夢の中で女の子は盲目。

夜月心音

第一話 夢を見て⑴

「また……」


 少しこぼれた声には覇気がなかった。その声の主は可愛らしい少女であり、絶世の美女。と、まではいかなくてもとても可愛らしい趣だった。容姿が整っていればなんでもでき、容姿が整っていれば全て上手くいくという、最近の風潮があるがそれでも、やはりうまくいかないものはあるもので、肩を落とす彼女は今までのことについて考えていた。


 可愛いと言われていた時。


 目指してることを応援してもらっていた時。


 夢は叶うと言ってもらった時。


 そして、彼女自身が夢を見つめた時。


 ただ、今はそんなことないのだけれど。両親は早く定職に就きなさい。友達はまだそんなこと言ってるの? と。そしてしまいには彼女自身が今その夢をを諦めかけていること。


 選考に落とされるのはこれで何度目だろうか。落とされて落とされて、落とされた。もう何十回と同じような書類を丁寧に心を込めて。そして書くのだ。なのにその紙はシュレッダーの中に消え去っていくのかと思うと、心がキリッと痛む。こんなことになったのは誰のせいかなんて考えていてもしょうがないから、また彼女は彩るのである。


 自分自身を……。


「……仕事。行かなくちゃ」

 時は止まってはくれないもので、時間はどんどん進んでいく。彼女はそんな煩わしさから抜け出したいと思うけれど、怖くてそんなことできはしないのだ。何回か試した左手はもう何もなかったかのように綺麗になっており、いつでもその可愛い顔と一緒に踊れそうだった。努力をたくさんして、手入れだって行き届いている彼女の身体は一般人の誰から見ても羨望の眼差しを向けられそうなものだ。が、それは一般人から見たらだ。業界の人が見たらそれは、複数の1人でしかないのだ。可愛いのが当たり前だから。


 唇を噛み締めるも、先ほど塗ったリップが乾いていないことに気づき慌ててやめた。そして歯についたリップを拭き取り、またリップを塗り直すのである。今日も完璧にいなくてはいけない。この仕事は完璧に演じ切らないとできない仕事だし、彼女自身の夢にも向いている仕事だと彼女は思っている。アルバイト……というよりかは、個人事業主という括りになるのだけど。

 定職に就くことを考えなかったわけではない。ただその機会に恵まれなかっただけだ。先程の書類のように沢山の落選を頂いているだけであり、彼女自身がそう望んだわけではないのだ。


「さて、行くとしますか」

 声を出してみたものの、その声は悲しくも虚しくも、1人だけ残った部屋に響いて、消えていった。

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