第1話花火大会

ふと、ポケットの中のスマホが振動し、僕はスマホを取り出す。

すると、それは幼なじみで、クラスメイトの牧野あかりからの電話だった。

僕はボタンをスライドさせ、電話に出る。


「ねぇねぇこうちゃん、花火大会って誰と行くの?」


出た瞬間、あかりは唐突にそう訪ねてきた。

もうそろそろか、と僕は自分の部屋のカレンダーを見て思った。


「やっぱり彼女がいるもんね、流石に二人で行くよね?」


「いやっ、まあね」


僕は少し照れ臭くなりながら答えた。


僕には付き合って二ヶ月程の彼女がいる。

あかりと同じクラスメイトで、委員長をしている西崎春乃という人だ。

運動も勉強も出来て、皆んなにも分け隔てなく優しい春乃。

僕はそんな完璧で、かっこいいところに惚れた。

だから振られる覚悟で告白したら、奇跡的に付き合える事になって、今になるまで何事もなく順調に交際出来ている。


「私は友達と行く予定だから、二人でラブラブしてきなー」


そう悪戯っぽい口調であかりは言った。

顔がぼっと火照る。


「うるさいなぁ」


そう言った頃には、もう電話が切れていた。


僕はベッドに横になると、「はぁー」と胸を満たす恥ずかしい気持ちに耐えきれず、口から洩れるように息を吐いた。


しばらく経って、僕はすぐに春乃に電話をかけた。


「なに?どうした?」


春乃特有の、落ち着いていて、大人の雰囲気のある低い声が耳に入る。


「あのさ、花火大会一緒に行かない?」


「うん、誘ってくれるの待ってた」


春乃は少し嬉しそうに跳ねた声で言った。


「じゃあ、明日浴衣選び手伝ってよ」


「あ、うん、一緒に行こう」


僕も少し跳ねた口調になる。


「じゃあおやすみ」


「うん、おやすみ」


そうお互いに挨拶を交わして、電話を切った。


しかしその瞬間に、何だか胸が落ち着かず、ぎゅっとお腹が苦しくなった気がした。

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