第2話 7月9日月曜日
「うわぁっ!!」
俺は飛び起きた。目の前に迫ってきたトラックの影、体中に走った衝撃と激痛、美鈴の叫ぶ声。すべてがリアルに思い出される。
寝起きだというのに息は上がっており、全身汗でグショグショだ。ドクンドクンと脈打つ心臓の音がうるさい。今まで全力疾走でもしていたかの様な状態だ。
俺は、時計に目を移した。針は6時を示していた。日が差しており朝だと分かる。いつもより、起きる時間が早い。
「雄介ー?起きてるの?」
俺の声が聞こえたのか、母が声をかけてきた。
「起きてるなら早く支度しなさいよ。いつも美鈴ちゃん待たせてるんだから」
「分かってるって」
俺は母の声に対して、小声で返事をし、支度を始めた。
支度をしている間、ずっと頭の中からあの夢は離れなかった。
∞
「雄ー介ー!」
美鈴との待ち合わせ場所に行くと、すでに美鈴がいた。
「相変わらず早いな」
「雄介が遅いんだよ~」
「いや、そんなはずは…」
そう言いながら、時計を見ると、時刻は8時10分。待ち合わせの時間は8時だから。
「10分も遅れてる!?」
「ほら、言ったでしょう?」
美鈴はにこっと笑った。自分は正しいのだ、と言わんばかりに。実際正しいから仕方ないのだが。でも、にこっというより、にやりと顔を歪めたように見えた気もするが…。
なんとなく車道を眺めていると普段よりも交通量が少ないことに気づいた。普段よりも遅い時間だから少ないのかな。10分しか変わらないけれど。
「早く行かなきゃ遅刻だよ~」
いつの間にか美鈴は横断歩道の向こう側にいて、手を振っている。
「あぁ、すぐ行く」
俺が道路を渡ろうとしたとき、今見ている光景とある映像が重なった。
その映像は今日見た夢。
美鈴の叫ぶ声。
迫ってくるトラック。
身動きできずになすすべもない俺。
全身に走る衝撃と激痛。
俺は、足を止めた。
すると、目の前をトラックがものすごいスピードで走り去った。
「あ、危ねー」
「ゆ、雄介!? 大丈夫なの!?」
危うく正夢になるところだった。それにしても、いつトラックは現れたのだろう? 今まで車の気配が全くしなかった。まるで、トラックは突然出現したようだった。
慌てて美鈴がこっちに戻ってくる。
「今、トラックに轢かれて……轢かれそうになった?」
「びびったよ。危うく轢かれるところだったよ」
美鈴はなんだか変な言い方をしたように感じた。しかし、自分の体験したことの衝撃が強すぎてすぐにそんなことは忘れてしまった。
「な、何で避けられたの?」
美鈴は不安げにこちらを見てくる。
「それは…今日、夢を見たんだ」
「夢?」
「そう。俺がトラックに轢かれる夢」
「へぇ~。それはこんな感じかな?」
「え?」
美鈴の雰囲気が明らかに変わった。
今までの不安げな声色から、全てを見透かしたような声色に。
「うわっ!」
美鈴が力の限りで突き飛ばしてきた。
不意打ちをくらった俺はよろめいて、道路に飛び出し、尻餅をついてしまった。
そして、運悪く、避けきれないほど近くに1台の軽トラックが迫っていた。
「嘘…だろ…」
「夢、正夢になっちゃったね」
美鈴は笑っていた。今までに見たことが無いくらいに顔を歪めながら。そんなに顔を歪めないでくれ。俺はお前のそんな顔、見たくない。
「雄介~。いつまでこんなこと繰り返すのかなぁ?」
その言葉を聞いたとき、頭の中である映像が流れた。
それは、何度も何度も俺がトラックに轢かれる映像。
そして、美鈴が醜く顔を歪めながら笑っている映像。
「なんだこれ、夢? ……現実?」
こんなことが現実で起こるはずが無い。現実なら俺は死んでいるはずだ。じゃあ何だ?これは?
「雄介ぇ、また、ゲームが始まるよ?」
美鈴は今だに笑っている。
何だよゲームって、繰り返すって何を、もう訳が分からない……。
「次こそ、上手く生き残ってよ?」
美鈴のその言葉で俺は思い出した。
「これ、何回もやってるじゃん」
そう呟くと、迫ってきていた軽トラックに撥ね飛ばされた。
最後に見えた美鈴の顔は、笑っていた。
だが、その笑顔が少しだけ悲しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。
GAME OVER
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