彼女の「腹ドン」がエッチすぎるので、俺たちの高校生活はカオスになります。
阿井川シャワイエ
1章 霧島優羽
第1話 一方的な再会
頭上には青空。
そしてぷかぷか漂う白い雲。
潮風を感じながら目の前の建物を見上げた。
そこにあるのは高さ200メートルを超えるガラス張りのタワー。
そのガラスは少し特殊らしく、周囲の景色を鏡のように映すのだ。
今日のような天気の場合、タワーが映すのは当然――。
タワーから目を離せないまま持っていたカバンに手を突っ込む。
手探りで取り出したのは、最近手に入れたばかりのスマートフォン。
高校生としての新生活に備えお小遣いを貯めて買った自慢の品物で、まだまだ機能を把握できていないが、それでもカメラの使い方だけは頭に叩き込んでおいた。
タワーの写真を何枚か撮り、確認。
「……よしよし……!」
狙い通りタワーのガラスには青空と雲が映っている。
タワーが空と一体化したかのような爽やかな写真の完成だ。
目的地まで遠回りになるが、ここに来て良かった。
故郷に帰って来た当日にこの写真を撮影できるとは、俺も運がいい。
……この勢いでワルミちゃんへの告白も成功させたいところだが……。
「わあー、良い写真ですね」
突然背後から涼やかな声が聞こえ、思わずビクッと反応してしまった。
慌てて振り向く。
――若い女性が立っていた。
大学生くらいだろうか。
長い黒髪で見惚れてしまうほど美しい顔をしているのだが……なにか違和感がある。
いや違和感というかモヤモヤというか、なんとも言えない不思議な感覚だ。
「良い写真ですね」
改めて言ってくる彼女。
俺のスマホを覗き込んでいたらしい。
「えっと、ここの場所で狙えば、あなたも同じ写真が撮れますよ」
「へえ、そうなんですか」
撮影が目的かと思ったが、返事からすると違ったようだ。
彼女はニコニコとこちらを見ている。
――イヤな予感がした。
俺はもともとこの辺りが地元なのであまり意識していなかったが、ここは観光地なのだ。
解放的な気分になっている観光客を狙うような、「そういう人」が出現しても不思議ではないのでは……?
ドキドキしながら彼女の行動を見守る。
俺の予想が正しければ彼女が言ってくるのはおそらく――
「もし良かったら、一緒にお茶でもしませんか?」
やっぱり!
俺がカモだと、このお姉さんは判断したわけだ。
この短時間で俺のチョロさを見抜くその洞察力、あるいはその道のプロかもしれない。
実際、美人局と知りつつもこんな美人なお姉さんに声を掛けられてテンションが上がっているのが自分でも分かる。
この状態でノコノコと彼女についていくと強面のお兄さんが出てきて『俺の恋人に何をする!!』とお金を強請られてしまうのだろう。
だが、このお姉さんは大きな間違いを犯した。
ニコニコ笑顔の彼女に向かって、思いっきり頭を下げる。
「俺、お金持ってないんです。だからごめんなさい!」
そうなのだ。
故郷までの移動費のことしか頭になかった俺は、お財布にもその金額しか入れてなかった。
チケットの支払いをするときにようやく財布が
故郷にさえたどりつけばなんとかなるだろうと
もっとも、故郷に到着してなんとかなったかと聞かれれば、苦笑いを返すしかない。
先ほども謎の不良の襲撃に遭い、緊急事態用に隠し持っていた120円すら奪われてしまったので今の所持金は、完全にゼロ。
スッカラカンの一文無し、それが今の俺の現状だった。
だから幸か不幸か、彼女の誘いに乗りたくても乗りようがない。
いやもちろん幸運に決まっているのだが……。
「大丈夫ですよ、私がお金を払いますから」
「えっ!?」
その返答に度肝を抜かれ、思わず顔を上げた。
魅力的な微笑みを浮かべた彼女と目が合ったので、また顔を下げる。
綺麗に舗装された地面を見ながら考えるのは当然今の状況についてだ。
金のない人間に美人局を仕掛ける。
そんなこと、あるのだろうか。
もしかすると俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
これはまさか……ナンパ!?
「あの、これ、ナンパですか?」
つい聞いてしまった。
「え? そうですね。ナンパです」
「!?」
またもや抜かれる俺の度肝。
しかしこの短時間で度肝を抜かれ過ぎたようで、却って冷静になってきた。
これはいくらなんでも俺に都合が良すぎる。
こんな美人のお姉さんにナンパされるほど俺の日頃の行いが良いとは思えない。
再び顔を上げ、さりげなく彼女の服装を見た。
服には人間性が出ると俺の保護者が言っていたのを思い出したからだ。
彼女が着ているのは上品な印象の白いワンピース。
肌の露出は少ないのだが、よく見ると体のラインのアピールは激しい。
腰でキュッと絞ってあり胸もお尻も強調されている。
自分の体に自信が無いとなかなか着ることはできないだろう。
次に見たのは彼女の仕草。
両手を胸の前で合わせたり離したりしているだけなのだが、胸を寄せてその大きさをアピールしているようにも思える。
その豊かな胸に目がいくように視線を誘導している感じだ。
実際俺の視線はまんまと誘導されてしまった。
彼女を観察した結果、申し訳ないが男受けを狙っている印象しか無い。
……やっぱり美人局かなあ……。
「あー、実は俺、行かないといけないところがあって……」
君子危うきに近寄らず。
もちろん俺は君子ではないし、危うい場面かどうかの判断もできていないが、とりあえず逃げることにした。
しかし彼女も俺が断ろうとしていることに気付いたようで、こちらにグッと近づいてくる。
「すぐそこにあるお店が落ち着いてて好きなんです。ご一緒しませんか? ……『喫茶ふがふが』っていうんですけど」
「喫茶ふがふが!」
弱った。
その店の名を出されては断れない。
『喫茶ふがふが』
名店……なのかは俺には分からない。
いや俺としてはこれ以上なく素晴らしいお店だと思ってはいるのだが、かなり贔屓目で見ている自覚はある。
実際、仕方がないだろう。
なんといっても喫茶ふがふがは幼馴染の両親が経営するお店なのだ。
幼馴染である
そして彼女たちの両親であるユキさんと
喫茶ふがふがは俺にとって憩いの場であると同時に、大切な思い出の場所でもあった。
美人局の勧誘場所にされてはユキさんも健治さんも困るだろうし、俺だって嫌だ。
どうせ店には顔を出さないといけなかったし、とりあえずこのお姉さんに付き合おう。
そして話の流れによっては彼女を出入り禁止にしてもらおう。
ふがふがを守るために覚悟を決めた俺は、美人局のお姉さんに頷いた。
「……ご一緒します、ふがふがに」
「良かった。じゃあ行きましょうか」
肩で風を切りズンズンとお店に向かうお姉さん。
俺はその後ろを少し緊張しながらついていった。
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