言葉は足りない

夜月心音

1つとして。

「なぜ、このようなことになったのか」

そう問うたのは、幼馴染のひかるだった。

唐突なその言葉に私は何も考える隙も何もなかった。でも、ひかるがそう言う理由もしっかりわかる。

1人で生きた人が出会い、紡がれ、そして引きちぎられる。

なんとも笑えない話である。ずっとずっと紡がれるままであればいいのに。それが叶わないのだ。

そして、また1人になる。

そんなことを繰り返したってなんの役にも立たない。何にかできるわけではない。

なのに、なぜ。

こんなことに。

ひかるは少し寂しげに私を見た。

そりゃあ寂しいさ。と、私は思うものの、それを言葉にすることはない。私にそれをいう資格がない。そもそも、資格なんてないのかもしれないが。

だが、私は口を開く。

「運が悪かっただけだよ」

間違えた。そう思ったのは、ひかるがさらに寂しそうな顔をしたからだ。いや、それを通り越して、ただただ無になっていた。

結局、ひかるの力になることは叶わないのかもしれない。

でも、それでも。

私は足掻きたい。

そう思うのだが、考えれば考えるほどに、口は酸欠になった鯉のように、金魚のように、ぱくぱくと動くだけだった。

何も言葉にならない。

きっとひかるもそうに違いない。

ひかるだって、声に出したいに違いない。ただ、何もないのだ。思い浮かぶこと全てがここにないのだ。手元に。脳裏に。心に。

それでも。

私はそっとひかるの手を握った——が、その手は遠くへ行った。

ああ、だめだったか。思ったのも束の間、ひかるはごめんと一言だけ呟いて歩き出した。

そう。1人で。

何を伝え間違え、何を言い損ねたのだろう。

間違えだらけなのに、しっかりとしたものは手元にない。そんなのおかしいではないか。

片っ端から辞書を読めばいいのか。

何をすれば、いいというのか。

何も言えない。

何も助けられない。

私の中に虚無だけが残った。

ああ、ただ。と、頭の中を走っていくものたちが全て消える。まるで電車のように消えていく。

ひかるは何も言わなかった。

私は間違えた。

ただ、その2つの事実だけがここに残っているのだ。

それは決して望んだものではない。

力になれなかった。

ただそれだけだ。

そう。ただそれだけなのだ。

何1つとして欠けてはいけないはずのものが、ここにはもう残っていない。

身体と、心と、もう1つ。

この縁もきっと千切れてしまう。なんて諦めて見えなくなったひかるの残像を追いかけた。

幼馴染だからこそ、追いかけた。


帰路が一緒だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言葉は足りない 夜月心音 @Koharu99___

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