初回からやけにシたがる子だった。




 まだ慣れていなくて、体に触ること自体をNGにしていたほどなのに。






「ねぇ、Yuuくん、気持ちよくなろうよ」




 くわんくわんと、耳の奥が洞窟の中みたいだ。




「な、なにを飲ませた………」





「えーーー、なんでもいいじゃん。私ね、好きなの」




 舌の上の白い錠剤。



 薄い青い文字で、9と数字が書かれていた。





「私ね、気持ちいいことがしたいの。したいときにしたい人と」




 あぁ、初回で断ったのを根に持たれたか。





 やんわりと行けたと思ったんだけどな。




 女の笑顔の「わかった」って、信じちゃいけなかったんだ。





「ショックだったんだよ。ヒナとしたがる男はいっぱいいるのに………」




「………嫌だ………」





 バシッ。




 頬を叩かれた。




「………っ………」





 痛みはない。薬の影響だろうか。



 代わりに、もっと目が回った。





「キズつくっていってんのっ!」




 バシッ、バシッ。





「もう一個あげるよ」




「やめっ………」





 顎を掴まれて、無理やり口の中にねじ込まれた。



 そのまま手のひらで口をふさがれて、苦しさにあえいだ口に瓶の液体を注がれた。




 強いアルコール臭。




 くそっ、いつもなら流石に力で負けることはないのに、力が入らない。





 喉を焼くような強いアルコールで、錠剤は喉を通過していった。




 あつい。



 いったい、なんの薬だ!?





 何度も飲んでる素振りから、一発アウトなほどのやばい薬ではないだろう。


 合法ドラッグの1種か………覚醒剤でないことをただ願うだけだ。




「あぁ、あっつい!」



 ヒナが服を脱ぐ。





 ぷるんと、形の良いおっぱいがこぼれた。



 それを見ても、興奮はしない。



 逆に、気持ち悪いとさえ思えた。





 はぁはぁと吐く息は、なんか甘ったるい匂いがして吐き気が来る。




 近づいてきた顔を生理的にそむけた。




「ちょっ! なんて失礼なのっ」




 パン、パン。



 馬乗りで叩かれる。





 オーナーは、お客様には逆らわないようにといったけど、身の危険のときにはなんて言っていたっけ。



 事件になることは避けてと言われた。


 これは事件? なんだ?



 考えが上手くまとまらない。



 逆らうなって、このままだと………。





「ねぇYuuくんナマは好き? ヒナの中にたっぷり出してもいいんだよぉ」




「ヤメロっ。のっかんなっ」




 穴の空いた下着。




 こいつ、服の下にそんなのつけて、やる気満々だったのかよ。




 増す嫌悪。


「とんじゃおう? 気持ちいい事したら、嫌なこと全部とんじゃうんだよ」


 やけに冷たい肌だった。



 薬を盛られて逆レイプ。




 俺が望んでたことがこれか?




 この仕事をたぶん俺は軽く考えていた。



 多少見た目がよくて、すぐお金になるとよく知りもしないのに飛びついた。



 財布の現金だけ、カードは家に置いてきたから金に困って。




 昨日までの良客がラッキーだっただけなのか。



 いま後悔したところで、遅いんだが。




「Yuuくん………」




 生臭い舌が、顔を這うようにして移動する。



「ヤ………メロ………」




 パン、パン。



 あ、口の端が切れた。



 血の味でわかる。




「馬鹿にするなっ! ヒナとみんなしたいんだよ、男はぁっっっ。お前男だろっっっ」




 がっとズボンの上から股間を掴まれて、息が止まった。




「まぁ、いいよ。ヒナとこの薬の虜にしてあげるからね」



「いや………だ………」




 パン、パン。



 顔が腫れたら、千沙オーナーも正当防衛だったって許してくれるかな。



 バイアグラみたいなので無理やり勃起させられたらわからないけど、今のところ起ってはいない。



 なら、入れられることはないな。




「早く起たせないと、用なしってことで切っちゃおうね」



 確かにかわいい顔でヒナは言う。




「え………」




「ヒナ、我慢とか待つの嫌いなの」




 うっとりと焦点の合わない目で紡がれる言葉に、ただただ鳥肌が立った。




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