静かな世界でまた会いましょう

シリウス

静かな世界でまた会いましょう

授業中なのに後ろがざわざわとうるさい。

あと1週間に控えた文化祭の話でもしているのだろう。

先生の声と生徒の声が不協和音のように重なって気持ち悪い。


ただ自分も昔はそんなふうに話をしていたからか、注意することもできない。周りにそんなことでと言われたくないのもある。


高校に入ってから音に敏感になった。

昔から周りの会話とかが耳に入ってきてしまうことはあったが、そこまで音というものに反応することはなかった。


最初に気づいたのは大きい音に体が勝手に反応することだった。ビクッと体が震えて後味のように気持ち悪さが少し残る。


そこからはだんだんひどくなっていった。


街の音や教室の雑音までもが苦手になり、悪い時には自分の歩く音や息する音までもが自分の思考を邪魔して集中できない。


全ての存在がうるさい。

いらないノイズばかりの世界だ。



ちょっと低めの声と耳の横でどくどくと波打つ心臓の音。


それが僕の音の全てだ。


あなたに出会ってしまった以上、あなた以外は全て僕にとっては騒音なんだ。


僕ですら僕にとって騒音なんだ。



僕たちは音楽を通して出会った。

偶然が重なって、仲良くなって。

恋に落ちるのは簡単だった。


それがもっと深く透明に澄んでいって、愛に変わっていった。


世間はこれを純粋無垢な愛とは呼ばないだろうけれども、僕にとってはそうだった。

嘘偽りなく、あなたを愛したつもりだった。



でもあなたはそれによって傷付けられた。



世界が僕たちにケチをつけるときはいつもあなたにだった。

愚痴愚痴としつこく、執拗に。


その度にあなたの叫びが聞こえるような気がして、耳を塞ぎたくなった。

あなたの、諦めたような笑いと静かに泣く心の声はもう聞きたくないんだ。


僕といたらあなたは一生幸せになれない。


この交響曲は終わらせてしまおう。

あなたが僕を憎む前に、僕があなたを殺してしまう前に。


そして、また静かな世界で会いましょう。

誰にも邪魔されない、静かな世界で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静かな世界でまた会いましょう シリウス @canis_major

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る