第6話 奇襲・不意打ち・バックアタック



 ポイントをある分すべてぶち込んだら、レベルが4まで上がった。


 とりあえずは無駄にならなくて安心か。しかし、レベルが上がって具体的に何が変わったのかと言われたら……よく分からない。たぶん、全体的に強くなってるんだと思う。

 ちなみに、レベルが2に上がった際にはレベルアップの報酬みたいなのでポイントがもらえた。3の時ももらえた。4でも貰えたが、それを突っ込んでもレベルアップはしなかった。


 レベルアップするのに必要なポイントがレベルアップで手に入るというのも、なんだかよく分からないシステムだね。まあ、このポイントはレベルアップ以外にも色々使えるみたいなんで、そういうものなんだと思っておく。

 それに、おそらくレベルアップのポイントでレベルを上げるなんてのは、レベルアップまでのポイント数が少ない最初だけだろう。


 多分だけど、レベルアップで獲得出来るポイントがなかったらレベルが4まで上がってないと思う。その点は、少しでもレベル上げときたい私としては助かった。

 レベルが上がることで諸々の能力も上がるとすれば、私の生存率も上がるということなわけだし。


 レベル上げが終わったらウィンドウを閉じる。すると視界が開けた。

 視界に映るのは瓦礫と化した街と、三色のゲージや装備などのアイコンたち。

 この辺りのやつは、ウィンドウを閉じても表示しておけるようだ。まあ、端っこで視界の邪魔にはならないし、あった方がいいので表示させとく。


 そんなわけで、すべての準備は整った。

 動画を撮り終わったスマホも、万一戦闘で壊れたりしないようにアイテム欄に収納した。


 ——準備はOK?


 バッチリ。



 それから私は、瓦礫やなんやらに隠れながら、少しずつ恐竜くんに近付いていった。なるだけ相手の視界に入らないように遠回りをしながら。


 恐竜くんは、まだ健在なビルなどを狙ってブレスを放っている。なので、むしろすでにぶっ壊されているところを通った方が安全かもしれないと思い、そういうところを通ってる。

 ただ、恐竜くんのブレスは攻撃対象以外にも、恐竜くんから目標物までの経路とか、ブレたり薙ぎ払ったりした分とかがそこらに撒き散らされるので、正直、生きた心地がしない。

 しかし焦って飛び出して見つかるわけにもいかない。恐怖を必死に飼い慣らして黙々と進んでいく。


 恐竜くんの視線がこちらに向きそうになるたびにヒヤヒヤしたり、たまに自分の近くを光線が通って爆発したりしたけど、なんとか直撃することはなく恐竜くんの付近まで近付くことが出来た。

 その時には心底ホッとした。正直、寿命がめっちゃ縮んだ気がする。


 そこからはさらに慎重に近づいていく。具体的には、攻撃が出来る距離まで。

 恐竜くんがブレスを始めてから終わるまでの時間に、攻撃可能な間合いまでダッシュで到達出来る範囲まで近付く必要がある。

 スタミナを消費すればかなりの距離を瞬時に進めるはずだが、まだ慣れてないし地面は瓦礫などで荒れている。刀に込める分のパワーも必要だし、最後の攻撃の分のスタミナも必要だ。となると、ダッシュに使える分はどれくらいか……。

 スタミナを使って走った経験は、直前の公園の時のみ。武器の強化をしてみたのもその時だけ。それだけの経験で、予測して距離を見立てないといけない。


 ——レベルアップでスタミナが増えている可能性もあるわ。まあ、減ってるよりはいいわよね。どっちにしろ、レベルアップ前の分で計算しとけば、少し余裕が生まれるくらいでちょうどいいわ。


 そうだね。どっちにしろ、近い分にはそれに越したことはない。ただし、見つかってしまえば勝機は消える。慎重に、慎重に……。

 普通ならパニックを起こしてもおかしくない状況だと思うけど、不思議と私は落ち着いていた。単に現実感が無かっただけかもしれないし、普段やってるゲームの延長線の感覚なのかもしれない。まあ、どっちにしろリアルとは感じていないのかも。


 ついに行けるところまで行った。

 私は刀を呼び出す。鞘は無く抜き身のみだ。後は機会が来たら飛び込むだけ。

 ここまで来て、本当に私にそれが“できる”のだろうか。やれるのか、やれないのか。人間の価値は、結局そこに集約される……。


 恐竜くんが独特の構えを見せる。すでに何度も見て覚えた。ブレスの予兆。

 葛藤している時間は、無い。次のチャンスですべて決める……!


