ゲームオブザデッド 〜現実にゾンビや巨大怪獣が出現したけど、なんか謎の能力に目覚めたので、とりあえず両方ともぶっ殺していきます〜

空夜風あきら

第一章 1Day——ゾンビ? 怪獣? 〜いいえ、両方出てきます〜

第0話 すべての始まり、あるいは、終わり



 電車がそろそろ目的地に着くことをアナウンスにより知った私は、窓の外に向けていた視線を戻す。


 ——私の名前は火神かがみライカ! 今日は友達と会うために、近隣都市まで電車でやってきたの!


 なんてナレーションを脳内で流していた。いわゆるアニメの第一話的な。主人公がとりあえず自己紹介とかしながら始まっていく感じのやつ。


 ——高校二年生。女の子だけど、好きなことは銃をぶっ放して敵をぶっ殺したり、大きな武器を振り回してモンスターをぶっ殺したりする……ようなゲームをやることなの。キャハ。


 私はイヤホンで音楽を聴いていたスマホを片付けながら、なおも脳内ナレーションを続ける。


 ——趣味は妄想。暇さえあれば、すぐに頭の中で変なこと考えちゃうの。え、今まさにやってるって? そう! その通り!


 いやー、暇な時ってついつい妄想しちゃうよね。

 さっきまでは電車の外の景色を見ながら、高速で走る忍者を地面より高いところだけを走らせる遊びをしていた。

 忍者以外にも色々パターンはあるけど、とりあえず車とかの走る乗り物乗って窓から外見たら、みんなやるよね?


 ——今は高校は春休み♪ でも、春休みってすぐ終わっちゃうよね〜。そしたらもう三年生だし、受験だし、あー、やんなっちゃう(T ^ T)。


 自分でやっといてなんだけど、コイツのキャラ私と全然違うなー。誰だよコイツ。


 ——進路だって全然決まってないのに〜。だってだって、やりたいことなんて全然見つからないんだもん。ゲームやりたい。ずっとゲームして暮らしていきたいな。


 あ、でもなんか、この社会不適合者っぽいところは少し私に似てるかも。


 ——あー働きたくない。ずっとやりたいことだけして生きていきたいわ〜。


 とか思ってたら、ダメ人間の手本みたいなこと言い出した。いや、これは私の本音か……?

 おっと、電車が減速しだした。そろそろお遊びはやめて降りる準備しよ。


 現在この車両に乗っているのは私しかいないので、混むこともないし別にギリギリまで座っててもいいのだけれど、早く降りたかったので、扉が開いてすぐに出られるように待っておくことにした。

 荷物を持って、手近なドアに向かう。

 ドアを開けようとしたら、ドアにあるガラスの部分から見えた向こう側に人が立っていることに気づいた。


 あれ、このおじさんこっちに来るのかな。


 すこし待ってみたが、おじさんは全然ドアを開けようとしない。ドアの前に突っ立ったままで、かと言って離れるでもなく、おじさんはドアの方を向いたまま微動だにせず立ち続けていた。


 え、なんなのコレ? 邪魔なんですが……。何がしたいんだこの人。


 おじさんは帽子を目深まぶかに被っていて表情は見えない。何を考えているのか。

 私が邪魔なのかな。ちょうどドア開けようとしたところに私が来ちゃって固まったとか? にしても、ちょっとフリーズ長くない?


