第10話 宿題

 この学校は今年度から教科担任制が導入されている。元々専門の先生が担当していた図画工作・音楽・家庭・保健の4教科に加え、英語・算数・理科・体育の4教科が新たに追加された。担任の負担が減ったのは良かったが、教科ごとに先生が変わるため、児童からの事前連絡が以前よりも難しくなっている。


 ***


 今日の1時間目は算数で、宿題を提出しなければならない。問題は複雑なものが多く、授業前に考えて終わらせられるほど簡単ではない。忘れた人にとっては恐怖である。



 授業開始まで約10分。宿題をやり忘れてしまった達也は拓真に声を掛けた。


「クマちゃん」

「むり」

「まだなんも言ってないだろ」

「どうせ宿題だろ?」

「なんで分かるんだよ(笑)」

「そういう顔してたから」

「マジ? ちょっと鏡見てこよ、じゃないんだよ!」

「ナイスノリツッコミ」

「ありがとう」

「おう」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「いやなんで会話終わってるんだよ」

「え?」

「宿題の話だろ! 頼む、見せてくれ!」

「諦めろ」

「そこをなんとか拓真様! 今日だけだから!」

「はぁ〜、しょうがないな〜」(給食の献立こんだてを見ながら)

生姜しょうがないだけでそんな落ち込む?」

「よく分かったなw」

「ボケそうな顔してたからな」

「俺もまだまだだな〜」

「何目指してんだよ。それより時間ないって! 頼むよ」

「分かったよ。ほい」

「マジでありがとう!」

「次はないからな」

「分かってるって!」


 達也は宿題を7分で書き写し、無事提出することができた。


 *


 1時間目終了後、達也が拓真に声を掛けた。


「クマちゃん、さっきガチで嫌がってた?」

「いや、まぁ、別に見せるのはいいんだけどね」

「え、ならなんで?」

「癖になったらダメだろ」

「そんなんでなる?」

「一度楽した人はまた楽な道を選びたくなるんだよ」

「みんながそうなるわけじゃないだろ」

「そうだけど、どうなるか分からないからこそ、止められる時に止める人が必要なんだよ」

「イケメンかよ」



 ——翌日。

 算数の授業で昨日の宿題が返却され、2人の解答用紙には90点と書かれていた。

 授業後、達也は嬉しそうに拓真に話しかけた。


「めっちゃ高いな」

「結構考えたからな」

「いやーこれで安心だわー」

「それはどうかな」

「え、なんで?」

「一度高得点取るとデキるって思われて授業中によく当てられるんだよ」

「マジか、俺絶対恥かくじゃん!」

「俺は止めたけどな」

「全部写したのが馬鹿だった……」

「お疲れ様です」


 その後、算数の授業で達也は頻繁ひんぱんに当てられるようになったが、徐々に頻度は減っていき、以前と変わらなくなった。

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