第10話 平和な日常でいじめ殺しの夢を見る
夢から覚めると願いが叶ったのか俺は中学三年生になっていた。妹と母さんがいる。母さんと父さんは俺が小学1年生の頃に離婚していて俺と妹の親権を母さんが、姉貴の親権は父さんになっていて、姉貴や父さんともそれ以来会っていない。
いじめ殺しなんて生き物は存在しない。だけどこれから存在するようになるんじゃないかってヒヤヒヤしていたけど2年後にも3年後にも存在することなく、俺は高校卒業になった。風の話を聞く限り黒船あぶきは19歳の頃に亡くなったらしい。黒船あぶきさえいなければいじめ殺しなんていなかったのでだから。
そして俺は夢を見た。陸野の家で気絶して倒れた俺が黒船あぶきに誘拐され、監禁される夢だった。ここで俺は姉貴のことを聞かされた。姉貴は母さんが嫌いだそうだけど一緒に暮らしていて、小学4年生の頃からだんだん無表情になったとのこと。そして目覚めたら何もかも日常だった。だけど時々いじめ殺しの世界にいた頃の夢を見る。
「お兄ちゃん」
妹の
「あたし、前にいじめ殺しとやらに殺された夢を見たの。聞いてみたら母さんも同じ夢を見たことがあるらしいの」
今では本当にただの夢とは思えなくなった。いじめ殺しが発動した世界から世界を変えるのは難しいそうだし、夢によると第三次世界大戦も起こらなかったし、警察なんて職業もなくならなかった。黒船あぶきは人々から嫌われても本人は嫌われた意味を理解することはなかった。
「これは不思議な夢だね」
俺は光恋が安心するように頭を撫でた。
時がたち、俺は漫画家となり、夢にある出来事を元にして「いじめ殺し」の漫画を描いたら予想以上に売れた。何人かが「夢で見たことある」とファンレターから送られてきた。
ある時インターホーンが鳴り、覗いてみると姉貴だった。だから家のドアを開けた。
「いじめ殺しの漫画見たわよ」
「うん」
「私も経験した気がするの。何度か夢で見た。だけど夢では母さんが嫌いなのに現実では父さんの方が嫌いなの」
「どうゆうこと?」
「離婚してから父さんと暮らしてて、私小学4年生の頃から父さんの前で怒ったり、友達の前で無理に笑ったり、自分の部屋で泣いたりを繰り返してるの」
姉貴は悲しそうだった。夢での姉貴はいつも無表情だった。だけど目の前にいる姉貴は表情をころころと変えた。
「私、夢が本当なら父さんと母さんどっちと暮らした方が幸せだったかな?」
姉貴は今にも泣き出しそうだった。
「どっちを選んでもだよ」
「どうして?」
「繊細なのは変わらないんだし、ただいじめてる側はいじめたつもりなんてないかもしれない」
「世界‥‥あなたは世界を変える力を持っているんだわ」
「そんなことないよ」
「そんなことある。あなたは世界の時間を戻したし、世界的に有名な漫画家にもなった」
「戻したってそんな‥‥‥」
「戻したかもしれないわ」
何を言い出すんだが。
いつかいじめが本当になくなりますように。俺はそう願った。黒船あぶきのようなやり方はないかもしれないが世の中にいじめをなくしたい人はきっとどこかにいる。それが政治にも影響するかもしれない。
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