 ま、いいや、どうでも。こっちから開けるから。


 そうして、私はドアを開けた。

 すると、おじさんがこっちに来たので脇にかわす。

 正直、タイミング的にかなり際どかった。ふつーにぶつかりそうだったわ。かなり焦った。

 内心おじさんにイラつきながら、黙っておじさんが行くのを待っていたが、おじさんはなぜかその場で停止した。


 いや、なんなんだよ。そこに立たれると通れないんだけど。


 私がいた車両は、真ん中に通路があり脇に二席ずつ座席のある車両なので、おじさんをけた私は座席の方に押し込められていた。

 そして、通路に出るところにちょうどおじさんがいるので、出られないわけだ。

 なので、おじさんが行ってくれないと私も動けないわけなんだけど、おじさんは肩をゆらゆら揺らしながらその場で静止したままで、一向に前に進もうとしない。


 普段は赤の他人と積極的に会話しない私も、さすがに邪魔なので一声かけようかと思ったところで、おじさんが私の方を向いた。

 私はそこで初めて、帽子の下のおじさんの顔をハッキリと見ることになった。

 なぜなら、基本的に私は知らん人の顔とかマジマジと見ないので。目があったらなんか気まずいし。人見知りだから、私。


 いやいや、そうじゃなくて、おじさん顔色ヤバくね? 顔色ってか、顔がヤバい。

 目が死んでて焦点が定まっておらず、肌はやけに青白くて、半開きの口からはよだれを垂らしている。

 そんなおじさんが目の前に立っていて、私はおじさんが邪魔でどこにも進めない。


 いや、詰んでるじゃんコレ。ボンバーマンで壁と爆弾に挟まれた時の気持ちなんだけど今。

 つかマジでヤバくね? このおっさん何? ヤクでもやってんのか? まるっきりゾンビみたいな風貌ですけど。じゃあ私って被害者第一号——?


 そんな感じのことを色々考えてたら、突然おっさんが私に襲いかかってきた。


 はっ、っ!


 私はとっさに横の座席を乗り越えてのがれる。


 何より驚いたのは、自分がそんな俊敏しゅんびんに行動出来たことだ。それも一瞬のタイミングで。

 なぜそんなことが出来たかと言われたら、直前にまさにそれを予想していたからだった。

 まるでゾンビなおっさん——略してマゾオ、がこのまま突っ込んできたら、私どうしよう? と。

 まあ他に逃げ場がないので、


 ①大人しく噛み付かれる

 ②ヤクザキックでカウンター

 ③座席をよじ登って逃げる


 の三択を作って、私は③かな〜とか思っていた。

 結果的にそれが上手くいった。正直、自分でも上手くいったのはかなり驚いた。

 運動神経は悪くない方だと思ってるけど、「荷物を持った状態で、とっさのタイミングに座席をスムーズによじ登って向こう側に行く」って、地味に難易度高いでしょ。我ながらよく成功したわ。成功してよかった。

 うん、これ失敗してたらどうなってたのよ……怖っ。


 というか、今はマゾオだろ。

 後ろを振り返ってマゾオを見てみると、ちょうど座席から身を乗り出して私を掴もうとしていた。

 これまた可能性として頭の片隅で予想していた私は(振り返って即とかお約束じゃんね)、紙一重でしゃがんでそれをかわす。

 そのまま止まることなく逃亡開始。通路に飛び出す。

 立ち上がる間もなく前進したのでつんのめって倒れそうになるのを、通路の向こう側の座席に手をついて耐える。

 そのぶつかった勢いすら利用して、上手く進行方向へ反発させることで体勢を修正、完全に立ち上がることに成功——すると分かるや、全力でドアに向けダッシュ。

 ドアを抜け、すぐ閉める。

 そして、ガラス越しに向こうを確認する。


 どうやら、マゾオはまだ座席のところにいるようで、死角になって見えなかった。


「……」


 しばし思考する。

 いや、実際には何かを考えているつもりで、私の頭は完全に真っ白になっていた。ただグルグルと、ついさっきまでの光景が頭の中を駆け巡っていた。


 どれくらいそうしていたか。

 ふと、ガラス越しにマゾオの姿が目に入ったところで、私はようやく混乱から立ち直り思考能力を取り戻した。


 あ、えと、どうする?

