5-4


 ロイは雨音で目を覚ました。


 どしゃ降りの雨を受けながら、ゆっくりと起き上がる。


 狭い路地の石畳に、大粒の水が跳ねている。


 ロイはその場で咳き込んだ。


 腕時計を見ると、2本の針はちょうど12を指していた。


 昼の12時なのだろうか。胃の辺りがものを欲しがるような、しかし何かを吐いてしまいたいような、気持ちの悪い感じがした。


 コートの前ボタンを止める。


 目がくらむ……。


 ロイは壁に両手をついた。


 月のラインを切ってしまった。


 嫌悪感と悔しさが、ロイの目に涙を流させた。


 月のゲートの向こう側が、ロイのまぶたに焼き付いている。


 キリトリ線を見た。幻想花が映したライン。


 その門をくぐると、花になった自分の姿。


 言いようもない幸福感。ひと晩の夢。


 打ち付ける雨が涙と混ざった。


 気だるい心とふらつく足で、ロイは路地を歩き出した。


 アクアアルタかと一瞬、錯覚してしまう。この水溜りを歩いていると。


 かじかんだ手をポケットに入れると、やわらかいものに片手が触れた。


 それは残りの花だった。


 食べた者に幻を見せる、月の夜のラインゲート。


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