 恐竜くんが、ブレスを——吐いた!


「ヒィァウィゴォォォ!!」


 なぜそんな掛け声を出したのかは、後からじっくり考えたとしても自分でも分からないだろうと思う。ただ、体はちゃんと前に動いていた。

 それも凄まじいスピードで。アクセル全開、スタミナパワー、フルスロットル。


 一瞬で法定速度ギリギリの自動車並みに加速した私は、瓦礫が散乱してぐちゃぐちゃの道路をものともせずに駆け抜けて、あっという間に恐竜くんの尻尾までたどり着く。——その時には、すでに私の右手の刀にはパワーが限界まで溜まっていた。

 ここまですんなり出来たことに自分でも驚く。きっと、ダンディなヒゲの赤いオーバーオールを着た小さなオジさんの妖精が、私に力を貸してくれたに違いない。そんな彼のサムズアップする姿(目線は黒で修正済み)が、私の脳裏に浮かんだ。


 直前の瓦礫を飛び越し、その勢いのまま空中で刀を振りかぶる。

 着地と同時に、これまで駆けたすべてのエネルギーも乗せるように、渾身の力で刀を振り下ろした。

 恐竜くんの足元で急停止したすべての慣性もエネルギーに変えて振り下ろされた私の刀は、恐竜くんの尻尾を貫き、引き裂いて、そのまま地面にめり込んでようやく止まった。


 どれくらい抵抗があるかと思っていたから、あっさりと刃が通って拍子抜けしたくらいだった。

 やった! コレほとんど千切れかけてるじゃん——。


 私が何をするよりも早く、尻尾を斬られた痛みでブレスを中断した恐竜くんが、傷物にされた自慢の尻尾を私に打ちつけてきた。


 ごっ——


 視界が一瞬で変わっていく。耳元でビュービューと風の音がする。

 何が起きたか理解する前に、二度目の衝撃が私を襲う。


 どんっ。


 硬いものにぶつかり、跳ねて、またぶつかり、跳ねて、跳ねて、滑って、ようやく止まる。


 私が思ったのはただ一言、「あ、死んだ」という感想だけだった。


 ——いやいや、死んでない死んでない。生きてる生きてる。


 ……うそー、生きてるのおかしいって。めっちゃ飛んだっしょ。ホームラン? ライナー?

 とにかく、人間は野球ボールになったら死ぬしかないはずだけど?


 ——いやほんと生きてるから。それどころか無傷。一切の怪我なし。


 そんなん絶対ありえないじゃん。仮に奇跡的に生きてたとしても、全身複雑骨折で全治残りの人生すべてって感じ。——あ、大丈夫。その残りの人生もすぐ終わるんで、みたいな?


 ——くだらないこと言ってないで、確認してみなさいよ。


 いやいや、ピクリとでも動けば激痛が走って死んだ方がマシって思うやつでしょ。私は知ってるんだから。


 ——たぶんそうはならないと思うわよ。騙されたと思って、ね?


 ホントにー?


 ——つーか今の状況分かってる? 戦闘中なんだけど。


 そうだったね。なんかビルくらいデカい恐竜と野球する夢みてたよ。私がボールで。変な夢だったな。


 ——はぁ……。打たれた瞬間体が固まったのか、刀を手放してないのはさいわいだったわね。


 そう言われて右手を確認すれば、確かにちゃんと刀を握っている。

 尻尾に振り下ろす時に渾身の力で握ってたからねー。っておい、マジで痛くねーぞ。


 ——たからそう言ってんじゃん。


 右手の刀を確認する。それだけの動作ですでに体は動いている。しかし痛みはほとんどなかった。

 マジで? アレ食らってノーダメージだった?


