凍てついて死ぬまでの二週間

エリー.ファー

凍てついて死ぬまでの二週間

「ハンドクリームってさ、どういう観点で選ぶの」

「なんで」

「いや、俺ってさぁ、匂いとかで選びがちなんだけど」

「気持ちは分かるけど。でも、保湿の感じじゃないの」

「保湿の感じって何」

「いや、こう、ぷるるん的なやつでしょ」

「ぷるるん的なやつって、よく分かんないんだけど。だって、どんなハンドクリームでもぷるるんにはなるじゃん」

「そう、確かになる。でも、質が違うじゃん。高級なぷるるんと、低級なぷるるんって存在してるじゃん」

「明確には分からないでしょ」

「いや、明確に分かる」

「マジで」

「マジのマジで」

「どう、分かるの」

「肌に聞く」

「マジでキモいな」

「いや、これが正解だって、どう考えてもそれ以外ないって」

「ないのは分かるよ。でもさ」

「肌が教えてくれるわけないじゃんってことだろ」

「そう」

「俺さ、結構、乾燥肌なんだよね」

「へぇ」

「だから、分かる訳よ。肌の調子がマジでハンドクリームとかにめっちゃ左右されるから」

「まぁ、それならそうか。さすがに分かるか」

「そう、まる分かりよ。まる分かり。特に、こういう宇宙船の中とかだと大体空気が乾燥してることってあるじゃん」

「まぁ、湿度が高いってケースは少ないか」

「そう。だから、結構ハンドクリームとか色々持ってる」

「あ、じゃあハンドクリームとか詳しい方なんだ」

「詳しいっていうか、お前よりは博士かもしれない」

「あ、なんだ。じゃあ、どんなハンドクリームがいいのか、教えてよ」

「いいよ。今度、教えてやるよ」

「でもまぁ、次があったらだよな」

「そんなこと言うなって」

「もう、この宇宙船ぶっ壊れちゃってるしな」

「まぁ。生き残ってるの、俺たちだけだしな」

「酸素は二人分ないしな」

「いやいや、コールドスリープするための装置は用意されてたから、そこにいけば大丈夫だって分かっただろ。コールドスリープ中は必要な酸素の量が減るから、そうすれば二人とも助かるし、コールドスリープしてる側は一年以上は大丈夫だし、どうにかなるって」

「じゃあ、コールドスリープしない側はどうするんだよ。あの装置は一人分しかないんだぞ」

「どうするって」

「一年以上助けが来なかったら、コールドスリープできない側は餓死するしかないんだぞ」

「だから、お前がコールドスリープしろって言ってるじゃねぇか」

「お前こそ、あの装置を使ってコールドスリープしろって。それで生き残れって。俺、お前を危険に晒してまで生き残ろうとは思えないんだって」

「そんなことを言われたって」

「奥さんいるんだろ。子どもいるんだろ。じゃあ、帰ってやれよ。お前の元気な姿を見せてやれよ」

「馬鹿言うなよ。それでお前を犠牲にできるかよ」

 俺はため息をついた。

 どうにかして、相方をコールドスリープさせなければならない。

 これは、俺の使命だ。

 何故なら。

 あのコールドスリープ装置は壊れているんだから。

 起動させたところで生命維持は二週間で止まる。けれど、冷凍装置の方は少ないエネルギーでも稼働し続けるので、中に入れば必ず凍死することになる。

 俺たちが二人ともコールドスリープしなければ、助けが来る前に酸素が尽きることは間違いないし、相方が二週間くらいで凍死をしてくれれば酸素が少しでも多く残るので助かる確率は高くなる。

「お前こそ生き残るべきだって」

「いいや、お前こそ」

「俺は、お前に生き残って欲しいんだって」

「俺の気持ちを受け取って欲しいんだ」

 そう、そうなんだ。相方よ。

 俺は、受け取って欲しいんだ。

 俺が最後にお前に渡すプレゼント。

 凍てついて死ぬまでの二週間。

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