 分からない、はダメだ。とりあえず考えないと。

 しかし、しかし……。


 再び混乱しそうになったところで、私の脳内にナレーションが入った。


 ——いやいや、ゾンビが出たらまず逃げるでしょ。なに突っ立ってんの? バカなの? 死ぬの?


 めっちゃあおってくるやんコイツ。

 キミはさっきのプロローグガール? キャラ変わってない?


 ——プロローグガールってなんなのよ! って、そんなんどうでもいいから、まずは周囲の確認。それから、すみやかにゾンビから距離を取ること!


 キミ、実は有能だったのかよ。……うん、たしかにその通りだね。

 ゾンビが出たら逃げる。世界の常識だわ。


 すでに電車は止まっており、外に出るための扉が開いていた。

 チラと周囲を見回して、他に人がいないことを確認したら、私は電車を飛び降りた。

 ホームに降り立ち、今降りた電車を振り返る。マゾオは視界には居ない。


 えーっと、それじゃあ、どうするか。


 ——もうここに用はないでしょ。さっさと離れなさいよ。


 えー、でも、いいんかな、離れて。


 ——なんで? どうしてゾンビがいるところに居たがるの?


 いや、そうなんだけど。

 いやいや、ゾンビって。あり得ないでしょ、フツーに。映画じゃあるまいし。


 ——じゃあ、さっきのおっさんは何なのよ? 単に見た目が不健康そうで、いきなり女子高生に襲いかかるだけの普通のおっさん?


 プラスヤク中ってところかな。あるいは発情期の変態。


 ——だとしても、そんなおっさんからは離れた方がいいと思うけど? それとも野次馬根性で見物したいの? スマホで録画でもする? ワタシってそういうタイプの人のこと軽蔑してたんじゃなかったっけ?


 おっしゃる通りでございます。……まあ、自分で自分に言ってるわけだから当然なんだけど。

 そうだよね。ここにいる必要はない。とっとと離れますか。


 私はプラットフォームを抜けて、そのまま駅を出た。

 するとそこには、何てことない、普通に人が行き交う日常風景が広がっていた。

 なんだかついさっきの出来事が、まるで私の妄想かなんかだったように思えてくる。

 あれは本当に現実だったのだろうか……?


 ——何バカなこと言ってるのよ。現実に決まってるじゃない。


 ……キミまだいるのかね。


 ——アンタが混乱してるからでしょ。昔からアンタって、混乱してる時は頭の中に別の自分作って会話することで平静を保つっての、よくやってたじゃない。このごろはあまりしなくなってたけど。


 つまりこれ自分でやってるのよね。それを自分に指摘させるという。

 私は何をやっているんだろうね。なんか恥ずかしくなってきた。


 ——恥ずかしいって何よ。そのお陰で窮地を脱出できたんだから、むしろ感謝しなさいよね。大体さっきの選択肢だって、あれワタシが出してあげたんだから。


 アレあんただったんだ。お陰で助かったよ。まあ、①番はいらんかったけど。


 ——そこは遊び心じゃない。


 いや、遊び心で死んでたらたまらんでしょ。

 ……つーか、私はここに何しにやってきたんだっけか。


 ——あんたバカなの? 真奈羽まなはと待ち合わせしてるんでしょ。


 そうだった、そうだった。まさか到着する前にあんなことが起きるとは思ってなかったから、衝撃で色々飛んでたよ。

 とりあえずマナハスと連絡取ろう。そういや、なんか遅れそうみたいな連絡きてた気がするなー。音楽聴いてたから返事してなかったけど。


 私はスマホを取り出して、メッセージアプリを確認する。

 真奈羽からは追加の連絡は来てなかった。

 私はとりあえず「着いたよ」と送っておく。


 するとすぐに既読がついて、返信が来た。


『マジか、早いな!』『こっちは電車止まっちゃったんだよねー。。。』『てか今電話できる??』


 と続けざまに三つ。

 私は「電話オッケーだよ」と送る。


 すると、すぐに着信が来た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る