 ——全然そんなこと無いわよ。ほら、ここ見て。


 言われて見たのは視界の端っこ、緑のゲージがあるところ。さっきまで満タンだったそれは今やギリギリのところまで減っており、色も緑から赤に変わっていた。

 これは……


 ——やっぱりHP的な何かだったみたいね。……おそらく、コレがダメージを肩代わりしたってことじゃない? だから、肉体は無傷のままなのでしょうね。


 マジか。緑のゲージは生命力を表している系のやつだとは予想してたけど、まさかバリア的機能まであるとは。こいつ超有能じゃん。


 ——でもそのバリアも一撃で壊れかけてる。すぐに回復しないと。


 回復、ああ、あのアイテム……


 ——装備してるからほら、視界の端に映ってる。


 そう、これこれ。

 しかしHPがそんなに便利なバリアーだったとはね。それを回復するこのアイテムもめちゃくちゃ重要じゃないの。

 手に入ったのは十個。重要なゲージを回復させる貴重なアイテムだな。これも念じれば使えるハズ。

 それ、『使え』!


 すると装備欄のアイテムが一度光って、表示されていた数字が一つ減る。——これはアイテムの数で、残りは九個。

 すると、確かに緑のゲージが回復していく。回復は少しずつ進行していて、どうも瞬時に回復完了するわけではないようだ。

 てか、そのまま使えるんだ。なんとなく、一回手に持ったりしてから使うのかと思ってた。まあ、この方が便利でいいけど。


 回復するにつれ、赤だったゲージの色も緑に戻っていく。そして、全体の七割近くまで回復したところで、回復は終わった。

 ふむ、一つで半分以上は回復するのか。これは固定値回復なのか、それとも割合回復なのか。それに、三割ほどまだ残ってる。


 ——出し惜しみせずに回復した方がいいんじゃない? なにせ、一撃でゲージほぼ全部削られてるのよ。


 やはりもう一つ使っておくべきか。

 しかし、ほんとギリギリ残って良かったよね。多分だけど、尻尾が万全の状態だったら、もっとダメージ食らってたんじゃない?


 ——ありえるわね。その場合は、HPも全損して……そうなると、どうなるのかしらね?


 さあ? 死ぬのか、戦闘不能か。

 どっちにしろ、HPが無くなったら終わりだと考えておくべきでしょーね。


 ——ええ。ただそれって、ほとんど攻撃を食らうなってのと同義なんだけど……。


 ……さて、初撃は一応成功。尻尾に大ダメージを与えた。半分以上千切れてたから、ほぼ無力化したと考えていいのでは?

 代わりに、こちらも反撃を食らって吹き飛んだ。でもHPバリアのおかげで無傷で生きてる。そして、そのHPも全快させた。


 一応、ヤツの攻撃にも、ギリギリだが耐えられるということが判明した。これは大きい。

 つまり、トータルではこちらが有利だ。ちゃんとこちらの攻撃も通ったんだから、ヤツは倒せる、ということだ。つまり、逃亡はせずに戦闘は続行する。


 ——有利というのはどうでしょうね? 敵は攻撃を受けたことで、こちらの存在を認識した。もう奇襲のアドバンテージはない。加えてこちらは今、吹き飛ばされて距離が空いている。つまり、ブレスの格好の餌食なわけだけど。


 それだ。今すぐ敵に近づかないといけない。

 尻尾を斬るのにブレス時を狙ったのは、硬直しているということ以外にも理由がある。

 仮に失敗したり今のような状況になった時にも、ブレスの直後だから次のブレスまで時間的猶予がある。だから、その猶予で逃げるなり隠れるなり出来るという、いわば保険。

 とりあえず、その猶予の内に隠れて……


 などと考えていたら、聞き慣れた音と共に光線が付近に降り注いだ。


 なんでっ!? 早すぎる——


 思考する間もなく、辺りは爆発して衝撃が撒き散らされる。

 さいわいにして直撃はしなかったが、私の体は爆風に吹き飛ばされた。

 吹き飛んで瓦礫に打ちつけられた体を、すぐに起こす。そして、視界の隅の緑のゲージを確認する。

 減っているのは二割ほど。直撃しなければ、そこまでのダメージは無いようだ。


 しかし、なぜこんなに早く撃ってきたの? これまでの観察のデータでは、もっと時間がかかっていたのに。


 ——もしかして、攻撃されたことでブレスが中断したから、その分早く次が撃てたとか……?


