4. メイドさんとフラグ回収

4. メイドさんとフラグ回収




 私は朝食のあと、そのまま2階の部屋の掃除を始める。カイル君はいつも決まって左の部屋から掃除をするはずだから、その隣の部屋から掃除をすることにする。


「よし。このお部屋もピカピカね。」


 思わず独り言がこぼれてしまう。だって本当に綺麗なんだもん!空気を入れ換えるために開けた窓を閉めてから廊下に出ると、そこには掃除用具を持ったカイル君がいた。


「あ。カイル君」


「えっ!?マリアさん!?」


「……?マリアだけど?」


「いや名前じゃなくて何でここにいるんですか!?」


「なんでって、私も2階の部屋のお掃除の仕事だからだけど?」


 本当に朝のメリッサさんの話を聞いてないんだなカイル君は。それに私がそう言うとカイル君は『神様~ありがとう』とか言いながら意気揚々とホウキを振り回しているし、本当に不思議な人。大丈夫なのかしら……少し心配だけど、そんなところはカイル君らしいところではあるのよね。


「よろしくね。カイル君」


「こちらこそお願いします!」


 するとカイル君は雑巾を手に取り、窓ガラスをすごい勢いでゴシゴシと拭き始めた。それはもうガラスが無くなるかというくらいの勢いで。さすがにそこまで念入りにしなくてもいいと思うんだけど……。


 そして急に手が止まるとカイル君はいきなりブツブツ言い始める。


「ふぅ……あー疲れたー……マジで広すぎ。ブラック企業だよここ……給料良いから我慢して働いてるけどさー……もうちょっと休みくれよなー……あーあー……せめて可愛い彼女欲しいなー……そんでデートしたりキスしたりするんだよなー……」


 やっぱり不思議な人だ。こんなに自分の心の声を露呈する人見たことないし、ましてや誰かに聞かれてるかもしれない場所で口に出すなんて。でもこれがカイル君なんだよね。


「あの……カイル君。声に出てるよ?」


「えっ!?あっすみません!!」


 その様子を見て私は可笑しくなり笑みをこぼしてしまっていた。こういう時、良くある物語とかならフラグを回収するんだけどね。聞かれたくない人が聞いているとか?


 そんなことを考えていると、大きな咳払いが聞こえてくる。そこには金髪の巻き毛の私とカイル君の雇い主というべきか、リンスレット四姉妹の長女で当主のイライザ=フォン=リンスレット様が立っていた。


「ブラック企業?休みくれ?彼女ほしい?」


「いいいいイライザ様!!?」


 フラグ回収。そしてカイル君の顔が青ざめていく。本当にカイル君は飽きないわね。それを見てまた笑いそうになるけど必死に耐えて平静を保つ努力をする。


 私の癒しがいなくなるのは嫌だからここは助けてあげようかな。

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