第20話 日課

 ある日の朝7時頃、拓真はパンパンになったゴミ袋を持って外へ出た。


「朝から結構降ってるなー」


 天気は雨。気温は18度で湿度は85パーセント。まだ梅雨は明けておらず、朝からジメジメしている。

 拓真はゴミ捨て場にゴミ袋を置き、散歩がてら少し離れた通りに向かった。あの辺は人通りも車通りも少なく、散歩に適しているのだ。


 *


「ここはいつも静かでいいなー」


 拓真は傘に当たる雨音と反比例するような周りの静けさにいやされていた。

 その空気感を味わいながら歩いていると、前からバシャバシャ音を立てて走ってくる人がいた。


「お、海誠じゃん」

「拓真? こんなところで何してんの?」

「散歩」

「こんな雨降ってるのに?」

「まぁたまにはいいかなって」

「ふーん」

「てか海誠こそ何してんの?」

「俺は日課のランニングだよ」

「さっきの疑問をそのままお返しします」

「どういうこと?」

「こんな雨降っててもやるのかってこと」

「あー、どんな天気でも基本やるよ」

「……雷鳴ってても?」

「うん」

「雷神トールかよ」

「なんだよそれ」

「気にするな。じゃあ雪でもやる?」

「やるね。地面こおってなきゃ」

「もう車じゃん」

「どこが?(笑)」

「じゃあ台風でもやるのか」

「さすがにやらない」

「あ、さすがにね(笑)」

「まぁでも家にランニングマシンあるから台風の日でも走るっちゃ走るな」

「いや他の悪天候の時も使えよ(笑)」

「どうせ走り終わったら風呂入るし」

「年間通してランニングマシンの出番少ないな」

「今考えたら確かにそうだわ(笑)」

「マシンが泣いてるぞ」

「マシンは泣かないよ」

「そういうことじゃない(笑)」


 この後も会話は続いたが、5分ほど経って雨が強まりだした。


「うわっ、めっちゃ降るじゃん」

「ほら、マシンの怒りだ」

「んなわけないだろ」

「どうだか。俺たちは機械じゃないから分からないだけかもよ?」

「意味深だな」

「……とりあえず帰ろう」

「そうだな(笑) 家まで猛ダッシュしよ」

「危ないからやめとけ」

「早く帰らないと風邪引くだろ?」

「今さら?」

「じゃあ学校でな!」

「お、おう」


 海誠は全身で雨を受けながら走り去っていった。

 拓真は海誠の背中が見えなくなった後、傘の中棒なかぼうの上部を強く握り締めて家へと戻った。

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