 マジか。その可能性については考えてなかったな……。刀の攻撃が効くかどうかに意識が向いてたから。

 だとしても、今撃った分で次まではちゃんとした猶予が出来たハズ。この隙に、とりあえず移動しないと。


 それで、恐竜くんの位置は?

 尻尾に吹っ飛ばされた時に方向感覚も完全に消失したので、自分がどこかも分からない。今のブレスもどっちからきたのか……。

 いや、その後のブレスで吹っ飛ばされたやつで、どっちにしろ、また方向が分からなくなった。

 なにせ、周囲は瓦礫ばかりでどちらも似たような景色になってる。それに、爆発で粉塵や煙も酷い。視界は悪いこと、この上ない……。


 ——マップを使いましょう。少なくとも、アレで敵の位置と方向は分かるわ。


 そーだった。そんなんあったね。

 よし、『マップ』、表示せい!


 視界に現れる半透明のウィンドウ。中心に私のマーク。そして恐竜くんのアイコンは……真後ろ!?

 バッと振り返る。しかし、舞い上がった粉塵や積み上がった瓦礫にさえぎられて、恐竜くんの姿を目視でとらえることは出来なかった。

 くそー、これじゃどうすればいいんだ……?


 ——いっそのこと、動かないのも手かもね。この視界なら、向こうもこちらの位置は分からないでしょうし。


 そうだけど、適当にブレスをぶっ放しまくられたらたまらんけど?


 ——直撃しない限りは大丈夫でしょ。その可能性は低いハズ。まあ、当たる時は当たるんでしょうけど。


 少なくとも、出来る努力はするべきだよね。待つにしても、作戦を考えて選んだ上でなら待つでもいい。

 ただ、何を選んだわけでもなく結果的に待つならそれはダメ。たとえ取った行動は同じだとしてもね。気持ちの問題。

 最適の行動を考えよう。こんな時は、むしろこの状況をチャンスだと考える。見方を変える。すると、どう見える?


 ——相手はこちらの攻撃で存在に気がついたけど、結局、見失ったわね。それは、吹き飛ばされた上でブレスを食らったお陰でもある。この状況でこちらのアドバンテージは、向こうの位置を把握しているということ。たとえ視界が利かなくても、敵の位置情報だけは判明している。それなら再度の奇襲が可能だわ。武器も落としてないしね。


 よし。待ち伏せるにしても、奇襲のための待ち伏せだ。むしろ、こちらから相手に近づいていこう。奇襲攻撃に最適な地形を、移動しながら出来るだけ探してみる。


 ——ブレスについてはどうする?


 それはもう祈るしか無いねー。まあ、直撃する可能性は確かに低いよ。また撃ってくるとも限らないしね。


 私は視界の端に小さく表示したマップを見ながら(どうやらこういう調整もきくらしい)、慎重に移動を開始した。


 ——そうね。……そろそろ次のブレスを撃てる時間のハズだけど、撃ってこないわね。


 思ったんだけど、アイツ今までもひたすらブレス撃ってたし、そろそろ弾切れってことはないのかな?

 さすがに無限に撃てるってことはないでしょ。体力とかなんとかさ、撃つために必要なエネルギーがあるはずじゃん。

 そろそろ弾が切れるとしたら、無駄撃ちすることは避けようという考えも出てくるハズ。まあ、あの恐竜くんにそんな思考が出来るなら、だけど。


 ——無限ってことはないと思いたいわね。どれだけ常識はずれの存在でも、それなりの法則というものは存在しているハズだわ。


 まあ、自分の都合のいい考えに傾倒し過ぎるのは危険だけど、可能性の一つとして考えていてもいいよね。



 そんな風に思考を整理しつつ、私は恐竜くんを目指して移動していく。

 その道中は、スタミナゲージを使っての身体能力の強化なんかを色々試してみる。出来るだけこの能力の扱いに慣れておかないといけない。

 次に恐竜くんと遭遇したら、いよいよ本番が始まってしまうのだから。


 移動しながらも、常にマップで恐竜くんの位置は確認する。

 私も移動しているが、どうやら恐竜くんも移動しているようだ。それも、こっちに近づいてきている。これは予想が的中しているからならいいんだけど。

 ——ブレスが撃てないから近づいて仕留めてやるギャオ。尻尾の恨みは絶対晴らしてやるギャオ! みたいな。


 ——仮に、これから相手のふところに入れたとして、そこからはどうするつもりなの?


