第22話 授業参観

 親にとっては、普段見ることのない子どもの姿を見られる数少ない時間である授業参観。子どもにとっても自分の頑張りを見せられる時間になるが、嫌いな人も多い。

 終日学校を開放していつでも見て良かったり、一部の時間だけ見て良かったりと、学校によって方法は様々。この学校は午前中に授業を行い、4時間目だけ参観可能となっている。


 ***


 月曜日の朝の会、担任の島田は授業参観の話を始めた。


「今週の土曜日は待ちに待った授業参観だ!」

「待ってませーん」

「誰得ですかー」

「嫌だなぁ」

「土曜日が無駄むだになるー」


 5年3組の児童の多くは授業参観に否定的だった。


「まぁ落ち着けって。みんなの本心は分かってる。指名された時に答えられるか心配なんだろ?」


 図星だったのか、児童たちは口を閉じた。


「まぁ安心しろ。先生にいい案がある」


 期待している顔やそうでない顔が島田に向けられる。


「答えが分かった人は右手を挙げて、分からない人は左手を挙げるんだ。そうすれば分かる人だけ指名できるし、全員手を挙げられるから活気のある授業になるぞ!」


 予想どおりの提案で教室内が静まり返る。


「おいおいどうしたんだ! 名案だと思わないか?」

「そんなの誰でも思いつきますよ!」

「それなーw」

「ていうか低学年向きじゃない?(笑)」

「静かにー! これで解決するんだから別にいいだろ!(笑)」

「「えーーー」」


 不満の叫びが教室を埋め尽くす中、拓真が島田の提案の弱点を突き始める。


「先生、その案だと解決できてないですよ」

「なにっ!? どこがダメなんだ?」


 島田と児童たちが拓真に注目した。


「答えが分かる人が必ずいるという前提ぜんていになってますよね? もしいなかったら全員左手挙げて誰も指名できないっていう異様な状態になりますし」

「あっ……」

「確かにwww」

「本当じゃん」

「あとは答えが合ってるか曖昧あいまいで答えたくない人、そもそも答えたくない人とかも左手挙げると思うので、右手挙げる人がいるのかどうか……」

「いやー、さすがに数人はいるだろ!」

「いたとしても、毎回その数人しか指名しないからなんだこの教師ってなりますよ」

「ぐぬぬ……なら何か他にいい案はないのか?」

「……別にいつも通りで良くないですか?」

「え?」


 教室内の時間が一瞬止まった。


「下手な小細工こざいくいつわりの授業なんて見せてもなんの意味もないですよ。だったら最初からやらないほうがいい」

「私も間瀬君の意見に賛成です」

「えー、木藤きとうさんも!?」

「問題の答えが分からないことにじても仕方ないわ。それよりみんなでうそつくこと自体を恥じるべきよ」

「木藤さんがクマちゃんみたいになってる(笑)」


 拓真と美紀の意見を聞いた島田は考えを改めた。


「……2人の言うとおりだな。俺が馬鹿だった」

「うーん……」

「でも……」

「なーに、俺も緊張するんだ。みんなと同じさ! だからこそいつも通りでいこう!」


 島田の気持ちの変化とともに、児童たちも変わっていった。


「……そうですね!」

「なるようになるか〜」

「先生、当日硬くならないでくださいよ〜?(笑)」

「任せろ!」


 *


 ——授業参観当日。


 4時間目の授業は社会。児童たちの後ろは親でいっぱいになっている。


「今日は雨の中ありがとうございます。皆様には我々のいつも通りの姿を見せられればと思っております。短い時間ですがよろしくお願いします」

「先生なんかぎこちなーい」

「緊張してるじゃん!」

「慣れないことしなくていいですよー(笑)」

「それは言わんでくれ(笑)」

「あははははwww」


 教室内は笑い声でいっぱいになっている。


「よーし、授業始めるぞー!」


 いつもより明るい雰囲気で、いつも通りの授業が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る