第7話 弁当

「みんな弁当忘れずに持ってきたかー? 忘れた人は後で先生のところに来るように」


 今日は給食センターが臨時りんじ休業のため、弁当を持参することになっている。こういう時の弁当は周りを気にすることが多く、各家庭で個性的なものがよく見られる。もちろん全く気にしない家庭もあるが、そういう場合はヤンチャ坊主の標的にされることがまれにある。


 *


「起立、気をつけ、礼」

「ありがとうございましたー」


 4時間目の授業が終わり、班ごとに机を向かい合わせる。

 給食委員の2人が前に出て「いただきます」の挨拶をし、みんなが一斉にふたを開けた。


「わぁー、キャラ弁じゃん!」

「そっちはチャーハンか!」

「オレんちは和風ハンバーグだ〜」

「うちのはオムライスー!」


 各班から声が聞こえる中、拓真の班からも聞こえてきた。


「達也の弁当のおかず全部冷凍食品じゃん! 手抜き弁当かよ」


 このヤンチャ坊主は滝村たきむら豪太ごうた。体型は平均より大きく頭は三分さんぶり。相手の気持ちを考えず思ったことをそのまま言ってしまう、かなりマイペースな性格だ。


「違うわ!」

「嘘つくなよ!」

「嘘じゃねーって!」

「いーや、嘘だね。どれも見たことあるし」

「……」

「ほらな! やっぱり手抜きじゃんか」


 達也が恥ずかしそうな顔で黙ってしまった時、拓真が口を開いた。


「冷凍食品イコール手抜きにはならないだろ」


 豪太は一瞬呆気あっけにとられたがすぐさま言い返した。


「なんでだよ! チンするだけだろ!」

「まぁ作るときはそうだな」

「だったら手抜きじゃん!」

「作る前と後のことは考えたか?」

「は? そんなん関係ねーだろ!」

「あるよ」

「どういうことだよ!」


 拓真は箸を置き、豪太をしっかり見ながら答えた。


「何が好きで何が嫌いか、晩ごはんや朝ごはんと同じにならないか、そういうことを考えてから作ったかもしれないだろ」

「うっ……」

「それに作った後は、どう入れたら見栄みばえがいいか、どう入れたら他と混ざらないか、なんてことも考えてるかもしれない」

「確かに……」

「実際は分からないけど、だからこそ思ったことを考えもなしに口にするのは良くない」

「そうだな……達也、ごめん」

「いいよ」


 拓真は若干空気が悪くなったことに気付き、けろっとした顔で豪太に尋ねた。


「てか豪太って冷凍食品の専門家なの?」

「……なんでそうなんだよ!」

「見ただけで全部冷凍食品って判断してたし、どれも見たことあるって言ってたから普段から研究してんのかと思って」

「んなわけねーだろ!(笑)」

「ふーん」

「おい、自分から聞いといてなんだその反応は」

「ごめん(笑)」


 少し空気が和らいで、みんなが弁当に手をつけ始めた時、拓真が笑いながら口を開いた。


「ちなみに俺の弁当、昨日の晩ごはんの残りを詰め込んだスペシャル手抜き弁当だよ」

「えっ……」


 みんなが一斉に拓真を見た。


「母さんにそう言われたから俺のはガチ(笑)」

「・・・・・・」

「それは手抜きだわーwww」


 さっきまでが嘘だったかのように、班のみんなは大声で笑い合った。

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