 尻尾はやったから、次は脚を重点的に攻撃するよね。尻尾がまだ残ってたら、まず千切る。

 尻尾を失ったら多分、動きは相当悪くなるハズ。アレ結構長いし、根本の方に切れ込み入ってるしさ。あんな長いのが無くなったら絶対バランス崩すよ。そしたら、こっちにも勝機が見えてくるってもんだよね。


 ——上手くいくといいけど。


 とにかく、戦法としてはヒットアンドアウェイでいこう。攻撃よりも、防御・回避を意識する。

 確実に安全に攻撃が出来るというタイミング以外は攻撃しない。もしもダメージを食らったら、即座に回復する。

 それでもヤバそうだったら、逃げる。


 ——ヤバそうってのは、具体的にどんな時?


 回復アイテムの残数が、想定数を切った時。


 ——その数は?


 残り三つ……いや、二つ。回復アイテムがその数になったら撤退する。

 今は八個だから、残り使える個数は六つか。


 ——今も二割ほど減ってるけど。


 ここは……温存しておく。多分だけど、近くで戦ってる時も直撃さえしなければ、そこまでダメージは食らわないと思う。

 尻尾のは直撃過ぎた。まあ、あの時は、それに加えて地面に激突した分のダメージもあったと思うし。

 ま、ヤバそうと思ったら即使うから。食らう前に使っておけば、ダメージと相殺出来るかもしれないし。


 ——そういうシステムのゲームもあったわよね。ただ、こっちの回復はゆっくりだけど、ダメージもゆっくりとは限らないわよ? てゆうか、多分ダメージは一瞬だと思う。


 まあそうだろうね。その点は、こっちの回復が一瞬ですむタイプだったら良かったんだけど。


 ——まあ、そこまで遅い回復速度ではないんだけど。一瞬の戦闘中には致命的かもね。


 文字通りね。でもまさしく、この回復アイテムが生命線だから、慎重にもなるよ。



 実際のところ、歩きながらもいつブレスが来るかとビクビクしているのだけれど、その後もブレスがくることはなかった。


 そうこうしている内に、彼我の距離が近づいてきている。場合によっては、そろそろお互いを視認出来てもおかしくない。

 私は恐竜くんのアイコンの進行方向から進路を予測して、途中にあるそこそこの高さの瓦礫に登って身を隠した。


 しばしの後、ついに恐竜くんの姿を肉眼で捉える。向こうはこちらに気がついてはいない様子。

 尻尾を確認すると、千切れて無くなっていた。——私をかっ飛ばしたヤツで千切れたのかな?

 そのせいか、恐竜くんの歩き方はなんだかぎこちなく、バランスの取り方に苦労しているように見えた。

 ビンゴ。やっぱり尻尾を失った影響はデカい。さあさあ、そのままこっちまで来い!


 恐竜くんが、私が攻撃出来ると考える範囲に入る。

 私は適当に拾った石を、恐竜くんの向こう側に投げる。石の落ちた音に反応して恐竜くんがその場に止まり、音のした方向を確認し始める。その瞬間に、私も動き出した。

 先に石に反応した恐竜くんは、反対側の私への反応が若干遅れている。

 瓦礫のはしから飛びだす。ちょうど振り向いた恐竜くんの顔に向かって、私は突っ込んでいった。


「ふっ!」


 気合と共に体をひねり、刀を振るう。

 当然、込めたパワーは最大。進む勢いも申し分ない。跳躍の軌道上にあるのは恐竜くんの顔——その片方の眼球。

 刀は私の狙い通り眼球をとらえ、それを一文字に切り裂いた。刃が独特の感触の物体を通り抜ける手応えが伝わってくる。


 すれ違いの刹那にそれは起こり、そして終わった。

 私は刀を振り抜いて崩れた体勢を空中で整えて、着地する。

 そしてすぐさま反転し、恐竜くんに向き直った。


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