走れメロン
メロンは激怒した。
かの暴虐なカラスが畑を荒らしまわっているというのだ。メロンは今日、大事なツル繋がりの妹の出荷日であったが、カラスの根城へと突き進んだ。
「おいカラス、なぜお前は百姓たちが丹精込めて作った作物を荒らすのだ。お前は残忍で冷酷だ!」
「下賤な…いや網目付きだからプリンスじゃなく高級マスクメロンか。しかし貴様には私の気持ちはわからぬ。私とて生きねばならぬのだ。今すぐつついてやるからそこに直れ。それとも命が惜しいか」
「命など惜しくはない!しかし…今日はツルでつながった妹の出荷日なのだ。綺麗な箱に包まれたその晴れ姿を見るまで死ぬことは出来ぬ…。カラスよ、3日間下さい。我が友人のスイカを私の代わりに置いておこう。私が帰ってこなければスイカを殺すがいい。だが、私は必ず帰ってくる!」
「生意気なメロンめ。よかろう、お前の言うことを聞き届けてやろう。しかし、必ずお前に悪魔の囁きが聞こえるはずだ。帰ってこなくてもよいのだぞ」
「見損なうな、私は必ず帰ってくる!」
メロンは、嫌だよ俺、何で巻き込むかなあ、お前とそんな友達じゃねえし、とブツブツ文句を言うスイカを無理やり引きずって王の所に持って来た。そして一目散に自分の農場に帰って来た。
「妹よ!」
「まあ兄さま、帰って来てくれたのね。どう、私5千円で売られることになったのよ。白い保護用の網も2枚重ねだし、化粧箱も立派な桐の箱よ!」
妹メロンは自慢気に網と化粧箱を見せびらかしました。
「チッ、ちょっと高く売られるからって浮かれてんじゃねえぞ。世の中には万単位のやつだってあるんだ。しかし妹のくせに五千円とは生意気な、傷物にしてやる!」
なんということでしょう、メロンは妹にも関わらず、網を引きちぎり傷物にしてしまったのです。
「シクシク…私もう売りに出されないわ、妹なのに傷物にするなんて…」
「ざまあみろ。その傷口からすぐ痛みだして腐ってくるぞ。生意気を言うからだ、じゃあな」
メロンは妹に唾を吐きつけ、カラスの城に向かいました。
「さて、まだ時間はある。ひと眠りするか」
メロンは途中の野菜畑でレタスを見つけ、その上に寝転がりました。
「なんだよメロン。重たいからどいてくれよ」
「レタスごときが何を抜かす。俺は天下のマスクメロンだぞ。俺のベッドになることを幸せと思え。明日になれば俺の高貴な匂いがお前に付くだろうさ」
「それもそうか、じゃあ寝てもいいや」
レタスのベッドはフカフカでとても寝やすく、メロンはついつい寝過ごしてしまいました。
「あーっ、よく寝たあ。やべえ、もう昼じゃねえか、早くいかないとスイカがつつかれちまう。まあスイカがつつかれても俺困らないんだけどさ。でもカラスの前で偉そうなこと言っちゃったし、仕方ねえ、行くか」
メロンは嫌がる身体と心に鞭を打ち、カラスの居城へと向かいます。
「ちょっと待った、カラス様の所には行かせないじゃん」
「誰だ」
見るとそこにはスズメがいました。
「俺が来たからにはここは通さねえぜ、メロンの旦那」
「なんだよ、スズメかよ。あのさあ、普通もうちょっと強そうなやつが出てこない?こういう場合ってさ」
「いいじゃん、別に。スズメ可愛いじゃん。チュンチュンって」
「自分で言うなよ。俺の邪魔しに来たんだったら覚悟はできているだろうな、スズメよ」
「そんなマジにならなくてもさあ…、あんた結構固いじゃん、スズメつつけないじゃん、もうマジ無理じゃん」
「じゃんじゃんうるせえなあ。それは麻雀のスズメとかけてんのか」
「そうじゃん、語尾に付けたら可愛いじゃん」
「可愛くねえよ。うぜえよ。どけどけ、てめえじゃ相手にならねえ」
メロンはスズメをあっという間に潰してカラスのもとに走ります。
「やべえ、妹とスズメはイライラさせるし、疲れてきたからものすげえ地が出で柄が悪くなっちまった。せっかくの綺麗な網目が崩れちまう」
メロンは精神を統一し心を落ち着け網目の柄を直しました。
「これでよし。スイカよ、今すぐ迎えに行くぞ!」
夕日が沈みかかったカラスの居城に、ついにメロンの丸い雄姿が現れました。
「メロン!良かったあ、俺お前の地知ってるから絶対来ないと思ったよ」
「大丈夫だ。途中で柄を直したからな」
カラスがメロンの高級な姿を眺め、居城の樹の上から話しかけました。
「メロンよ、よくぞ戻った。私はきっと、お前は逃げ出すと思っていた。許してくれ。これからは畑の作物は取らず、野の実やごみ箱をあさって餌場とすることにしよう。メロン、スイカ、悪かったな。帰ってよいぞ」
「スイカ、私は一度だけ悪い夢を見た。私を殴れ!」
「メロン、私も一度だけ、いや、もっとか、君を疑った。私を殴れ!」
メロンとスイカは殴り合い、そして抱き合おうとしてぶつかり、割れてしまいましたとさ。
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