第9話 クラブ活動

 これは転校してから3日目の話である。


 担任の島田が昨日伝え忘れたことがあったとのことで、朝の会が終わった後に拓真を呼んだ。


「なんですか?」

「実はな、この学校は毎週木曜にクラブ活動、毎週金曜に委員会活動があるんだ」

「じゃあ今日クラブ活動あるってことですか?」

「そうなんだ。急で悪いんだが、帰りの会までにどのクラブに入るか決めてくれないか?」

「本当に急ですね」

「すまん、昨日伝えるはずだったんだがすっかり忘れてしまってな」

「まぁ別にいいですけど。ちなみに委員会は決めなくていいんですか?」

「ああ、今のところはどこも人が足りてるからな。ただ後から言われるかもしれないから一応考えておいてくれ。これが委員会の資料な」

「分かりました」

「じゃあどんなクラブがあるか説明するぞ」


 島田が全クラブについて簡単に説明した。


「っとまぁこんな感じだ」

「なるほど。帰宅部はないんですね」

「帰宅部? 帰り方を教える活動ってか? あるかー(笑)」

「冗談です(笑)」

「まぁとりあえず帰りの会までに決めてくれ」

「ボードゲームクラブで」

「早いな! もっと考えなくていいのか?」

「大丈夫です」

「そうか。ちなみに前の学校はクラブ活動あったのか?」

「ありました」

「その時はなんのクラブだったんだ?」

「サッカークラブです」

「ならサッカーのほうがいいんじゃないか?」

「違うのやりたいんで」

「ふーん。本当に運動系じゃなくていいのか?」

「先生、くどいですよ」

「すまん(笑) ただ運動系のほうが人が多いから友達もすぐできると思ってな」

「お気遣きづかいありがとうございます。ただ今は色々経験したいので、ボードゲームクラブでお願いします」

「間瀬はしっかりしてるな。分かった。担当の先生に伝えておくから、放課後、視聴覚室の隣にある空き部屋に行ってくれ」

「分かりました」


 *


 ——放課後。拓真は第2校舎の2階に位置する視聴覚室に行くため階段を下りていた。2階のフロアに足がついた時、後ろから達也が声を掛けてきた。


「クマちゃん! クラブだろ? どこ入ったの?」

「ボードゲーム」

「え、なんで?」

「色々やってみたいから」

「そっか。クマちゃんはサッカーだと思ったんだけどなー」

「前の学校ではそうだったよ」

「やっぱり!? やってそうな雰囲気出てるんだよねー(笑)」

「出てたかー(笑) てか達也はサッカー?」

「そう! ちなみに去年はバスケ」

「聞いてない」

「おい!(笑) まぁいいや。明日から昼休みはサッカーやろうぜ!」

「おう」


 達也は1階へ下りていき、拓真は視聴覚室へ向かった。


「ここが視聴覚室だからこっちが空き部屋か……」


 拓真の独り言が聞こえたらしく、部屋のドアが開いた。


 ガラガラガラ……。


「おっ、君が間瀬拓真くんだね。私はボードゲームクラブを担当する川上かわかみ理香りか。ちなみに1年4組の担任でもあるの。よろしくね!」


 川上は今年で26歳になるが、お淑やかで美しく、見た目は大学卒業時から変わっていない。いつもポニーテールにしており、男子児童に絶大な人気がある。


(あ、昨日の2人の担任か……)「よろしくお願いします」

「申し訳ないんだけど、今日他のみんなが風邪でお休みなの。間瀬くん1人だけだからどうしようか迷ってたんだけど……」

「先生がいるじゃないですか。やりましょう」

「そうね(笑) ちなみに何か経験はある?」

「いえ、特に何も」

「そう。なら最初は何からやりたい?」

「将棋がやりたいです」

「分かったわ。まずは基本的なルールから教えるわね」

「お願いします」


 ルールを教わった後、拓真は唐突にある質問をした。


「先生、気になってたんですけど、この部屋ってただの物置き部屋ですよね?」

「バレたか(笑)」

「古びた物がいっぱい置いてあるんで誰でも分かりますよ」

「まぁそうだよね。でも気に入ってるんだ〜」

「なんとなく分かります」

「間瀬くん、大人だね〜」

「ども」

「じゃあ次は駒の動き方ね」

「お願いします」


 拓真は駒の動きを教わった。そして数回練習した後、川上と一局指した。


 4枚落ちだったが結果は拓真の惨敗ざんぱいだった。


「次は絶対負けないですよ」

「来週楽しみにしてるわね」


 拓真は帰宅後、ネットで『将棋 4枚落ち 定石じょうせき』と検索した。

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