第6話 学年集会

 今日は体育館で学年集会がある。この学校では不定期かつ内容を知らされずに行われるため、いつも児童たちには若干の緊張が見られる。


 拓真たち5年3組は最初に体育館に着いた。その後、残りのクラスが続々と入ってきた。


 ガヤガヤガヤ……

 クスクス……

 ……


 全クラスが集まってから3分後、学年主任の尾形おがた正雄まさおが口を開いた。


「はい、静かになるまで3分かかりました。もう何度目ですかね。まぁいいですけど。今日は——」


 今年45歳になる尾形は、キリッとした目に縁なしメガネがトレードマーク。インテリ感漂うが、面倒を嫌うため言動からは適当さが漏れ出ている。


「またこれかよ」

「俺たちはガキじゃねんだよ」

「本当に3分だったのかね」

「だるー」


 児童たちは前にいる先生に気付かれないよう小声で文句を言っている。


「私の話は以上です。では次お願いします」


 5分ほどで話し終わった尾形はさっさと降壇こうだんし、次の先生が登壇した。


「私は明日から1週間出張でいません。なので——」

「最近この学校周辺が物騒ぶっそうなので——」

 ・・・


 何人かの先生が連絡事項を伝え終わり、再び尾形が登壇した。


「はい、学年集会は以上です。4組から順に教室へ戻ってください」


 学年集会が終わり教室へと戻る間、拓真は達也と話していた。


「クマちゃんはさっきのどう思う?」

「さっきの?」

「“静かになるまで”のやつ。いつも言うからさ。前の学校でもあった?」

「あーそれね。前の学校もあったけど、別にいいんじゃない?」

「いやめんどいじゃん、同じこと言われるの」

「言われる側に問題があるからだろ」

「聞いてないやつが悪いんだから多少うるさくても話せばいいじゃん」

「それだと静かにしてる人が損するって。隣がうるさかったら聞きにくいだろうし」

「まぁ確かに」

「それに言ってくれるだけありがたいと思ったほうがいい」

「そうなの?」

「集会が始まるから静かにするってのは言われなくてもできるだろ?」

「だな、俺たちもう小5だし」

「でもその当たり前ができてない人がいる。そういう人たちを助けてるんだよ。中学行くまでに恥ずかしいところ直せってな」

「そういうもんかー」


 話している間に教室に着きそのまま帰りの会が始まったが、連絡事項は集会でほとんど出ていたので5分ほどで終わった。

 いつも通りすぐ帰ろうとした拓真はあることに気付き、達也に話しかけた。


「そういえばさっきいつもって言ってたけどあれ本当にいつも?」

「“静かになるまで”のやつ? 本当だよ。集会ある度に言ってる」

「なるほど。だとしたら俺たちも行動改めなきゃな」

「は? なんでだよ。悪いことしてないだろ」

「うるさい人がいるって気付いてるのに注意してないだろ?」

「まぁそうだけど、それ俺たちのやることか?」

「自主的に行動できるか試されてるんだよ」

「別にできなくても先生が注意するだろ」

「それじゃ子どものままだ。俺たちは大人になろう」

「クマちゃん、お前はもう大人だよ(笑)」


 あれから何度も学年集会は行われたが、“静かになるまで”のやつはもう一度も言われていない。

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